第四節 SCENE-008


 世界樹の代替わりを経て、世界の有り様というものがある程度、解明された世界では、徒人や人外の区別なく、ヒトの霊魂は一度きりのものではなく、漂白を繰り返しながら輪廻することが世間に認知されているし、レナトゥスと呼ばれる前世の記憶を残した生まれ変わりの存在や、その発生条件も判明している。


 徒人がレナトゥスとして生まれる条件は、その霊魂を死後の漂白から守り通すことができるほどの〝力ある存在〟から執着されること。


 必然的にレナトゥスと呼ばれる存在は、当人が前世の記憶を思い出していようと、いまいと、関係なく、生まれながらに人外――それも、死後の霊魂を保護できるほど強大な個体と縁付いている。


 故に。護家ごけと呼ばれる日代ひしろの従家に跡取り娘として生を受けた伊月は、純粋な徒人であることと、純粋な徒人の血を残していくことを絶対的に求められる護家の当主にはなりえない。


 護家八坂を継ぐことのできない自分に、〝八坂伊月〟としての価値はなく。夜毎に山狩をする徹底ぶりで妖魔を排除している隠れ里に、人外と縁付いている己が留まることもできはしない。


 伊月がそんなふうに考えるのは、子供だからと侮ることなく、双子に対して真摯にあろうと努めてきた、襲の教育の賜物・・だった。



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