第三節 SCENE-002
鏡夜の口から求めていた答えが得られたのだと、わかりやすく機嫌を良くした伊月に、鏡夜は手元にあった本を置いてにじり寄った。
冬場は身を寄せ合って暖を取ることも珍しいことではないが、夏の間は暑苦しいと遠ざけられている。
そんな鏡夜が二つ並べた布団の境を越えても、伊月は何も言わずに、寝そべったまま。
鏡夜の行動を咎めようとしない伊月に甘えて、鏡夜は伊月と同じ布団の上に、そろりと体を横たえた。
「(何か嫌なことでもあった?)」
「(そう思う?)」
「(わからないけど……出ていくってことは、そういうことなんじゃないの?)」
「(私が嫌な思いなんてしてたら、鏡夜はわかるでしょ)」
「(だから聞いてるんだよ。君が突然、出て行くなんて言い出したから)」
「(鏡夜もきっと、考えたらわかるわよ)」
「(考えたけど、わからないからヒントがほしい)」
んふふ、と伊月がもらした笑い声で、伊月の〝理由〟がそれほど深刻なものではないのだろうと察せられて。鏡夜は気持ちが楽になる。
伊月のことを自分の中の優先順位第一位に据えている鏡夜にしてみれば、伊月が家を出ようとしている理由が単なる気紛れだったとしても、構いはしなかった。
どのみち、鏡夜は伊月についていくだけのこと。
ただ、もしもそこに、伊月にとってほんの少しでもネガティブな要因があるのだとしたら、その原因に対処しておかなければ気が済まない――そういう性分をしているというだけで。
「(ヒントはなしよ。本当に、鏡夜がちゃんと考えたらわかることだから)」
結局、伊月の口から明かされることのなかった〝理由〟は、双子が一眠りしたあとで、その日のうちに露見した。
吸血竜の青い薔薇 ~転生魔術師は魔王の幸い~ 葉月+(まいかぜ) @dohid
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