吸血竜の青い薔薇 ~転生魔術師は魔王の幸い~

葉月+(まいかぜ)

EP01「目覚め、再会、始まりの晩夏」

第一節「レナトゥスの目覚め」

第一節 SCENE-001


 魔術による補助がなければ、ほんの数メートル先のことも満足に見通すことができないような夜の森を、息せき切って駆けずり回っている最中。

 いったいどうして、こんなにも必死になっているのかと。それまで自らの行いになんら疑問を抱いたことのなかった齢十四の伊月いつきは、ふと我に返った。


(わたし、は……?)


 まるで悪い夢から醒めたような心地がして、はくりと息を呑む。




 見通しの悪い森の中を、ちょこまかと逃げ回る妖魔ようまを追いかけて懸命に駆けていた体は、その瞬間、まるで誰かに背中を押されでもしたかのように加速していた。


 彼我のスピードが伯仲して、あと少しのところで追いつけずにいた狩りの獲物・・・・・に、そうしてようやく、手が届く。


「――聞こし召せ、八坂主やさかぬし


 次の刹那。伊月が抜き放った白刃は、懐から抜き出した霊符れいふごと、地脈の管理者である国津神に断わりもなくその管理地域へと入り込んだ、招かれざる妖魔を切り裂いていた。




 今よりずっと幼い頃から教え込まれ、すっかり体に染みついている慣れた動きを、すらりとなぞる。

 それだけで、事は足りた。



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