能力アフター 超能力戦の傾向と対策

@onaji

第1話 山下しん。

みょうに湿った風が、夜空を渡りみなもを走る。

埠頭に吹き付けるそれは、潮騒をまとい白色、オレンジ、青、緑、

絢爛豪華にライトアップされた、重厚な工業エリアを通り抜けていく。


バスッ、バスッ、

男の持つサイレンサー付きベレッタが、躊躇なく、息を洩らす。

「チッ、、、、」

その弾丸は影のような相手に、着弾したように見えたが通り抜け、工場のパイプを貫き白煙を上げる。

「加速能力者かよ。」

黒背広の男は、いら立ちを隠さず、ガチガチと歯噛みする。

相手、

この、特区の不法侵入者は、身体強化をスピードに特化した機動で、彼、

この都市のガーディアンたる、制定部隊、おぼろ理世を翻弄する。


「ノロマ!理世、工場、壊すんじゃないよ!」

同じく黒ずくめ、黒髪、長髪、スレンダーな美女が、脇を走り抜ける。

「るせぇ詩吟!」


ズダダダ、

回避を予測した、ベレッタのつるべ打ちを難なく回避する、影。

長身。浅黒いスキンヘッド、鼻掛けの丸いサングラスを掛けた敵は、黒い翼を広げるが如く、レザーのロングコートをひるがえす。


奇妙な加速能力者だ。時おり身体の一部を現しながら、変則的な歩法で、おぼろを翻弄する。


奇抜さで言ったら詩吟と呼ばれた黒髪の女性の相手も、負けてない。

真っ赤なミニのドレスから、黒タイツの美脚がのぞく。

真っ白なコートを羽織り、目立つ事この上ない、黒いショートボブの美人である。


「ツッ」

鋭く息をもらす詩吟。

すべてを切り裂く不可視の糸。ナノミクロン超高圧分子の切断糸が高速で女を打つ。

しかし舞うように避ける赤ドレス。

ロングコートの男と同じ歩法らしい。所々身体が霞む。


2組、計4名の超人達の攻防は激しさを増す。


「うっとうしい!」

見かけに寄らず短気な長髪美女が、不可視の切断糸を一気に放出する。

「 百烈斬!」


詩吟を視界のスミに捕えながら、顔をしかめる、おぼろ。

ネーミングはともかく、全方位から標的を捕らえる彼女のそれは、

目標を文字通りバラバラの肉片に分断する。

後処理を考えた場合大変なのだ。


が、ショートボブの女の周囲に突如、水流のラインが迸る。

超高圧の水流。

ウオーターカッターだ。


「どうりで、、、」

うめく、おぼろ。

水流能力者だ。ジメジメと肌にまとわりつく、季節はずれの湿度は、こいつのせいだったのだ。


「あれ、、、」

焦る詩吟。

ウオーターカッターは、驚くべき事に、彼女の切断糸に拮抗し、絡みつき

その運動量を四方に撒き散らす。


グアアアア。


あたり一帯を滅茶苦茶に破壊しながらエネルギーを消費して行く、糸と水流の暴走。

はるか上空からバラバラになったパイプやハシゴ、工業部品が降り注ぐ。


「あれ、、、」

必死に糸を操る詩吟だが、破片、水流を避けながらでは、どうにもうまくない。

「てへ」

ペロリと舌を出す女。

「ざっけんなあああ!何が壊すなだ!テメェエエエ!」

叫ぶおぼろ、めまいのする様な損害を叩き出しながら工業ブロックの一部が半壊していく。


「!」

黒コートの男の目が、笑ったような気がした

刹那、コマ落としの様に眼前に迫る。


ドウ、

「ガッッッ、、、、、」

両手の掌底が、腹部を直撃する。人間離れした耐久を持つ彼にして

経験した事のない衝撃が、ゴムまりの様におぼろを数十メートル彼方に吹き飛ばす。

複雑に入り組んだ配管の中に突っ込んでいく。

トドメに瓦礫の山が降り注ぐ。


「ててて、、、やろお、待ちやがれ!」

常人なら数回は即死するダメージを受けながら、なんとかガレキをはね除け上体を起こすおぼろ。


その視界から2人の男女が消えようとしていた。

追撃は不可能だろう。


「理世〜生きてる〜?」

数分後ようやく、ガレキを乗り越え詩吟が合流する。

「追跡はどうなってる?」

常軌を逸した回復力で、骨折もほぼ完治し行動に支障はない。

「郁代ちゃんが追ってるけど、無理そうね。」

チームのバックアップオペレーターにインカムで連絡する詩吟。


「あんなのが堂々、入り込んでる様じゃ、アルカ自慢のセキュリティも

たかが知れるね。」

「かなりのバックがいるな、IDチップを偽装するなんざ、国家諜報機関レベルだ。」

「やっぱり、開設記念式典狙いかな。、、、にしても、ボロボロね。あんた。」

改めて、おぼろの格好を見て呆れる詩吟。強化した制服がボロ切れのようだ。

「クソが、月齢が満ちてたら、あんなハゲ、一撃なのによ。」

凶悪な目付きをさらに細め、犬歯をむき出しに唸る男。細身の全身から、野生の狼のような殺気を垂れ流す。


凄まじい怒気を全く意に介さずケラケラ笑う女。

「負け惜しみ〜完敗じゃない、理生」


「にぃおおお!テメェこそ、工場被害の賠償で、くくられやがれ!」


「ちょっ!不可抗力よね!フォローしてよー」

青くなる詩吟。男はもう、きびすを返し帰路につこうとしていた。


遠くでようやく、騒ぎを察した警察、消防のサイレンが鳴っている。

対岸に浦安のTDLが見え始める。本土と繋ぐ外環自動車道と東関東自動車道も時折大型トラックが行くぐらいで、車はまばらだ。

夜が明けようとしていた。


ここは、東京湾埋立地、76500haの人工島、東アルカ。人口1000万を越す第二の東京といえる、大都市だ。

その最大の特徴は、ここ百年において、論理、実証された、PSI、超能力の開発、利用、研究、のため、日本で初めて認可された、

超能力者達のための自治特区、である。


しかしその、輝かしい未来の都市、人工島の地下に、人々に忘れ去られた、街があった。


そこに、空は無い。

無造作に伸びた、鉄骨が絡まるように天に向かい、それに赤茶けたツタのよう配管が絡む。

何かの廃棄された地下線路の両サイドに廃墟のようなレンガの建物が並ぶ。

時に置き去りにされたような、地下繁華街だった。無ぞうさに出された飲食店のゴミの山を野良犬がついばみ、撒き散らす。


灯の消えた、古い酒場のドアが軋み、黒いロングコートの男と赤いミニドレスの女がすべり込む。


長身、長い黒髪を無造作に結んだ、青年が迎える。

「散々だったようですね。ジノ。飲み物でも。」

どんよりとした目付き、灰色のセーター、あまりぱっとしない男だ。


「すまないな。ミスター。スコッチを」

男がカウンターチェアに腰を下ろす、体重にイスが軋む。

日本語はあまり上手くない。

「あたしは、ウオッカを、あらた君」

女は流暢な日本語を使う、やはりアジア系の東洋人だ。


「失敗でしたね。エイダさん。あなたの能力は、まだ知られたくなかった。」

精気の無いひとみが、向けられる。

「し、心配性ね、君は、、、ていうか、何故知ってるの?」

ゴクリと息を飲むエイダ。

「あれは、民間の対能力者警備会社、制定部隊の内、アルファチーム、

現在は、欠員がある様ですがおぼろ理生と千里詩吟。」


スキンヘッドの男もわずかに、眉を動かす。

大した情報収集能力だ。

「現場の被害から、詩吟とあなたの能力の衝突が推測されます。」

攻めながらも、慣れた手つきでウオッカをいれる。


「ごめんなさい。気をつけます。」

イジイジとコップをいじりながら謝罪するエイダ。明らかに年下の青年に、頭が上がらない様だ。

「気をつけて貰えれば結構です。」

ニコリともしないで答える青年。


「ところで、学園の方はどう?生徒会長、あらた君」

とは言え、あまり深刻でも無い様だ、気にした風もなく話題を変える女。


が、この時初めて無表情な青年が笑う。


「制定部隊など比較にならない、怪物がゴロゴロしてますよ。計画の前に何とかしないとね。異常ですよ。アルカの天宮学園というのは」

話の内容より、彼の表情に驚くエイダ。

「楽しそうね、、、、あらた」

興味を持ったのか、スキンヘッドの男も話しに乗る。


「炎熱系、アジア最強と評される、野川那智と言うのは本物かね。一年に入ってきたのだろ?」

「へー、なんか渋そうな男子〜」

何を言ってるのかと、女を睨め付けながら、あらたと呼ばれた、青年が答える。

「女性ですよ。」

「あら残念。」


「本物です。アメリカのアリコ.マーレイに匹敵しますよ。冗談抜きで。

厄介な事に。」

少しも厄介では無さそうに笑う青年。

「そ、、、、そう、、、」

曖昧に笑うエイダ。いくら何でも話を盛りすぎだろう。と思ってるのだろう。

事実、能力開発において日本は諸外国に比べ、後進国と言っていい。

今年やっと自国のアルカが認可されるぐらいだ。


「それは凄い。あの戦略級クラスとは、、、」

スコッチを飲み干すスキンヘッド。いい酒のツマミになったらしい。


「学園生活を楽しみますよ。その日までね。そして、この都市は地上から消え去る。

実に待ちきれないですよ。」

青年の隠しきれない狂気が滲み出る。


埠頭を渡る風が、潮の香りを運ぶ。超能力者達の理想の自治特区。

近代科学の結晶たる巨大な人工島。

全ての夢が実現する、メガシティ。

東アルカに朝がやって来る。



「な〜〜〜にが、りそ〜〜の自治特区だ〜〜〜」

朝っぱらからブツクサ言いながら歩く少年。彼は学生のようだ、身長は低い。

少し大きめの白衣姿。ガチャガチャと大きなケースを運ぶ。


アルカ学園区域に1番近い海辺。人工島、外縁部、波力発電システムの敷地内に無断侵入している。

手っ取り早く海水を取るには、ここが1番なのだ。なだらかな段差の先に外周を流れる海が見える。


半分は来ただろうか。冗談の様に広い護岸設備だ。やく2キロ先の防波堤で悪友が手を振っている。何を言ってるのかは聞こえない。

早朝のため、通勤、通学の人もまばらだ、学生も居なくもない。


何故こんなに、広い設備が必要かといえば、巨大可動式フロートなどで、海流をコントロールして、波力発電の効率を上げるためらしい。満水時はここら一帯は海の底だ。


携帯が震える。

立体モニターは出さずに答える。バッテリーがもったいない。


『おーい、しん。調子はどーだー』

「うるさいよ、お前も手伝え。友樹。我らの部室のためだぞ!」

朝の潮風はそれなりに気持ちいい。塩害があるらしが、オレは、川崎方面からの通いなので、どうでもいい。学区の居住区に住めるのは、ある程度の高位能力者たちだ。


自分は増幅能力者だ。天宮第一高等学園、1年。山下しん。ブースター。しかもCクラス。単体では意味をなさず。

能力は微妙。

夢の学園生活はもはや、消化試合になり。4月末、現在はゴールデンウイークを

指折り数えるしか楽しみがない。

全てに置いて能力重視のこの街は、楽しい部活もままならない。


そこで自由に過ごせる自分だけの部活を立ち上げる事にした。


「先生!空いている、謎の準備室を貸して下さい!」

化学室に何故か2つある、使われていない、方の準備室に目をつけた。

自由に使えるマイ部室にするのだ。

「え、え〜ですよ。その代わり、化学部の手伝いをたまにして下さい。」

頭頂部の薄い、白髪の老教師は快よく承諾してくれた。

この化学部も廃部寸前の様なのだが。


で、水質調査を頼まれ、現在に至る。


『知るか〜オレはどーせ幽霊部員だ。部室なんかど〜でもいいわ〜』

なぜか、つるむ様になった、こいつは、只野友樹。

茶髪のメガネ。よくネトゲでチームを組んだりする。簡単なプログラミングなどをこなす、そしてオタク。

こいつに至っては、何の能力か分からないがEクラスと聞いた。

よく天宮に入れたもんだ。

家は千葉方面。木更津を田舎と言うとマジギレする面白い奴だ。


(チクショ〜コイツには、部室を貸してやらん!)

決意を新たに残り半分を走破し、海辺に到着する。

そして、

ケースからボトルを取り出し海水に浸した所で、予測不能な事態に見舞われる。


ウウ〜〜〜〜、


聞き覚えのあるサイレンの音。悪寒が走る。


最悪の事態だ。今日はまだ増水はないはずだった。予定変更は事前に周辺区域に告知される。

少年は知らなかったが、第一工業区で起きた事故。設備の破損。情報の混乱。ついでに、縦割り行政の弊害もつけて。

告知は徹底されなかったらしい。まあ、こんな所に無断侵入する方もマズいのだが。


「ウソだろ!ヤメロ!ヤメロ!ヤメロオオーーーーーーー!!!」


人間の叫びなど、打ち消す響きをさせながら、横浜方面から莫大な海水が怒涛の勢いで押し寄せて来る。

数キロに及ぶ津波は高さは無いものの、実に計算され加速した運動量を持って、人1人など簡単に飲み込んでしまう。


何処まで流されるか、いや後で発見されるかもわからない。

けたたましく振動する携帯を握りしめ、ボンヤリと走馬灯を開始しようとする少年。


灰色の波がひどくユックリと迫る、低いと言っても3メートルは越えている。

悪夢の様な光景だ。

しかし、ここで少年は気づいた。

「これが!ゾーンか!」

いわゆるクロックアップした思考の産物だ。高位能力者は自在にコントロール出来るという。

ああ、なんて超能力者っぽいんだ。感涙にむせぶ少年。


「何、喜んでんのよ。気持ち悪い。」


上空より声がかかる、


飛行能力者だろうか、かなりの距離のはずが、何故か彼女の声は鮮明に聞こえた。


(助けに?、、いや)

(逃げろ!間に合わない!)

思考に肉体が追いつかない。

「に、、、、、」

やっと声が出た時、前方が眩い炎の輝きで包まれる。


「エクスプローーージョン!」


脳内を走るニューロンが光速を突破し想定されるn次元に干渉しエネルギーを抽出する。

それによる、様々な奇跡が超能力とされる。


彼女のそれは、炎熱系初歩の力の行使だが、規模が普通じゃない。


一瞬で小型の炎球が数キロに渡って生み出され、莫大な水量に激突。


水蒸気爆発の連鎖による大爆発が起きる、しかし、計算された威力は波力設備を傷つける事なく、広大な津波のみを押し戻す。

文字どうり海原を穿つ能力だ。防波堤で目撃した友樹は腰を抜かしている。


その間に少年のえり首をつかみ、対岸に飛翔する少女。

よく見ると、身体のあちこちから炎が吹き出している。高機動飛翔を可能とする姿勢制御バーニアだろう。何げに恐ろしい演算力のタマモノだ。


眼下にやっと戻る事を許された海流がしぶきを上げ、朝日に七色の虹をかけ流れていく。

それを渡る二つの影。


フワリとした明るいブラウン、ウエーブしたセミロングの髪。

少しキツめだが、深いトビ色の瞳、整った目鼻立ち。身長は170弱、少年より頭ひとつ高い、発展途上だが、抜群なスタイル。

文句なしの16歳の美少女。


彼女が日本能力者最高教育機関、天宮学園、アジア最強を謳われる炎姫。

炎熱系トリプルA、野川那智である。



対岸に視点を移すと、これもまた、豪華なメンバーが事件を目撃していた。


「風紀の那智さんですわね。」

ゴールドの髪がゆるやかなロールを巻いて、水しぶきに輝く。

北欧系の血が入った透き通る様な碧眼、その美貌は芸術の域に達する

瀬里奈.S.フィールズ。

天宮、生徒会、副会長である。

「ハイ、お嬢様。もう少しお下がりを。」

長身、濡れるような黒髪、並の女性では霞んでしまうほど美しい男子学生がさりげなく、少女をガードする。

生徒会、書記、椎名 葵である。


その向こう、やや離れた所に、巨大な体躯、武骨そのものの学生。

もう1人の副会長、風祭 塔也

そして、しっとりとした、小柄で控え目な美少女

書記補佐である、凪 早苗

二人の姿がある。

奇妙な事に二人の視線は、事件より、瀬里奈と葵。

正確には瀬里奈を捉えて続けている。


4人はもちろん、他にも高レベルな能力者はいた様だが、

この事件の本質を理解していた者は、多くはない。


「あの子、、、どうして、、、」

瀬里奈はここまで、ていねいな能力の行使を見たのは久しぶりだった。


『しつれいしまーす!』

先輩に連れられ生徒会室にやって来た、元気な少女。

高位能力者は生徒会、風紀の役職持ちになる習えで当然彼女、野川那智も

風紀委員に抜擢されたらしい。


輝く様に明るくほがらか。能力は本物だが、少し短気で、直情傾向。

もっというと、結構おちょこちょいな所がある。


失礼な話だが、その彼女が、ここまで繊細かつ、デリケート。計算され尽くした能力行使が可能とは思ってもみなかった。


瞬時に生み出された炎球達は、それぞれに、指向性を持たされ、水流の運動エネルギーをコントロールし、一時的排除のみを可能にした。

とはいえ、那智にもリスクがない訳ではない。

イレギュラーな水流に呑まれる事だってありえるのだ。


簡単な方法は、高機動で被害者を退避させる事だ。

能力ブーストされた那智ならば、可能なはず。


しかし、一般人がそのスピードにさらされた場合ケガをする可能性がある。最悪、骨折くらいするだろう。


となると、要救助者のために、彼女はそのリスクを負ったわけだ。


ゆっくりと、虹を渡る少女。

あつかいは、雑だが、えり首を掴まれ運ばれる少年。


瀬里奈には、

その姿が、ひどく、やわらかく、やさしいものに、見えた。


が、次の瞬間、信じられない事を聞く。


「山下、、、、しん、、、、どうして、、、、」

近くの少女がつぶやくのが鮮明に聞こえる。


白銀のショートボブ、小柄で華奢だが、スタイルはいい。

冬木リン。

那智とよく、行動を共にする、風紀委員の一人だ。


彼女はAクラスの受信型テレパス。

あの少年の身元をサーチしたのだろう。ヒドく無口な少女だ。

瀬里奈は彼女の声を聞いたのは初めてかもしれなかった。


しかし、今はそれどころではない。

「山下しん、、、?」


『瀬里奈!』

木漏れ日の中で満面の笑みを浮かべる男の子の姿が

フラッシュバックする。


「捕えます、、、」

制服の袖から、琉球古武術の武器。サイが滑り出る。

「ま、待ちなさい!葵!」

何故か瞬時に完全戦闘モードに移行する生徒会書記。

普段、冷静沈着な彼がここまで感情を剥き出すのは珍しい。相当、苛立ってるようだ。


ここは、防波堤の少し高台にある、通学路に面した水上公園、

路肩には瀬里奈と葵が乗ってきたリムジンが止まって待っている。

かなりの野次馬が集まって来ていた。


其処へ上空より降りてくる那智、リンがいるからだろう。が、当然、拍手、喝采の大騒ぎになる。

学生やサラリーマン達。写真を撮る者。ネットにあげる者。今の天変地異を興奮して話あう者。収拾がつかない。


が、お構いなく少年に近づく葵。一撃入れて拉致るつもりだろう。

(あなたの一撃は死んじゃうから!)

「やめなさい!あお、、、」

必死に叫ぶ瀬里奈だが、時すでに遅し。

高速機動に突入する葵。


「え、、、なに?」 

ア然とする少女。

人混みに紛れて、なぜか山下しんは、那智からかなり離れている。

そこへ襲いかかるカゲ、

彼女だからこそ、かろうじて、その姿を認識できる。


手首のスナップで回転する、奇妙な武器。それが滑らかに、少年の首筋を打つ。

流石にグリップの方の打撃だ。


しかし、その身体はゆっくりと方向を変え、こちらへ


ダン!


「この、、、!」

大の男が吹き飛んで来たのだ。少女が身体強化を駆使しても、エネルギーを相殺できるわけもなく、後方へ。人々にもつれあって、尻もちをつく。


那智に抱き抱えられた葵は、状況が把握できない。

「なん、、、だ、、、、」

何かの体術だろうが、はるかに自分より遅い相手に、武器と腕を掴まれ

いなされたのだ。

実際相手の動きは止まって見えていた。

わけがわからない。

凄まじい自分の速度のまま、崩され投げられる。


人々がパニックになる。いきなり、男が飛んで来た様に見えただろう。


「野川氏、野川氏!」


葵と人々に絡まる那智に声をかける少年。

「サンキューな!助かった。礼は後で必ずな!」


そして、おそろしく素早く人混みに紛れていく。

「ま、、、待ちなさい!」

ジタバタするが、どうしようもない那智。


あいつは、自分を知っていたたようだが、わかっているわけではない。

「もおーーーーー!」


《はい、そこまでですわ!》

パンパンと手を叩く瀬里奈。


《みなさん、すみやかに学校、職場に向かって下さい。遅刻しましてよ。》

瀬里奈.S.フィールズ。

彼女は発信型テレパスのAクラス。


その気になれば、大群集、大軍隊も意のままに煽動できる。

ある意味もっとも恐ろしい能力者だ。


公園内の人々が何事もなかった様にゾロゾロと移動を開始する。

不気味な光景と言える。


彼女の力に対抗するには、同じくAクラスの精神強度を持たなければならない。


これは冬木リンにも当てはまる、Aクラスの心はサーチできないのだ。


「なにをやってますの?葵!あなたらしくもない。」

「す、、すみません。お嬢様。」

那智に謝罪し、なんとか立ち上がる葵。顔面蒼白である。

彼女が受け止めなければ、ケガのひとつもしたはずだ。


「上等じゃん。あのバカ。人をクッション代わりにして〜」

腕まくりの那智。追撃戦である。


「お待ちなさい!」

「ギャフ」

今度は少女がえり首を掴まれる。

「波力発電所、警察、モロモロ関係機関に事情説明ですわ。」

「副会長〜〜〜。」


ズルズル引きずられてく那智。

彼女でも苦手の人間はいるらしい。



天宮高等学園、

広大な研究教育設備地区にあって最大規模を誇る教育機関

中心に天宮中央大学を置き

東西南北に中高一貫の天宮第一から第四の学園がある。

カレッジハウスと呼ばれる学生寮を完備し、生徒をサポートする。

公的研究機関、研究工業施設。ハイテク部品工場などの施設が、周りを固めている。

能力リテラシー研究の最先端を行く学園である。


天宮第一学園 生徒会室、


「那智君が波力施設の増水を吹き飛ばした、、、、」

小刻みに肩が震える。笑いをこらえている様だ。

ヒョロリとした長身。後ろで無造作に括られた黒の長い癖毛。

生徒会長、不知火あらた。


瀬里奈には、この人物が、今ひとつ理解できないでいた。

一見すると生気のない死んだ様な目の冴えない青年だが、ポイントを押さえた発言。

リーダーシップ。時折りみせる才覚は、周囲を魅了する。

学力優秀。能力はかなり特殊な炎熱系のAクラスらしい。この立場に遜色はない。


しかし、

自分には冬木リンほどのサーチ力はないが、それでも、底の見えない違和感が

彼から感じるのだ。それは、1年の時、生徒会で初めて出会ってから今まで、いまだ拭えてない。


「フフフ、すごいな。それは、みたかったね。」

4階の窓には、左に校舎、グラウンド、向こうに緑豊かな公園。様々な研究棟。

住宅区。そして海を挟んだ川崎側の対岸が霞む。


「笑い事じゃありませんわ。一歩間違えば、大惨事です。」

「人助けだろ、大目にみようよ。」

ゆっくりと窓辺を離れ、執務用の机にすわる。


その前に瀬里奈。左後方に葵が立ち

その後ろ、大きな会議用のテーブルにそれぞれ、風祭と凪が座っている。


「それより、その不法侵入していた不心得者。逃げたんだって?

君たち4人がいて。」

面白そうに笑う、あらた。


「え、、、あ、はい。」

いいよどむ、瀬里奈。

言われてみればそうだ、ありえない話なのだ。

自分は彼の存在を知って動揺していたのだろうか。

いや彼の逃亡を助けたかったのか、、、、

わからない。


「く、、、、」

葵にいたっては、まったく立つ瀬がない。


「この学園は、面白いね」

楽しそうな生徒会長。


数日後、

部活練3階、化学室のとなり、使われていない準備室、


「フン、、フフン、、、🎵」

その後ミッションコンプリートして部室をゲットした

少年の後ろで楽しそうな鼻歌がきこえる。


「今日も元気だねー。」

暖かな窓辺に並んだプランターに話しかける少女。

向ける手の先に細かな水玉が霧の様に植物達に降り注ぐ。

みず希しずく。

水流操作能力者だ。Dクラス。ささやかなもんだ。


オレの家、川崎の七合土手のお隣さんの少女。

オレが越して来た中1くらいからの付き合いだ。

オレより少し背が高い。前髪が長く、瞳が隠れ、表情がよくわからん、ポニーテールの

妙にオドオドした、地味子さんだ。


となりの天文部からよく遊びにくる。

部室が殺風景だと、植物栽培を始めた。バジル、タイム、ラベンダー、とハーブ系を育てて料理に使うと言う。


モンスターとバトルを繰り広げる

目の前のパソコンがなんとなく、しっとりとして来る。湿気は精密機械には百害あって一利もない。

やめて欲しいものだが、彼女にこの準備室の存在を教えてもらった手前あまり文句も言えない。


「しっかしお前、よく逃げられたな〜」

前の方、並べられた長テーブルの左側にちゃっかり、自前のパソコンを持ち込みネトゲに興じる友樹がいる。

先に逃走したクセに。と思う。一応、オレが助けられたのを確認はしたらしい。

「余裕よ、余裕。」

画面のモンスターは意外と強い。


とは言え、あの時、襲いかかってきた男。

たまたま、上手い具合に思考ブーストが掛かっていたため、偶然さばけたのだ。普通なら脊髄に致命傷を喰らっただろう。

生徒会には随分凶暴な人間がいたもんだ。

椎名葵、自分にしては珍しく男の名前を覚えている。


「ねえ、しん。それで、ここは何の部活なの?」

手を拭きながら思い出した様にたずねるしずく。

右手前に座りながら、頼まれもしないのに持って来たティーポットセットで入れたミルクティーをすする。


「よくぞ聞いてくれた!!」

ドカン、

と立ち上がりついでにパイプ椅子に、乗り上げる少年。

「わ、わ、」

驚いて紅茶をワタワタする少女。


「全てを含み、内包する所!何をするも自由!

オールラウンドクラブだ!」

ビシ、と訳のわからないポーズを決める少年。華麗に白衣がひらめく。


全く興味なさそうに友樹

「ああ、オーランサークルね。」

パンと手を打つしずく。

「行き場のない人が行き着く終着点。」

妙にナットクしている。


(ううう、うるさいよ!地味子さん!変な事にくわしい奴だ!)

変なポーズのまま硬直する少年。

「ウハハハハハ!と、、、言うのはウソだ!」


「誤魔化した、、、、」

ボソリと友樹。


「ここは、超能力の輝く未来を考察、探求する

超能力研究部だーーーだーーーだーーー」

別の変なポーズに変わりながらのセルフエコー。


「それなら、能力アカデミー部があるだろ。」

にべも無い友樹。

「いい〜〜〜〜だろーーが!昔はこの手のウロンな部活が一杯あったろーが!」

ちゅどーん、

モニターのマイキャラが息絶えている。

「あああ!フォローしろよ!友樹!!あああーーーー!」

デスペナルティーが恐ろしく厳しいゲームなのだ。

「知らんわ。」

鬼畜な茶髪メガネだ。


「そういや、能力アカデミーったら、まあた、性懲りもなく生徒会に挑戦したらしいな。」

とくに気にした風もなく、話題を変える友樹。

「バトルゲームか。」

渋々座り直し、ゲームキャラの蘇生を始めながら応える、しん。


なんだか、超すごいコンピュータによって、超能力者をスキャン。

そのデータを使って仮想空間で、超能力バトルをシミュレーションするのが、バトルゲームだ。

もとは米国の軍事戦闘シミュレーションがベースになっていて、

3D映像環境があれば、映画さながらの迫力の観戦ができ、世界的な人気を誇る。


各国、国民的なスターを有し、最近、遅ればせながら、日本でも始まった。

学園のカリキュラムにも当然、組まれ、推奨されているが、

有名なのは、年に1回開かれる、中高合同天宮四高戦だ。

去年の大会、生徒会は参加がなかったが、中坊で出場した、野川那智が個人戦だが優勝し、その高いポテンシャルを見せつけた。


「ムダなこったな。」

つまらなそうに、しん。

「能力の高いのが、生徒会、風紀に集まるようになってんだ。能力アカも悪かないが、相手になんねーよ。」

「それでも、善戦できりゃめっけもんだろ。内申も部の評価も。見てみよーぜ!」

いそいそと、3Dプロジェクターを3台、用意しだす、友樹。

フル3Dで観戦する気らしい。


なぜか、クッキーを出してくる、しずく。分けてはくれないが。


長テーブルを二つ並べたテーブルの先に、3メートル四方の映像が構築される。


ワアアア、

学園、第一アリーナにはかなりの生徒達が集まっている。100×100とサッカー場が収まるフィールドに、巨大な立体映像が抽出される。

スーパー凄いコンピュータによる、シミュレーション映像だ。


フィールド設定は廃墟のようだ、焼けるような日差しに、何車線におよぶ、荒れ果てた道路、伸び放題の街路樹。崩れた高架。廃ビルが照らされる。


その乾いたアスファルトの上に、ひとりの女生徒の立体映像が現れる。

サービス満点に、映像はズームし彼女。野川那智を映し出す。


ワアアア、

盛り上がるアリーナ。彼女の場合、女子の応援も多い。


生徒会室では、3Dでは無いが、ホワイトボードにアリーナの映像が映し出されている。

「那智ひとりで大丈夫かしら。」

誰に問うでもなく、つぶやく瀬里奈。

会議テーブルの彼女の隣では、葵がノートパソコンで書類の整理をしている。


「相手にAクラスはいない。瀬里奈君が出たら、あっという間に終わってしまうよ。」

淡々と応えるあらた。黒い役員用の机で、やはり事務作業をしている。


部屋にはこの三人しかいない。他は隣の会議室で作業をしている。


「我が学園の久びさのスターだ。アピールしてもらわないとな。」

まるで感情のこもらない声。

逆に言えば、Aクラスにとって、瀬里奈は脅威にならない。

ゆえに、データの少ない野川那智の対応力が観たくて、彼女を指定したあらただった。


アリーナ、スキャンルームAにはゲームセンターのような筐体のひとつに那智が座っている。

ヘッドマウントデスプレイをかぶり、全身をモニターされている。戦闘機のコックピットのようでもある。


これにより、リアルタイムに彼女の能力がフィールド場にシュミレートされる。

演算するのは、月の量子コンピュータ、アダム。世界の根幹を成すシステムだ。


隣りで、冬木リンが、彼女を見守る。表情からは、何も読み取れないが。


超研部(仮)

では、少年がパソコンのモニターで相手チームの編成をチェックしている。

「お〜。サバゲ部と能力アカデミー部の共闘か。構成はサバゲ部20人。アカデミーから、武術部門八人。ゴーレム使いがひとり。」


アリーナスキャンルームBには、計29人がスキャンデバイスの中にいることになる。


「野川さん、ひとりで相手するの?」

同年代の少女だ。当然の心配をする、しずく。


「問題ないだろ。まあ、観てろよ。」

軽く請け負う、しん。

「シミュレーターって、実銃、登録できんだろ。」

食いつく友樹。

「ああ、当然、サバゲー部は、モノホンのアサルトライフルやマシンガン、なんでも使うだろうな。」

「いいな〜〜。」

実際のガンファイトが体験できるのだ。羨ましがる友樹の気持ちもわからなくもない。


「そんな、、、、無茶苦茶じゃない、、、!」

悲鳴を上げるしずく。


戦闘シミュレーションが、始まった。


バララララ、

同時に、耳をろうする銃声の嵐が、フィールドに響く。


事前に周辺の廃ビル、高架橋に潜んだサバイバルゲーム部が、

M−16からM−14、AKー47からAKー74。数十のアサルトライフルから、NATO弾を狂ったように撒き散らす。

更には、複数の固定されたM2重機関銃が、絶大なストッピングパワーを誇る12.7㎜弾をたった、ひとりの少女の肉体を粉砕すべく集弾する。


「あ、、、、あ、、、」

絶句する、しずく。もはや、那智の姿は見えない。凄まじい砂ぼこりで車道は霞んでいる。

「おー。怪獣退治かよ。」

興奮するしん。自衛隊の集中砲火でも、想像してるのだろう。

「楽しそーだな。」

思わずため息を漏らす友樹。サバゲ部は全弾、撃ち尽くすつもりらしい。

耳をつん裂く銃声がいつ果てるともなく続いてゆく。


毎秒100発、毎分6000発の発射速度を誇るM2がついに、全弾を吐き出す。

標的が人間の場合、痛みを感じる前に、粉々に引き裂かれるという。


荒い息と共に立ち上がるサバゲ部、部員。足もとには、当たり一面に薪散った空薬莢。

むせ返る硝煙。痺れる両手。恐るべきリアリティにゴーグルをずらし目を擦る。


ビルさえ粉砕するエネルギーが、アスファルトを無残に削る。

しかし、彼らは薄れゆく砂埃の向こうに、信じられないものを見る。


「え、、、ええ?」

あっけに取られる、しずく。


三角錐の炎の壁、その表面は高速で流動しているようだ。その中心に霞む少女の影。


「カッケ〜〜ふぃんふぁんねる、バリアーや!」

妙に目をキラキラさせて喜ぶ、しん。


どうやら、那智は炎の壁で銃弾を防いだらしいが、どれほどの熱エネルギーがそれを可能にするのか、誰も信じられないだろう。


「まあ、大体ここらかな。」

のんびりと、エネルギーの収束に入る那智。

着弾から、敵の位置を逆算したらしい。小型の爆炎なら、数キロに渡ってばら撒ける彼女だ。

問題なく数百メートル内に潜むサバゲ部を一掃する。

廃ビル、高架橋が次々と吹き飛んでいく。彼女からしたら、のんびりと、だが、一般人の彼らからしたら、一瞬の内の全滅だろう。


「しょせん!牽制よ!」

炎の壁を解いた彼女に、屈強な大男達が襲いかかる。

幼少より、鍛え抜かれた拳と技。

それが、能力によって、スピードもパワーも倍増される。

能力アカデミー部の武術部門の精鋭。超実戦空手部の手練れ五人が

必殺の連携をもって可憐な少女を襲う。

まるで、爆発のような、裂帛の気合が炸裂する。


しかし、彼らは気付いていない。彼女は油断をして、障壁を解除したのではなかった。

向かってくる彼らに気付いて炎を収めたのだ。そのままだったら、彼らは壁に触れて焼失していただろう。


結構、付き合いのいい少女だった。


スチャッ、と変な構えで五人を迎え撃つ。

「来いっ!」

能力ブーストによる、格闘戦はカリキュラムでも一応あるが、その姿は護身術を少しかじっただけの素人女子だ。それでもマジに徒手空拳で、彼らに対するつもりらしい。


男の正拳突き。

「せいやあああああああ!」

鈍器の様な拳が、1225 km/hを突破、文字通りのソニックブームを爆発させて、人体を破壊する。

人中、喉仏、みぞうち、脊髄、後頭部、五方向からの回避不能な連撃。


「、、、、、、!!」

手応えが無い。少女の姿はそのまま、回避の空間など無いのだ、しかし拳が届かない。

鍛え抜かれた直感が異常事態を警告する。

離れろ。一刻も早く。


「ていやああーーー!」

気の抜けたかけ声と共に、少女の空手チョップがヒョロヒョロと彼らに向かう。

五人にしてみれば、悪夢の様な、永遠に感じるコンマ数秒だった。避ける事も、受ける事もできないのだ。


ポテッ、とヒットする。


瞬転、


ズガガガアアアンン、

五人の大男が音速で四方に吹っ飛んでいく。


そこからは、もう一方的だった。


閃光の居合の達人も、三節コンの槍術使いも、暗器使いの古武術家も

ヒョロヒョロの那智チョップの前にあえなく一方的に敗れ去る。積み上げた鍛錬の日々も信念もプライドも何もかも粉微塵にぶち壊されて。


「ふんす!」

スチャッと得意げに、変なポーズを決める那智。


「う〜ん。酷いな。」

流石にあきれる、しん。

「凄い、、、Aクラスってこんなに違うの、、、、」

同年代の少女が、別の何かに見えてしまう、しずく。

「あれは、別格だろ。AAA評価ってのは、実際、別次元だ。」

そう言う少年もかなり、ビビっているようだ。


「み、、、み、み、みみ見事だ!那智くん!」

中学生の様な小男が崩れかけの高架の上に、姿を現す。

能力アカデミー部の切り札の様だが、顔色が真っ青だ。


「だが!私のゴーレムは無敵無敗!勝負だ!とう!」

高架から飛び降りる男。

ズモモモモ、

彼を銀色の液体が包んでゆく。


ワアアア、

再び湧き上がるアリーナの歓声。


ズッドオオオン、

少女の前に、10メートルはあるだろう、銀色の巨人が立ちはだかる。


「我がG−1000は液体金属のゴーレム!どんな衝撃も破壊はできない!フハハハハハ!」

上の方から高笑いが響く。

よく見ると巨人のひたい部分に男の顔が浮かび出ている。


「なんか、やだなあ、」

相手にしたくないタイプと思う那智。


「、、、、、」

口をへの字にして、いやああな顔をしている、しん。

「な、、、なんかすごいよ!しん!ねえ!」

いつの間にか隣に来てウデを引っ張る、しずく。銀のロボットにテンションが上がってるようだ。


「最悪の相性だ。」

「??」

首を傾げる少女。

ほんとに、嫌そうに解説を始める、しん。

「しずく、ターミネータO 2って昔の映画知ってる?」


「ん、、、?シュワちゃんの?」

見た事はあるらしい。途中で、ああ、成る程、と理解する。


「ボイル!」

那智の炎熱能力が一瞬にして、地上、数十メートル四方を灼熱の溶岩に変える。


「何!ヤメロおおお!ウワアアアアア!」

ブクブクと溶けながら銀色の巨人が溶鉱炉の海に沈みだす。


ボコボコと変形を繰り返しながらのたうち回る巨体。


「な〜んちゃって!」

しかし、ニヤリと笑い、

「脱出!」

額から抜け出そうとする小男。上半身が出てくる


「とー!」

上空に退避していた、那智の急降下キックが男の顔面に炸裂。

「ぎゃああああ!」

銀色の液体に沈んでいく男。


「、、、、」

那智も映画を知ってるのか、と、どうでもいい事を考えながら、陳腐な最後をながめている少年。

「ああ、アイル、ビー、バックになってる。」

すごすごと自分の席の戻るしずく。


映像は溶岩に溶ける銀色の手が、サムズアップする所で終了する。


ウイナー那智 野川 の文字が鮮やかに表示される。

それでも、盛り上がるアリーナ。

なんでもいいのか、コイツらは。


「はい、終いだ。終い!友樹、片せよ。」

「うえ〜〜い」

プロジェクターを片付けだす、茶髪メガネ。

全員、毒気を抜かれたようだ。

なんの事はない。少女が強すぎたのだ。戦いになっていなかった。


「う〜〜〜〜ん」

紅茶を飲みながら、気を取り直す、しずく。


「そういえば、ここ。顧問の先生は?やっぱり、化学部の?」

話題を変えようと思ったのだろう。


「うんにゃ。保健室のセンセーが引き受けてくれた。入学の時の検査から何かと親切なんだ。」

再びネトゲを立ち上げながら、答える、しん。

「そして!同じ白衣コスの同士だ!」

快心のドヤ顔、


「ふーん」

表情は判りにくいが、なぜか、不服そうな少女の声。


「あれはコスプレではない」

と誰も突っ込んでくれない。

一拍おいて、

「あの、綺麗な先生、、、よかったね〜」

ニコニコしながら、片付けを始める。しずく。


「あ、おい。まだ、」

飲みかけのコーヒーをもってかれる。

「片付かないでしょ。私、そろそろ部活に戻るね。」

笑顔。

「おい、、、」

隣接している天文部の準備室から帰ってしまう。


「なんだありゃあ!」

憮然とする少年が、冷ややかに自分を見つめる悪友に気がつく。

「おい、なんでお前、飲み物!」

彼の物は片付けてられてはいない。

無視してコーヒーを飲む友樹

「お前どこのラッキーマンだよ。保険の野川先生ったら、教員人気ナンバーワン。

オアシスの女神さまだぞ!」


こいつも中々この手の情報に詳しい。

「それに、しずくちゃん!あの子も磨けば光る、隠れた逸材だ!なんで、こんな奴に、、、、」


なにやら、ブツクサ言ってるが、

「ラッキーなわけあるか!マジで死にかけたんだぞ!走馬灯なんか初めて見、、、」


思い出す。

空を舞う、しなやかな少女

そして、ついさっき見せ付けられた、圧倒的、戦闘力。

野川那智。


同じくブラウンだが、落ち着いた少し長いソバージュの髪。いい香りの大人の女性。

保険医の野川智由先生。


「そういや、どっちも、野川か、、、、まさかな。」

考え込む少年。

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