『老人とスマホ』

やましん(テンパー)

『老人とスマホ』


 そのスマホリストは、67歳になっていた。


 まだ、老人としては見習いくらいだが、仕事はとうに辞めてしまっていた。


 晩年には、職場は病気したあんたが悪いといい、老人は職場の在り方がめちゃめちゃだと言った。


 折り合わなかったから、仕事を諦めた。


 結果的には、いまや、収入の道は、わずかな年金しかない。


 社会的には自業自得といわれても仕方がない。


 しかし、その老人はすでにスマホを使っていたのである。


 なぜだか分からないが、企業も行政も放送局も、影に日向にスマホを所持するように勧めているように見受けられたのである。なにごとも、どういった仕組みかは、老人には、なかなか分からない。


 若い人たちは、日々様々なスマホの持つ、複雑怪奇曖昧模糊魑魅魍魎な機能を楽しんでいるらしいが、老人にとっては、そういうのは、必要とは言えなかったのである。むしろある意味、無意味と言うべきものである。


 そもそも、スマホは小さいから、老人には扱いにくいし、ばさばさの乾燥した指では画面をタッチしにくい。しばしば的を外れる。求める文章にもなかなか到達しない。原稿用紙に書く方が、断然早いかもしれない。


 しかし、スマホなら、書いたものが、そのまま空を飛んで行く。


 『ああ、おいらの文章が、昇天して行く。』


 老人には、書いた文章が、天に昇って行くのが見えたのである。


 『さあ、ぼくらは、ついに解放されたんだ。どこにでも行けるぞう。』


 文章たちは、誇らしげに叫んだ。


 『ゆけ! 宇宙のはてまで。』


 老人は、両手を一杯に広げて言った。


 

 それから一億年後、たまたま、宇宙の彼方に探検しにきていた、広大な知的能力と長い寿命を持つ生命体が、これらの文章たちを見つけた。


 『きみたちは、どこからきたの?』


 『おじいさんのスマホから。』


 『おじいさん? すまほ、なんだそりゃ?』


 宇宙生命体は、広大な知識を使って、その言葉たちが旅立った場所をついに突き止めたのだ。


 二億年後、彼らは、言葉達を連れて、とうとう、地球に到達したのである。


 しかし、生物は沢山いたのだが、もちろんそれさえ奇跡的ではあったものの、おじいさんも、スマホもその元となるシステムも、なんら、発見できなかった。


 文章たちは、語った。


 『あこがれは、宇宙を超えて、時間を超えて行く!』


 『大発掘捜索をいたしましょう。なにかが必ず出てきます。』


 宇宙生命体は、地球の表面を、生き物を殺さないように、慎重に、りんごの皮のように剥がして行った。


 そうして、たまたま保存状態が完璧という、あからさまな幸運が味方をしたからか、ついに、老人の化石と、スマホを発掘したのである。


 そこから、地球文明のかすかな破片が見いだされた。


 


 一億年後を夢見ながら、老人は、やみくもに、まるで思いどおりには動かないスマホを、叩きまくるのである。


 

 😚😚😚😚😚😚😚😚



        おわり




   🙇 🐼🐻🐰 🙇











 


 

 


 


 

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