第30話 掃除と感謝、そして怒り

「さーてと、真波、木滝、どうなるかわかってるかな?」


あれ?

担任ってこんなでかかったっけ?


俺と木滝さんは今、担任に怒られている。


今、心の余裕がないため簡潔にこれまでの経緯を説明しよう。


まず、化学室で話す。

次に、チャイムが鳴る。

そして、今。


「お前たち、バッグが置いてあったから、ちゃんとチャイムまでには教室に着いていたのはわかってるんだが、どこ行ってたんだ?」


「あ〜、いや、ちょっと大事なお話がありまして......」


あやふやにはしているが、嘘は言っていない。

「木滝さんが、千藤という人に、ストーカーされているかもしれない」

そう言ってしまうと、色々面倒なことが起きるだろう。

面倒事はできるだけ避けたい。


「大事なお話......ねぇ〜?」


俺と木滝さんを交互に見て、担任は何かを考えている。


「そうです......!」


木滝さんも、俺の話に合わせる。


しばらく沈黙が続く━━━━━━......のだがその間、担任の顔が少しずつ笑っていっている。


「......先生?」


俺がそう聞くと━━━━━━━


「ああ、いや、まさか真波と木滝が告白した後の邪魔をしたんじゃないかって思ってな......」


いえいえ邪魔じゃないですよ!

先生は全く━━━━━━━


「え? 今なんて言ったんですかね......?」


「え? 付き合ってるんじゃないかって......」


違う、やめて、なんか変な勘違いしてる。


「まぁいい。一応はここに来たんだろ。連絡事項はないから、成績表の遅刻はカウントしないよ」


「「ありがとうございます」」


誤解とけてないけど......


「ただし、遅刻した時の倉庫の掃除はやってもらうから、放課後は残るように」


「「......はい」」


掃除だけで許して貰えたのだ。

甘んじて掃除という罰は受けよう。

ただ━━━━━━━付き合ってませんよ?






「よぉ、海斗。朝から何やらかしてんだよ」


「ああ、龍希か。まぁちょっとな。あ、それより言いたいことがあるんだった」


「ん? なんだよ、俺はお前に何もやってないぞ?」


「いやいや、悪いことじゃなくて......ありがとな」


俺は龍希に感謝の言葉を言う。


こいつがもし、俺たちの後を付いて行かなかったら、ファンクラブの佐藤さんたちは動かんかった。

もしファンクラブがあの場にいなければ、千藤という人の存在に全く気づかなかっただろう。


つまり、この事件(?)の真犯人を導き出したのは他でもない、龍希なんだ。


「は? 何言ってんの、お前。酒でも飲んでんの?」


......感謝したことに、俺は後悔した。


いや、待てよ?


龍希は俺に対して何をしてきた?

木滝さんに勝手に連絡先を教え、それだけに留まらず、クラスRAINに勝手に招待していた。

そして、木滝さんには住所まで教えている。


あれ?

ちょっと怒りが湧いてきたぞ?


龍希に感謝するはずが、いつの間にかその感謝は消え去り、その代わりに俺の中には、ちょっとした怒りが残ったのだった。

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