第21話 提案

水曜日が終わってから、音楽室のドアが突然開いたり、ピンポンダッシュをされることがなく、秋分の日、金曜日、土曜日、日曜日と、時間はどんどん進んでいった。


そして、現在は9月27日。

あと一ヶ月と少しで文化祭本番になる、という時期まで来ていた。


ただ、文化祭までにはピンポンダッシュのことや、木滝さんの紙の件については解決しておきたい。


━━━━━━━のだが......。


「何日か経ったけど、やっぱり手がかりはないかなぁ」


そう言って、木滝さんはため息をつく。


木曜日から何も起こらなかったとはいえ、いつまた何が起きるか分からない、そんな状況なんだ、疲れるのはわかる。


「このまま終われば本当にありがたいんだけど、そうなるとは限らないし......」


「私、誰かに恨まれるようなことしたかなぁ......?」


「同一犯かは分からないけど、俺の家にもピンポンダッシュしてくるから、俺もなんかやったのかなぁ......?」


「「う〜〜〜ん......」」


もちろん、俺と木滝さんは誰かに恨まれるようなことなど一切していない。

あったとしても、ファンクラブ(一方的な気もするが)のことだが、ファンクラブの人達は関わっていないことはもうわかっている。


候補......そんな人などいない。

怪しい人......候補と同じじゃね?


「ねぇ、真波くん」


「ん? どうかした?」


真剣な顔で、少し頬を赤らめながら、木滝さんが何かを言おうとしている。


「どうかした......?」


「ああ......いや、ちょっと〜その〜......」


少し下を向き、小さく頷いてから木滝さんは続けた。


「少しの間......家に......来ない? ていうか、なんて言うかぁ......」


......何を言ってんだ? この娘は。

聞き間違いじゃなければ「少しの間同居しよう」的なことを言っていた......よな?

いや、流石にないか。

まぁ......一応念の為に......


「木滝さん、ごめん、もう一度言ってくれる?」


「............」


「......木滝さん?」


「だから! ......その......今までの一件が解決するまで、私の家にいて欲しい......と言いますか......」


これは夢だな。

そう確信した俺は、右頬をつねるが、めちゃくちゃ痛い。

左頬もつねってみるが、ちゃんと痛い。

夢じゃなかった。


「あのぉ......木滝さん? 一応理由をお聞きしてもよろしくて......?」


「......お互い、一人暮らしじゃん? だから、安全面を考えた時に、二人一緒にいた方が安全というか......」


木滝さんが一人暮らしなのは知らなかったが、まぁ、安全面だけを見ればその意見はいいのかもしれない......いや、良くないけど。


「親は......?」


「一人暮らし」


「学校とかは......?」


「一緒に行けばいい」


「......年頃の男女が一緒の家にいるのって......」


「......マズイ......けど! 真波くんがそんなことしない人だってわかってるから......その......」


これは......イエスと言うべき......なのか?


ありえないとは思うが、この一件の犯人が、木滝さんのことを襲うことがあるかもしれない。


そうなれば、俺がいるのといないのとでは、少しかもしれないが結末は変わるかもしれない。


ただ、やはり問題は高校生の男女が同じ家にいるという問題。

これに関しては、木滝さんは俺の事を信じてくれてはいるが、そういうので片付けていいのかどうか。


ただ、俺が間違いを起こさなければ、2個目の心配は無いにも等しい(と思っておく)。


木滝さんの安全面も考えるなら......


「......わ......わかった......」


顔がどんどん熱くなっていく中、俺はその一言を小さな声で言った。


本当にこれで良かったのか、今の俺には分からないことだが、やれるだけやってみることにした。

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