愛で呪わば穴二つ

一澄けい

プロローグ

これは、幼い頃、母から聞いた話だ。

街の外れにある森には、それはもう、恐ろしい魔女が棲んでいるのだという。

いつもは温厚で優しい母が、とっても怖い顔をしていたから。だから、この話はよく覚えている。


街の外れの森というのは、不思議な森だ。

その森の周りは、なぜだか一年じゅう吹雪いていて、普通の感性を持った人なら、足を踏み入れるのに躊躇するような場所である。

まるで、わたし達人間が足を踏み入れるのを、拒むかのように。

それでも母がこんな話をわたしにしたのは、時々、本当に時々、この曰く付きの森に、足を踏み入れる人がいるからなんだと思う。

ある人は、度胸試しだと息巻いて。またある人は、本当にうっかり足を踏み入れて。


そして、そうやって、あの森に足を踏み入れた人間は、誰一人として、生きたまま街に戻ってくることはなかったらしい。


そこまで話した母は、やっぱり怖い顔をして、わたしに言った。

「だからね、トワ。あの森には、絶対に近づいちゃ駄目よ」

わたしは、その言葉に、こくこくと首を大きく縦に動かして、頷いた。

そんなこわい噂がある森になんて、絶対に近づいてやるものか。そう、あの時のわたしは思っていた。


そんな話を聞いた数日後。わたしは自らの意思で、その曰く付きの森に足を踏み入れる事になるなんて。

そしてそこで出会った「彼女」に、人生を、運命を変えられてしまうなんて。


この時のわたしは、思ってもいなかったのだ。

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