花言葉物語

千世 護民

第1話 藤袴

 フジ色の袖を振り回し、今日も京の明るみの下で舞う。ここは私が住んでいる地域と近いわけではないけれど、私の庭のような場所であり知らないことはない。

 あそこの宿屋はよくお親父さんが宴に出てくる。その酔い踊りの大変滑稽なこと。

 そこの絹屋はお母さんが大変綺麗な方でね?

そうそう。あの子の娘さんもえらい綺麗な方なんやけどな?親御にバレへんように裏でコソコソ男と会っているのを見つけてしもて。

理由を聞いたら、「許嫁がいる」やって。うち、わろてしもて。

ちょうどその晩にそこの絹屋が宴会場になって、うちが舞台に上がるときに「喋らなくていいから隣にいて?」って一緒に上がってもろたんどす。その男と一緒にね?

うちの舞が終わった後に見ていたお客に問うてみました。「この舞台はどうですか」とね?

「最高やった。今度はウチで舞っとくれ」、と言ったんでね?また問うてみました。

「このお方らはどうどすか?」とね?

そしたらお客はなんて言ったと思います?

「花を降らせてくれてありがとう」お似合いだね。お幸せに

って2人に向かって精一杯の拍手を送ってくれたんどすよ!あの両親の顔ったら…困り顔もいいところで八の字になって……ほんとにおかしくておかしくて!

風の噂で、その後男の方は実は問屋の息子だったらしくて……まあ、あとは玉の輿やね。


……っていう恋話がうちの十八番どす。

ちなみにまだ続きがあって、そこから子どもが出てきたときに名前をうちから一文字とって“お藤”にしたらしいどす。



……うち?うちはなんせこういう職業なもんで。したっぱだしたまに京言葉やない言葉がでてまう…出てきてしまうんどす。でも、いつか有名な舞妓になって京一の名を取るつもりどす!

……れ、恋愛の方はからっきしで…。

遅咲きって言葉もあるので!立派な袴を着た殿方を探しておりま……どす…。

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