第5話 セレーネ大陸の2つの大国

社会主義国家シュヴァルツ。セレーネ大陸の南部を支配している大国の1つで、ソラリス大帝国の元植民地でもある。大帝国への復讐を掲げているが、その実態は市民の復讐心に漬け込み、政権を握っている総統、エーデル・ザルラによる独裁国家である。


「所属不明の軍艦が、未確認の島に二隻停泊していただと?」


シュヴァルツの首都ベリアンの総統府にある執務室にて、ザルラはシュヴァルツ親衛隊隊長シュベート・エルラから、とある報告を受けていた。


「はい。セレーネ連邦国の船を襲わせるために向かわせた、野蛮人海賊共が発見したようです」

「それで?どうなった?」

「五隻中四隻が、十数km先からの砲撃で、轟沈させられたとのことです……」


大和と海賊船との海戦の報告を、ザルラは机を指で叩きながら聞き、そして口を開いた。


「大帝国の国旗は確認できたのだろうな?」

「いえ、それが…二隻の軍艦が掲げていたのは、大帝国の国旗ではなく、太陽のような国旗だったと…」

「ふむ…」


戦艦が掲げていた国旗が、太陽のような国旗旭日旗と聞き、ザルラは一度思考を巡らせる。


「…それならば、漂流物・・・かもしれんな…」


ザルラは大和と武蔵を漂流物と呼んだ。エルラを見つめる。

この世界の者達は、異世界からやってきた物を漂流物と言い、そして異世界からやってきた者は漂流者と呼ぶことが多いのだ。


「数十km先から砲撃ができる軍艦か…実に欲しい!エルラ君、分かっているよな?」


大和と武蔵に興味が湧いてきたザルラは、エルラのことを見つめた。


「はっ!直ちに海軍に艦隊の出撃要請を致します。ただ軍艦の性能などが不明のため、多くの艦艇を出撃させる上に、ある程度の損害が出ると思われますが…宜しいでしょうか?」

「構わん、その軍艦を確保出来ればそれで良い!」

ゲー・クラー承知致しました!」


ザルラの意図を読んだエルラは、被害が出ることをザルラに容認するよう頼んだ後、敬礼して執務室から出ていった。


「異世界の軍艦が、我が国の近くに出現するとは…やはり神は、この私に、この超人である私に、世界を統一し支配するように言っておるのだな…ふふふ、はははっ…ハーハッハッハッハ!!!」


大和と武蔵の二隻を手に入れることができると確信しているザルラは、一人執務室にて高笑いをしていた。





セレーネ連邦国。セレーネ大陸の北部に位置する大国で、複数の国が1つとなって運営している連邦国である。


「何?シュヴァルツの海軍に動きがあっただと…?」


セレーネ連邦国を纏めあげている中心国のセレーネ公国首相ローべラル・トムヤードは、執務室にて諜報機関DNのリトリアル・アルデランから、シュヴァルツの海軍艦隊が動き出していると報告を受けていた。

現在のセレーネ連邦国の敵は、南の独裁国家のシュヴァルツ、大海を挟んでいるとは言え、中央大陸のソラズム大陸全域を征服している大帝国の2つであり、常に変な動きがないか情報を集めているのだ。

そして現在、シュヴァルツの軍部に忍び込ませている諜報員から、海軍が動き始めたという情報が伝えられたのだ。


「はい。大東洋方面に、防衛用を除いた艦隊を全て集めているとのことです。ですが、陸軍の移動は見られないので、少々妙だと…」

「なるほど…」


アルデランから詳しい報告を聞き、トムヤードは椅子に座りながら窓の外を見つつ、シュヴァルツの動きを読もうと思考を巡らせる。


(連邦国への攻撃にしては、陸軍の動きがないのが妙だ…大帝国へ攻撃を仕掛けるのならば、何故大東洋からなのだ?)


トムヤードは、いくら考えてもシュヴァルツの意図が分からなかった。


「…情報が足りないな…シュヴァルツに送った諜報員に、連中の目的を明白にするように伝えよ。それと、連邦国の国々に、シュヴァルツからの侵略に備えるよう言っておいてくれ」

「はっ!」


情報不足だと判断したトムヤードは、目的を探るようアルデランに指示を出す。

指示を受けたアルデランは、その命令を遂行するために、返事を返した後、そのまま執務室から退出して行った。

部下が出ていった後、トムヤードは椅子から立ち上り、パイプ煙草に火をつけて吸いながら、窓の外を見つめた。


「大帝国もそうだが、あの独裁者は何としてでも倒さなければならない…連邦国や世界のためにもな……」


大帝国とシュヴァルツの脅威に、トムヤードは恐怖を抱きながら、自身を鼓舞した。

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