勝者のアナグラム
椿野れみ
第1話 突きつけられる条件
「君達は金に、私は命に難がある。そこで私は考えた訳だよ。君達の中で殺人をやり遂げた者が居たら、殺した人数に関わらず、その者には五億円をやろう。無論、そんな事は出来まい・する訳があるまいと思い、何もせずに一週間をここで過ごすのも良かろう。ただし、その時手にする金は参加費の七万円だけだ」
ざらざらと冷たい地肌のスピーカーから発せられる声は、謳う様に朗々と言った。
棒立ちになった五人の間に広がる動揺も困惑も無視して、その声は更なる衝撃を走らせる。
「あと一つ言っておこう、殺人を犯した事で殺人を犯した者がその罪に問われる事は絶対にない。余命幾ばくもない私が代りに責を負うのだからな。ここには無数のカメラが取り付けられ、どんな事が起きてもこちらに分かる様になっているのだ。その映像を見て、私が君の手順を自分が行った様に警察に明かす。警察は自白を呑んで、私だけを逮捕するだろう」
勿論、その前に取り付けたカメラは全て処分するし、片付けも完璧に行うとも。と、宥める様に告げた。
「今引っかかるのは、そこじゃないだろ」
と、一人は思ったが。今、この瞬間においてそんな突っ込みを発する事は出来なかった。
幾筋も迸る衝撃によって、声帯が麻痺した様に動かない。そればかりか、呼吸でさえも先程からピタピタと不規則に止まり、緩慢的な動きを繰り返しているからだ。
今この場で声を発せられるのは、スピーカーを通して声をかける者だけである。
「さぁ、君達はどちらに重きを置くかな? 金か、命か?」
ふふふと朗らかな笑みが零されるや否や、ブツッとスピーカーから冷淡な音が弾けた。
訪れる静寂、だがそこに包まれているのは明らかな不穏。
五人は息を呑んで、互いの顔をおずおずと伺ったのだった。
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