異世界へ

@eiensatoru

序章

第1話 要介護

作品をフォローしてくれた17名の方ありがとうございます。

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 高校卒業以降、体を鍛えるでも無く、

健康に気を配るのでもないまま人生を過ごしてきたが、

歳を取るに従い日々健康を損ないつつ有る体に成ってきたので、

食べる物に気を使わなければならなくなってから幾十年過ぎた或る日、

夜に布団で寝たまま窓のカーテン越しに、日差しが射し込んでくる時間に成っても、

起き上がる事もできない状態に陥ってしまった。


 当然ご飯を食べたり水を飲んだりする事もできないまま

手洗いに行く事もできず布団の上で、糞尿を垂れ流すだけの時間を過ごしたが、

寝ている部屋の壁の1面だけに有る窓からの日差しや、夜の帳の変化の様子から、

数日が過ぎた頃、体を動かせないためか、それともご飯を食べていないためか、

または、その両方が原因なのか『体が寒いな』と、

ぼんやりとした頭で思いながら、

まともに動かせなくなった首を捻りながら

布団の中から自分の周りを見回してみる。


 この部屋を含むこの家は2階建ての建売ばかりが大半を占めている中で、

比較的珍しい平屋の一戸建ての物件を、格安で探し回り見付けたのを買った後、

必要最低限の改築をしたもので有る。


 平屋を選んで買った理由は一般的な2階建ての家や3階建ての住宅は

歳を取って体が弱り足腰も弱った状態で階段を上り下りする事は

身体能力的にとても大変であるのに加え、

足を踏み外したり滑らしたりして、階段から転げ落ちないかという不安もあり、

それを解消する手段の1つで有るエレベーターを備えた家にしようとすると、

注文住宅しか選択枝がないため、購入額がより高額に成ってしまうためである。


 またアパートやマンションを選ぶ場合に、エレベーターが無い場合も有り、

その時には階段で上り下りをする事に成る上、

選んだ部屋の上下左右の隣の部屋の生活音や声が聞こえてきたり

逆に自分の出した生活音や声が、上下左右の隣の部屋に伝わる事に因る

面倒事の発生を避けたいためでもある。


 歳を取り買い物ができる場所まで移動するのにも難儀している事も考えて、

防音の優れたビルの中に全てが揃う商業施設と、

住居施設が揃ってるところが有れば理想だけど、そうした施設は日本では、

せいぜい1階にコンビニエンスストアが入ってるとか

飲食店が入ってるくらいしかないのである。


 それで、商業施設が比較的近くに有る、小さな平屋の家を買ったのである。


 部屋の中には、自分が臥せている布団以外には大したモノは置いてない。


 ある日インターネット上で家に物を置いた時に占める床面積を、

家賃に換算した金額で書いてるブログを見つけ、

その内容に強い共感を覚えて以来、

生活をする上で本当に必要な物だけを置くようにしている関係で、

余計な物を置いてない部屋の中はテレビもラジオも無く代わりに、

インターネットに接続したパソコンが1台有るだけだ。


 テレビ番組も何十年前からは殆ど観なくなった為と

前に有ったブラウン管テレビが壊れたのを機に

電機量販店の店先で映像が流されているテレビ画面は、

どれも目の疲れるため買わなかった為である。


 ちなみにパソコンの画面は目に優しいと評価されている

日本国産の液晶画面を使っている製品を選んで使用しているため、

目の疲れの心配が少なくて助かってた。


 ラジオも子供の時にはよく聴いていたが、

ここ数十年聴かなくなったため、機械が壊れたのを機に新しいのを買わなかった。


 新しい音楽を再生する機械も買ってない。

 

 部屋には新聞や雑誌の類も嵩張るだけで、

書いてある内容に価値を感じないため置いて無い。


 布団の中で体を横たえながらも、まだ僅かに意識が有る頭の中で、

生まれてから順に記憶に有る自分の過去を振り返っていくかのように、

場面の1つ1つとして頭の中を流れていく様を

客観的に見ているような感覚で眺めてた。


 「人生山有り谷有り」というほどでも無いが、その振り返りを見ながら、

それなりに変化の有る生活を送っていたんだなと思った。


 流れていく場面の登場人物の中で、

母親以外に女と関わった場面というのが殆ど無い事に

改めて思い知らされて愕然とした。


 頭の中を通り過ぎていく場面を眺めながら、

自分は女にはとことん縁の無い人生を送ってきたのだという事を

改めて認識できてしまった。


 人生において3回、モテ期があると一般的に言われているけれど、

あれはあくまで唯の一般論なんだと今ならはっきりと分かる。


 そんな事を思いながら、全く欠片もモテなかった事についてだけは、

死ぬ間際であろう自分にとっても非常に心残りな事であった。


 閉じていこうとしてる自分の人生で、今からでは解決する事も叶わないため、

もうどうしようもないなと思いながら、その事実として受け入れる事にした。


 諦めの心境である。


 それとは別に70歳近くまで生きて、最後は畳の上で死ぬ事ができたので、

その点だけを思うとそれほど悪い人生でもなかったのかなと

自分に言い聞かせるようにして思うようにした。


 次第に遠退いていく意識の中で、いよいよかと思いつつ、

そのまま消え入ってしまうかのように薄れていく意識の中で、

まるで陶酔をしているかのような心地に浸りながら、

視界が狭まり暗闇に紛れていくような錯覚を感じながら、

ついには視界の全てが闇に閉ざされた後、

時間の流れが止まったかのような感覚に包まれた。


 それで、俺は死んだのかと朧げにそう思ったのち、意識が無くなった。

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 ここまで読んで頂いてありがとうございます。


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