第3話

「小春、起きろ」



耳元で呼ばれる名前と優しく揺すられる体。

微睡みの中にあった意識がゆるゆると覚めていく。



「ん、愁くん…」



まだ重い瞼を持ち上げれば、愁くんのドアップ。

私の体を抱きしめている両腕はとても暖かい。



「愁くん…あったかい…」


「おい、寝るな」



まだ愁くんの体温を感じていたくてその体に頰を寄せれば、私から手を離してベッドから降りてしまった。



「あ、」


「学校行く準備するだろ。一回家に帰れ」


「……」



家に帰ったって両親は仕事で出張中だから、こんなに朝早い時間でも家には誰もいない。



ひとりは、嫌い…。



確かに学校へ行く準備はしないといけないけど、愁くんと離れたくない。



「小春」



いじけて俯く私のうなじに手が添えられる。



あ、と思った時には唇が重なっていて生暖かい唾液を飲み込んでいた。



「すぐ迎えに行くから、準備してこい」


「…はい」



私と同い年なはずの愁くんは私なんかよりずっと大人っぽくて、結局私はいつも逆らえない。



愁くんの家を出て誰もいない自分の家に入ればヒヤリとして、途端に寂しくなる。

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