第3話
「小春、行くぞ」
私を呼ぶ低く落ち着いた声が響く。それに反応する私の体は無意識で、昔からこの声にだけは逆らえなかった。
「でもっ」
小さく漏らした声は彼に届くことはなく、冬らしい冷たい風が攫っていく。愁くんが私の手を掴んで歩き始める。私よりも大きくて男の人らしいこの手に繋がれて、もう20年以上経つ。
幼馴染の立川 愁くん。親同士が仲が良いこともあって、私と愁くんは生まれた時からずっと一緒。幼稚園から始まって小学校、中学校、高校と大学も同じだった。
そして高校生まで家も隣で、大学生になって一人暮らしを始めた愁くんに誘われて今現在は一緒に住んでいる。
私の過去に愁くんの居ない環境なんて無かった。
だけど社会人になって愁くんとは別の会社に入社したのはつい8ヶ月前のこと。私にとって初めての経験。今までずっと一緒にいてくれた愁くんと離れるのは寂しかったけど、大人な彼と対等な女性になりたかったのだ。
「乗れ」
「ま、待って…」
いつもより少し不機嫌な愁くんに無理やり車の助手席に押し込められる。バンッと大きく音を立ててドアを閉められ、運転席に座った愁くんが車を発進させてしまう。
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