堕ちる

第1話

鼻歌を歌いながら誰かが私の頭を撫でている。



微睡む意識の中で分かったのはそれだけで、瞼を開けないといけないのにそれができないのは、昨日お酒を飲み過ぎてしまったからだろうか。



お酒に強いわけではないのに、押しに弱い私は後輩の子に勧められるがままに飲んでしまった。



それにしても、撫でてくれる手が気持ちいい。



私には一緒に寝てくれる人や頭を撫でてくれる相手なんていないから、これは夢だって分かってる。



分かってるけど、もう少しこの温もりを感じていたくて、シーツを手繰り寄せながら頰をすり寄せた。



「フッ…」



とてもリアルな夢。


私の頭を撫でていた手が背中にまわされて、引き寄せられて密着する人肌は逞しい。



「起きてください」


「ん…」



耳にかかる吐息や声まであるなんて、本当にリアルな夢だと思った。



だけど、また深い眠りに落ちようとした刹那…



「きゃっ…!!」



首元が痛みに襲われた。



驚き目を見開いた先には見たこともない部屋の壁があって、視界の隅にあるフワフワしたブラウンの髪が、私の意識を覚醒させた。



「やっ、だれっ…」



誰かが私の首元に噛みついている。



強く噛まれているわけではないけど、じんわりと広がる痛みに背筋が凍っていく。

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