第87話

ゆったりとしたペースのはずなのに、恥ずかしがる隙は与えてくれず、優くんが手に取っていくサンドウィッチを2人で全て食べ終えた。




「…ごちそうさまです」



咀嚼してる姿をずっと見つめられていた緊張感から解放され、お腹がいっぱいになった私は、そのまま優くんへ体を預けた。



「寝てもいいよ」



自然な流れでそうしてしまったことに、その楽しげな声で気づいて、ハッと顔を上げる。




「も、もう自分で動けるよっ…」




恥ずかしくなって、滑るようにして膝上からソファーへ移動した。それに対してクスクスと笑った優くんは、さっき持ってきたもう一つの紙袋を私の膝に置く。



「そろそろ着替えようか。綾ちゃんの服は今洗ってるから、それ着て」


「え、あ、ごめんなさいっ、ありがとう…」


「ベッドルーム使っていいよ」


「うんっ、」



少し緩んでいたバスローブを整え、大きなベッドの置いてあるその部屋へ向かった。



パタリと扉を閉めてすぐ視界に入るベッドは、先程の情事なんて無かったかのように綺麗になっていた。



でも、あれは現実に起こったことだと、お腹の奥のジクジクとした感覚が証明してる。

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