第64話

子供の頃からそっちの世界で染められ育ってきた優は、18歳とは思えない冷酷で残忍な判断を何度もくだしてきた。




「俺の兄貴、その女と同じ職場」




中学生の時に家を出て、途中でそっちの世界へ足を踏み入れた和樹は、優ほど冷酷にはなれないはず。




「それだけか?」


「…大学の同級。その女と唯一仲の良い男」


「……」


「兄貴に探り入れて優に報告したの、俺だから」




あいつ殺されたら俺のせい、とでも言うように乾いた笑いを零す。



そんな和樹を横目に紫煙を吐いた陽太は、USBを内ポケットに戻して立ち上がった。




「相手は優ですよ。意志の弱そうな、流されやすそうな彼女が、優を拒めるわけない」




頭のキレる陽太でさえ、優には敵わない。



それ程、恐ろしい男。




「彼女には優を受け入れてもらわないと困る。そうじゃないと、俺の仕事が増える」


「じゃ、また来まーす」




灰皿に煙草を押し付けた2人はそんな言葉と共に帰っていった。





「もう来んなよ…」



吐き出した本音は、誰の耳に届くこともない。

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