第2話 歓迎会と惨殺事件

 ひょんなことから第三騎士団の騎士団長となってしまった私は、前騎士団長に勝利して無事に第三騎士団の団員に歓迎された。そして歓迎会のようなものが始まった。

「初めまして。私は第三騎士団で主に新人教育を行っているトラシュド・レクルと申します。以後お見知りおきを。」

「私は主に第三騎士団にて計画を制作しているノワール・サブリティアです。よろしくお願いします!」

「シュドラデ・ドビラスキー。よろしく。」

 目の前のテーブルには騎士団の団員を表す藍色の制服を着こなした人物が三人いた。トラシュド・レクルという人物は見たところ人間族のようだ。血色の良い薄橙の肌に爽やかな茶髪にメガネをかけている。ノワール・サブリティアという人物も人間族のようで、黒色のロングヘアが目に映る。少々幼げも感じるが騎士団として誇りを持っているようだ。最後のシュドラデ・ドビラスキーという人物は色白で赤い瞳を持っていることから吸血鬼族であることは明らかだ。黄緑色の髪というとなかなか珍しい気がする。そして何より...考えが読めない。一体何を考えているのだろう。

「ああ。改めて自己紹介をしよう。私はシュメラ・ブラクリアス。新しく第三騎士団の騎士団長に就任させてもらった。これからよろしくね!」

 やっぱりこんな感じの自己紹介は何度しても恥ずかしい。自分の口で名前を言うことに若干恥ずかしさを感じてしまうのは私だけだろうか?

「私はシュメラ様の専属メイドで第三騎士団副長のレイナ・ルイカナルです。以後よろしくお願いします。」

 後ろからレイナの声が聞こえた。ってちょっと待て。今、副団長って言ったよね?副団長なの?どんだけ不人気だったの...?

 その後、現状の第三騎士団での問題や今後のスケジュール等を確認し、他愛のない会話をして祝賀会は終わった。体感では2時間くらいだった。


「それじゃあ、失礼するわ。」

 私は幹部三人に挨拶をした後、その部屋を後にした。窓から見えるノヴァロストクの街並みはとても美しく、平和を感じた。しかし、やけに足音が聞こえる。ふと周りを見回すと王城で働く者達があたふた走り回っていた。その様子を見て私はレイナの眼を見た。レイナはすでに感づいてるようだった。

「レイナ。」

「はい、分かっております、シュメラ様。何らかの事件でもあったのでしょうか。」

 私は走り回ってる一人に話を聞こうとしたところで後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

「ああ、シュメラ。こんなところにいたのか。少しついてきてもらうぞ?」

 後ろを振り向くとそこにはヴィルギーニヤ女王陛下が立っていた。私とレイナは女王陛下についていくとある一つの部屋に辿り着いた。扉の上に書いてある看板には王城第八収蔵の間と書かれていた。

 「扉を開けるぞ。」

 女王陛下が扉を開けるとそこには驚くべきものがあった。それは数時間前に勝利した前騎士団長の無惨な遺体があったからである。遺体の腹部には穴が開いており、かすかな魔法の痕跡があった。勿論私は関与していない。そもそも殺した記憶もないからだ。

 「被害者の名は、ドルギー・スディアマン。第三騎士団の元騎士団長だ。犯人を余たちは探している。心配しなくてもよいぞ。シュメラの無罪は確実である。しかし、こいつは第三騎士団の元騎士団長。よってシュメラ・ブラクリアスとレイナ・ルイカナルにこの事件の調査を余が命令する。」

女王がそういうとある一枚の書類が渡された。そこには事件現場の場所が書いてあった。とりあえずそっちに向かう必要があるだろう。でも...なんで勝手に事件の調査をしないといけないのか小一時間問い詰めたい。


 「にしても...不審だ。いきなりこんな惨死体が見つかるなんて。」

 私は城から出て事件現場に向かっていた。なぜ前騎士団長が惨殺されていたのか、歩きながら考えた。

 事件現場に着くとそこは人通りも少なく、建物の陰になっていて、暗い湿気が酷い路地裏だった。見るとそこには赤黒い水たまりがまだ残っていた。レイナはその赤黒い水を手ですくい、匂いを嗅いだ。するとレイナは何か分かったように一瞬笑った。

 「目撃者の話を聞きましょう。」

私に対してレイナはそう言うと、近くにあったカフェの店員に話を掛けることにした。

 「私は第三騎士団の騎士団長を務めているシュメラ・ブラクリアスと申します。今から2時間ほど前に目の前の路地から不審な人物が走り去ったなどの目撃証言を集めています。何か知っていますか?」

私は偶然近くに居た茶色のツインテールに赤い眼鏡をした店員にこう尋ねると、厨房へ行き、カフェの店長たちを連れて話をしてくれた。

 連れて来た店員の中に青色のショートヘアで黒いメガネを掛けた女性がいた。私はその女性にどこかで見覚えがあると感じた。どこで見たかは覚えていない。どこだろう...。

 「2時間くらい前にあそこの路地に剱のマークを付けた若い男が入っていき、その数分後にフードを被った何者かが入っていったんです。そして、どっちも戻ってこなかったんです。一体何だったんだろうと思いましたが、路地の奥にある雑貨屋さんにでも行ったのかな?と思ってました。」

 茶髪の女性はそう私たちに教えてくれた。これで私は確信がついた。この事件の犯人は魔法を使って逃亡した可能性が高いのだ。

 そこで私は現場に戻り、魔法を使った後に残るかすかな痕跡である魔痕を探すことにした。魔痕というものは魔法によって色や形を変化させるが、基本的に1か月程度は残るとされている。そして、創作魔法でなければ基本的に魔法の種類や規模が魔痕から分かるのである。


 一般的に私やレイナ以外にも多くの人が使える魔法のことを一般術式魔法と言う。生まれながらの才能に依存する魔法とは別で、鍛錬を積むことで覚えることができる魔法だ。

 その魔法の中に「魔力探知」という魔法がある。この魔法は魔痕のみならず、魔力によって作られたいわゆる暗号を解読するなどの能力を持つ魔法である。人によって使える量や分かることは異なるが、私は魔痕を探すためにその魔力探知を展開した。

 効果は抜群だった。赤黒い水溜りの近くに特徴的な七芒星の魔痕が見つかった。さらにそれだけではなく、正八角形の魔痕、そして魔力によって作られた暗号が探知されたのだ。七芒星の魔痕は転移魔法が展開された典型的な魔痕であり、正八角形の魔痕は通信魔法の典型的な魔痕なのだ。これで魔法が確実に扱われたことが判明した。

 私はレイナに魔力によって作られた暗号を見せた。そこにはこのようなことが書いてあったのだ。

 「次はあの憎たらしき吸血鬼の国の長、そしてその娘。」

 レイナはこれを見て冷静に「やっぱりか」と漏らした。レイナは何か推測していたことが当たっていたのだろう。私も考えてみるとしよう。

 まず、吸血鬼の国の長というのはヴィルギーニヤ・スタロドゥプツェヴァ女王陛下だろう。しかし、女王の娘とは一体どういうことだろうか?女王に娘は存在しないはずだし、そのような話を聞いたことがない。ひょっとして隠し子でもいるのではないだろうか。いや、居ないだろう。恐らく何らかの比喩表現なんだろう。だが、比喩表現だとしても一体何を表すのだろう。

 と私が考えていると、レイナが突然手を引っ張って路地裏を飛び出した。

 「レイナ!?ちょっと何急にどうしたの!?」

 「話はいいですから今はちょっと急いでください、シュメラ様。」


 一体何だったのだろう。結局、あの路地裏から数百メートル離れた自宅まで走り抜けた。走るのはまだマシだが、突然引っ張られて走るのは勘弁してほしい。

 「レイナ、一体どういうこと?」

 私は冷静にレイナに尋ねることにした。するとレイナは落ち着いた口調で言った。

「シュメラ様。落ち着いて聞いてください。」

落ち着いて聞いてくださいと言われることはかなり大事な話なんだろう。一体なんだろうか。そう思いつつ首を縦に振った。

 「恐らくあと数分もしたら第三騎士団の一部が謀反を起こします。この謀反はあの惨殺事件と関係していると思います。」

 ...え?何言ってんの?謀反?私の第三騎士団がクーデター起きちゃうの?

困惑しつつ、話を聞こうとしたその瞬間、南から大きな爆発音が聞こえた。

 「始まりましたね、謀反が。」

 私は、謀反が急に始まったこともなぜ謀反が起きたのかすら分からずのまま、レイナと共に謀反を抑えることになってしまった...。

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