Episode19 焼け落ちた集落で

 【ポータル】による転移が完了した直後、私たちを出迎えたのは肌を焼く熱気と思わず咽てしまいそうになる煙の臭いだった。

 そしてその煙の中に嗅ぎなれない、しかし妙に不快感を感じる奇妙な臭いを感じ取りながらファンタジー作品でよく見るような鎧を身にまとい、こちらに背を向け燃え上がる家屋に視線を向けている男性の姿を見つけた。


「ええと……武藤くん、だよね?」


 190近い長身に金色のメッシュが入った黒髪という特徴が一致していたので私が恐る恐るそう声を掛けると、その男性は「あっ?」と不機嫌そうな声を上げながらこちらを振り返り、一瞬リリーナに視線を向けたところで驚いたような表情を浮かべて動きを止めたものの隣にいる私や芹川さんに気が付くと顔をしかめながら再度口を開いた。


「なんだ、紫藤と……誰だっけか? とりあえずクラスメイトってことは覚えるんだが……ああ、あれだ! 一番最初に10レベルに到達したってアナウンスがあった芹川か! ……で? お前らは何の用でここに来たんだ? もしかして、あのクソみたいなアナウンス通り俺を殺しにでも来たか?」


 鼻で笑いながらそう告げ、武藤くんが完全にこちらへ振り返ったことで初めて私は彼の身にまとう鎧が赤い液体で濡れていることに気付き、そして彼の足元に3人ほど赤い水溜りへうつ伏せのまま倒れてる人たちがいることに気付く。


「………ね、ねえ。そこで、倒れてる人たちって――」


 震える声で私がそう尋ねると、武藤くんは獰猛な笑みが浮かべながら当然のように「ご察しの通り、俺が殺したわけだが何か文句あんのか?」と尋ねてくる。


「ア、アハハ……そんな、冗談——」


「ハッ! 本当に、冗談だと思うか?」


 掠れる声でどうにか雰囲気を変えようと言葉を絞り出す私に、武藤くんは目を細めながら低い声でそう返したかと思えば、次の瞬間には私のすぐ目の前に現れて巨大なハンマーのような武器を振り上げていた。


「ところで、俺を殺しに来たってことは当然自分たちがやられる覚悟もできてんだよな?」


 わざわざ声を掛けずともそのまま振り下ろせば私は反応できずにやられていただろうに、彼はまるで小馬鹿にするような声色でわざわざそう声を掛けた後で私にも反応できる速度で武器を振るう。

 だが、その攻撃が私に届くよりも先にいつの間にか私たちの間に割り込んでいたリリーナによってその一撃は防がれ、武藤くんも特に競り合うつもりがないのかあっさりと後方へ引くと肩に武器を担いだ姿勢で動きを止めた。


「やっぱ、ステータスが一番高いだけあってこの程度は防げるか。てかお前、妙な称号を大量に持ってるみてぇだが……何よりもその名前にその顔、それにその髪色もだ……もしかしてあんた、ティナって女を知ってるか?」


 突然そう問われたリリーナは多少困惑の表情を浮かべつつもすぐに左右に首を振り、直後に「わたしも聞いて良いかしら?」と声を返す。


「なんだ?」


「その鎧と足具……どこで手に入れたのかしら?」


「これか? 貰ったんだよ。お前と同じ髪色と似た顔付をした女にな」


「……その女性がさっき聞いたティナ、って名前の子なのよね?」


「そうだな」


「その子は今どこに?」


「さあな。俺の知ったことじゃねえ。生きてんならその辺にいるんじゃねえか?」


「そう…………。それで? その子はどうして自分でその装備を自分で使わずにあなたに渡したのかしら?」


「そんなこと知るかよ。てか、元々こいつはそいつの持ち物でもねぇからな。だが、本来の持ち主であるそいつの父親が死んで、俺が使ってやるって言ったら快く譲ってくれたぜ」


 小馬鹿にしているような笑みを浮かべながらそう答える武藤くんと、険しい表情を浮かべたままのリリーナがしばらく無言のままで睨み合う。

 そして次の瞬間、突然姿を消したリリーナが武藤くんの目の前に現れると、その表情に隠しきれない怒りの色を浮かべて武器を振り下ろした。


「おいおい、ずいぶんと物騒なやつだな。さっきあいさつ代わりに軽く小突いたのがそんなに気に入らなかったか?」


「ふざけるな! その防具はあの日、わたしの弟に預けられた王家の装備だ! それを、キサマが—―」


「ハッ! とんだ言いがかりだな! イライラするぜ!!」


 突然戦闘を始めてしまった2人に一瞬私は思考が追い付かずにその場で固まってしまうが、すぐに正気を取り戻すと2人を止めようと足を動かしかけ、背後から芹川さんに「待って、ください」と声を掛けられたことで動きを止める。


「どうしたの?」


「気を付けて、ください。武藤さんは、攻撃力と素早さに特化したステータスで、その2つだけなら補助を受けたリリーナさんと互角以上のステータス、です。だから、ボクの魔力を使って可能な限り紫藤さんのステータスを引き上げますが、それでも危険な戦いになると、覚悟してください。それと、一応共有できるところまでボクの【能力看破】で判明している武藤さんのステータスを送ります」


 芹川さんがそう告げた直後、体中に信じられないほどの力があふれるのを感じるが、同時にそのバフがそれほど長続きしないことを瞬時に理解する。

 そしてそれとほぼ同時に武藤くんのステータスで私にも閲覧可能な情報が開示される。



【ステータス】

・武藤蓮斗 Lv.50 EXP:160,837(次のレベルまで:9,813)

・SP:8/168

・MP:900/900

・攻撃力:29,520(+870)

・防御力:950(+1,760)

・魔攻力:200

・魔防力:300(+2,410)

・素早さ:18,700(+3,520)

【装備】

・雷神の大槌『トール』(覚醒)(攻撃力:+870、魔防力:+470、素早さ:+660)

・名も忘れられた古代の鎧(防御力:+1,760、魔防力:+1,940)

・名も忘れられた古代の足具(素早さ:+2,860)

・エルフの守り

・身代りの腕輪

【獲得称号】

・英雄

・殺戮者

【習得スキル】

(基礎能力向上系)

・無し

(ステータス補正値向上系)

・攻撃力上昇(小)(獲得時消費SP:5)

・攻撃力上昇(中)(獲得時消費SP:10)

・攻撃力上昇(大)(獲得時消費SP:15)

・攻撃力上昇(極)(獲得時消費SP:20)

・剛力 (獲得時消費SP:30)

・素早さ上昇(小)(獲得時消費SP:5)

・素早さ上昇(中)(獲得時消費SP:10)

・素早さ上昇(大)(獲得時消費SP:15)

・素早さ上昇(極)(獲得時消費SP:20)

・韋駄天 (獲得時消費SP:30)

(効果及び技能習得系)

・能力看破(獲得時消費SP:―) Lv.10(次のレベルまで:―回)

・諸刃の剣(獲得時消費SP:―) Lv.10(次のレベルまで:―回)

(特殊系)

・憤怒(獲得時消費SP:―)

狂戦士バーサーカー(獲得時消費SP:―)



(何なの、このステータス!? 極端すぎる! でも……バフを受けた今の状態なら武藤くんのスピードに付いて行けないほどではないし、後は一撃でも受ければ致命傷に成り兼ねないから立ち回りにだけは気を付けないと! それに、ここまで魔防力が低いのならあえて――)


 そんなことを考えていると、まるで私の考えを読んでいたかのように「それと、魔防力が引くからと、安易に範囲攻撃が可能な魔法で戦おうとしないで、ください」と声を掛けられた。


「……それはなぜかしら?」


「武藤さんが装備している、『エルフの守り』という装備には魔法を無力化する効果があるみたい、です。その代わり、補助系の魔法やアイテムの効果も無効化されるみたいですけど。……ただ、【諸刃の剣】というスキルで一時的に防御力と魔防力を犠牲に、攻撃力と素早さを上げてくる可能性があるので気を付けて、ください」


 正直、ただでさえ自分より圧倒的に高いその2つのステータスを底上げされては勝機は限りなく低い気もするが、幸いなことに私は一人ではないので何とかリリーナを落ち着かせて芹川さんのフォローを受けながら2人で戦えばどうにかなるかしれないと一筋の希望を見出す。


「ありがとう! とりあえず、いったん2人を落ち着かせて話を聞いてもらうためにも、全力でこの戦いを終わらせてくるね!」


 私はそう芹川さんに告げた後、このバフ状態が切れる前に何とか状況を改善すべく思考を巡らせながら先に戦闘を始めてしまった2人の下へと駆け寄るのだった。

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