Episode6 決意の少女

「はぁぁぁぁぁっ!!」


 掛け声とともに振り下ろした戦女神の剣『アテネ』がゴブリンの胴を切り裂くと、鮮血を散らしながらこん棒を振り上げた姿勢のままゴブリンは仰向けに倒れた。

 そして、周囲に視線を巡らせながら間違いなく先ほどの個体で最後の1匹だったことを確認すると、私は軽く息を吐きながら戦女神の剣『アテネ』を待機モードへと移行させる。


『経験値を27獲得しました。レベルが5に上がりました』


 これで4度目となるアナウンスを聞きながら、私は頭の中で『ステータス画面を開け』と念じることでこの戦いで私のステータスがどれほど成長したのかを確認する。


【ステータス】

・紫藤亞梨子 Lv.5 EXP:302(次のレベルまで:148)

・SP :56/56

・MP :217/420

・攻撃力:288(+180)

・防御力:250(+105)

・魔攻力:97

・魔防力:210(+145)

・素早さ:253(+5)

【装備】

・戦女神の剣『アテネ』(攻撃力:+180、防御力:+100、魔防力:+145)

・白波高等学校の制服(防御力+5)

・ローファー(素早さ+5)

【獲得称号】

・勇者覚醒者

・姫騎士

【習得スキル】

(基礎能力向上系)

・なし

(ステータス補正値向上系)

・なし

(効果及び技能習得系)

・極光の賢者(獲得時消費SP:―) Lv.2(次のレベルまで:7回)

・騎乗の達人(獲得時消費SP:―) Lv.1(次のレベルまで:10回)

(特殊系)

・勇者(獲得時消費SP:―)

・アイテムボックス(獲得時消費SP:―)

・ポータル(獲得時消費SP:―)


(やはりここら辺の敵が弱すぎるのかな? それにレベル補正もあるのか3レベルまではゴブリン1匹あたり6貰えてた経験値もさっきは3しか入らなかった。最初のステータスでも1対1なら十分余裕だったけど、今は9匹同時に相手してもほとんど苦戦することもなくなったし、そろそろポイントを変えるべきかな?)


 そう判断した私は【ポータル】スキルの発動準備に入ることで目の前に周辺のマップを表示させる。


(私が今飛べるのはこの世界で最初にいた地点の遺跡だけだから……北の方に進むと元の場所に戻るみたいね。そうなると、こっちの西の方に森の出口と道が続いてそうだったから……もうちょっと強い敵を探すんなら東の方が良さそうかも)


 因みに、ここよりもっと南に行くとさらに深い森の中へと進む形になるのだが、1レベルでゴブリンが比較的簡単に倒せたことに油断した私は何も考えずに3レベルに上がってすぐに踏み込んでみたのだが、そこでここら辺に出てくるゴブリンより明らかに良い装備を身に着けたゴブリンに遭遇して苦戦し、やられる前に何とか【ポータル】で最初の遺跡に逃げ帰ることができたものの今のレベルではきつそうなのでもう少しレベルが上がるまでは近づかない方針で行きたいと思っている。

 おそらく、装備の影響で防御力が飛躍的に向上しているのか強化魔法で力を増した私の剣でもまともなダメージを与えられなかったので、そこまで耐性が無さそうな魔法攻撃で戦うかもっとレベルを上げて物理でゴリ押すしかないのだろうと予想している。

 しかし残念ながら魔攻力の値がかなり低めの私はもう2、3レベル上がって攻撃力が装備込みで600程度になるまでは近づかない方が無難だろう。


(さて、とりあえずある程度日が傾くまで上げられるだけレベルを上げて、そこから森を出て道なりに進んで人里を探す方針で行こうかな。一応【ポータル】を使用した時に表示される地図によるとこの森の十数キロ先に集落らしき表記があるから、今の身体能力なら1時間くらいでつけると思うんだけど……一応余裕をもって行動しといた方が良いかも)


 そんなことを考えながら、私は先ほど収穫していた木の実を【アイテムボックス】のスキルで取り出すとそれを食べることで水分補給と軽く小腹を満たす。

 この【アイテムボックス】というスキルはよくある異空間にアイテムを無限に収納できるといった物で、その収納能力だけでも十分便利なのだが収納しているアイテムの一覧をステータスを見るのと同じ要領で確認することができ、その際に簡単なアイテムの説明が表示されるので収穫した木の実やキノコが食べて大丈夫なやつなのかを簡単に判別できるのだ。


(太陽の位置的に後1時間もしないうちに正午か……武器の扱いもそうだけど、魔物から素材を剥ぎ取る技術なんかも勝手に刷り込まれてるみたいだから、イノシシ系の魔物でも見つければきちんとした食事にありつけるかな? でも、調味料も香辛料も無い状態だし川を見つけて魚を取った方が良いのかも)


 そんなことを考えながら、私はとりあえずここよりも経験値効率の良いポイントを求めて森の中を道なりに東へと進んで行った。


――――――――――


 それから2時間近くの時間が経過し、緑色の毛皮を持ったオオカミ型の魔物を倒しながらレベルを上げ、とうとう8レベルまで到達した。

 そして太陽の傾き的に既に昼を過ぎている時間だと判断した私は、いったん休憩を取るために【ポータル】で魔物が出現しない最初の遺跡まで戻ると自身のステータスを確認する。


【ステータス】

・紫藤亞梨子 Lv.8 EXP:846(次のレベルまで:234)

・SP :8/68

・MP :297/672

・攻撃力:462(+222)

・防御力:400(+129)

・魔攻力:156

・魔防力:336(+184)

・素早さ:406(+5)

【装備】

・戦女神の剣『アテネ』(攻撃力:+222、防御力:+124、魔防力:+184)

・白波高等学校の制服(防御力+5)

・ローファー(素早さ+5)


(そろそろ南の方に行っても大丈夫そう、かな? 【極光の賢者】もレベルが3に上がってからバフの乗りがかなり良くなってきたし、ここら辺のグリーンウルフ(仮称)も余裕で倒せるくらいには強くなってきたから、今ならあのゴブリンハンター(仮称)も倒せると思う!)


 そんなことを考えながら私は道中拾ってきた手ごろな木の枝を薪にし、魔力を使って(苦戦はしたが)火を起こすとグリーンウルフを解体して手に入れた肉に木の枝で作った串を刺し、いい感じに焼けるのを待ってから一口かぶりつく。


(……分かってはいたけど、獣臭いし全然美味しくない)


 一応途中で拾った野草の中で『香辛料として使われる』と言った表記がある物を使ってはいるのだが、それでも塩もコショウも無しの原始的な調理方法では現代日本の豊かな食文化に慣れてしまっている私の舌には到底合いそうもなかった。

 それでも何も食べずにいては空腹で倒れてしまうので、私は仕方なしに木の実などで味を誤魔化しながらなんとかオオカミ肉を胃の中に流し込み、少し遅めの昼食を済ませる。

 正直、この悲惨な食事を改善できるのならば【料理人】のスキルを習得するのも有りではなかろうかと本気で迷ったが、せっかく有用なスキルを手に入れるために取っているSPを60も浪費するわけにはいかないので我慢するしかないだろう。


「ふぅ……」


 食事を終えた私は軽くため息を漏らした後、汚れるのも気にせずにその場にゴロンと仰向けに倒れて空を眺める。


(あんな得体の知れない神に連れてこられた世界だけど、そこまで理不尽設定でもないしいろいろと便利機能を付けてくれてるからそれなりにやっては行けそう、かな。でも、最初から【勇者】に覚醒している私だからこそ何とかやれてるだけで、他の皆も無事だとは限らないよね……。ただ、最初から【魔王】に覚醒している1人は七大罪のどれかにも覚醒しているみたいだから確実に私より強大な力を持ってるだろうし、手が付けられなくなる前に見つけて自分の意思とは関係なくスキルに飲まれて人類の敵になっちゃう前にどうにかして止めてあげないと。きっとそれが【勇者】に目覚めている自分がなすべきこと、だよね。そのためにも、早くレベルを上げて強くならないと)


 そんなことを考えていると、不意に脳裏に謎の声が響く。


『レベル10に到達した者が現れました。よって【クラス名簿】の項目が解放されます』


 信じられない突然の通達に飛び起きると、私の意思とは関係なくステータス画面と同じように【クラス名簿】が表示され、それにより芹川さんが10レベルどころか一気に13レベルまで到達しているという事実を突きつけられる。


(どういうこと!? もしかして、芹川さんが……。ううん、他にも何人か8レベルや9レベルに到達している人もいるし、たまたま芹川さんがボスキャラみたいな大量に経験値を取得できる魔物を運よく倒して一気にレベルが上がっただけ、って可能性もある! それに、【勇者】や【魔王】以外にも強力なスキルはあるだろうし、そう言ったスキルを手に入れてる可能性だって……)


 そんな私の思考を遮るように、『これより1時間、【ポータル】の転移先に『芹川優璃』を選択できます。最も早く10レベルに達した彼女を殺し、強力なスキルを奪い取りましょう。また、最速で10レベルに達した芹川優璃には特典として【能力看破】Lv.10が進呈されます』と言う言葉が脳裏に響く。

 そして、最初から【ポータル】のスキルを習得していた私は、恐る恐る彼女が今どこにいるのかを知るためにスキルを発動する。


(……これ、この森の南側にいる、ってことだよね?)


 転移可能な地点を示す印、つまり彼女が現在いる地点は今私がいる森のこれから向かおうかと考えていた南側、それもかなり奥に入った地点を指示していた。


(つまり、1レベルの時点で3レベルの私が苦戦の末に突破を断念した地点で戦ってたってこと、だから……。ううん、そうとも言い切れないはず! そもそも私が突破を断念した地点よりもかなり南の方に進んだ地点だから、あのあたりを抜けたらここら辺と同じようにそこまで強い魔物が出ない地点がある、って可能性もあるんだから思い込みで判断するのは危険だ!)


 私はそう自分に言い聞かせながら、これからどうするべきか必死に思考を働かせる。


(もし芹川さんが【魔王】で、覚醒している七大罪の影響で暴走してるとしたら止めてあげないといけないけど……私より圧倒的に実力が上で勝つのが不可能な場合、【ポータル】は再使用までに10分ほどのクールタイムが必要だから間違いなく私が殺されるだけだ。そうなると、最悪私が持っている【ポータル】や【アイテムボックス】を取られて他の皆が芹川さんを止めようとやって来ても不利な状況に陥らせてしまう危険性があるかも知れない……。そもそも、もしかしたら他にも【ポータル】を所持しているクラスメイトがいて、これだけの急成長を見せた芹川さんからスキルを奪い取ろうとやってきたら? それに、芹川さんは【魔王】じゃなくて他の誰かが【魔王】で【ポータル】まで所持していたとすれば、芹川さんを狙ってやって来る可能性も十分にあり得るし……。そもそも、あの神を名乗る者が現れた最初の世界で芹川さんは気を失ってたし、何も分からない状態のままって可能性もあるわけで……いったい私はどうしたら…………)


 おそらくおおよその位置は分かっているのだからこのまま徒歩で向かうことも不可能ではないだろう。

 だが、あのゴブリンハンターたちがうろうろしている地点を突っ切って進めばかなりの時間が必要となるため、その時には既に彼女も移動している可能性が高いのに加え、最悪の場合は今以上に手の施しようがないほどのレベル差を付けられる可能性や他の誰かに襲われて命を落とす危険性も少なくない。


(……たしか、【勇者】は【魔王】と戦う際に強力なバフがかかるって感じの事が説明されてたし、それに魔法によるバフを乗せればたとえ芹川さんが【魔王】であっても何とかなると信じるしかない、よね。それに、彼女が何も分からないままスキルに翻弄されて暴走状態にあるのなら、まだお互い低レベルである今この時点が命を奪わずに捕縛する最後のチャンスかもしれない!)


 そう判断を下した私は、この判断が間違っていれば命を落とすことになるかも知れないという恐怖で震える手をギュッと握りしめながら、【ポータル】のスキルを発動して芹川さんが待つ森の南側へと転移するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る