ブレイダーズ

マイケル・フランクリン

第1話

 誰もいなくなった住宅街にけたたましく鳴り響く警報。車や信号機、

 住宅の鉄筋など町中のありとあらゆる金属が竜巻に巻き込まれていた。

 この場にいる者は二人。



 一人はスクラップ金属をゴテゴテにくっつけたかのような

 かっこ悪い鎧をしている怪人。



 それに相対したのは、メタリックレッドの金属プレートを胸部と膝に付けているライダースーツを着た男であった。

「くっくくく。流石フレアブレイド。七剣に肩を並べるだけある。この俺をここまで追い詰めるとは」


「お前も一般の怪人にしてはやる。この規模の攻撃をできる怪人は

 そうは見当たらない」

「この俺を舐めるなよぉ」

「プルリングハリケーン」

 スクラップ鎧の男はフレアブレイドに向けて竜巻をけしかけるのだった。



「カードスキャン。発動。フレアガン」

 フレアブレイドは腰に付けたスキャン装置にカードをスキャンする。

 カードがスキャンされると、朱色の装飾が施された四十五口径の銃が顕現した。銃弾をリロードせず、一気に銃弾を撃ち始めた。

 竜巻の中にある金属破片はマシンガンのように撃ち出される炎の弾丸の威力と熱によって一気に破壊されていく。


「そんな馬鹿な」

 男はフレアブレイドの放つフレアガンの威力に焦っていた。

「フォームチェンジすらしていないお前がなぜっ」

「単純にお前が弱すぎだからだよ。怪人」

「死んでたまるかぁぁ」

 怪人は自分の後ろに引力竜巻を発生させた。強力な引力で引っ張られた彼はフレアブレイドの猛攻から脱することができた。



「くそぅ。覚悟しろよ。フレアブレイドめ」






 某都市。正義町。

 怪人襲撃警報が鳴り響き、人々が次々と避難していく中

 立ち止まる少年が二人いた。



「やっぱり止めないか」

「止めない。だって怪人がこの町に来るのは初めてなんだよ」

「馬鹿野郎が。お前はただでさえ足が不自由なのになに考えてるんだよ」

 と金髪の少年が言って、はっとした表情をする。



「気にするな太陽。お前のいうことは正論だ」

 黒髪の少年は表情が暗くなるものの、彼に対して怒ることはなかった。

 黒髪の少年の下半身は事故によって不随になり、車椅子で生活しているのだった。

「いや。言いすぎだ。悪かった月夜」

「ともかく。今は避難しよう」

 宥める少年の名前は炎太陽。




「いや。行こう。二度と見られないかもしれない」

 と好奇心に突き動かされる少年の名前は氷室月夜。



 怪人は三十年前から世界で大量発生するようになった

 異能力を持つ人型の怪物である。 

 最近までは何の脈絡もなく人を襲うだけだったので災害みたいなものであったが

 今では組織化して攻撃してくる始末だ。




「でも今はブレイダーズが対処している。戦闘している区間に入るのはやばいって」

「大丈夫だ。近くで少し見ることができればいいんだ」

「でも……」

 と太陽は渋る。


 怪人達に対抗できるのが超高度戦闘ライダースーツとブレイドエナジーを

 使いこなせるブレイダーズだけであり、怪人の戦闘力によっては軍隊や自衛隊、

 警察などの組織での対抗は難しい。




「お前一人だけでも避難所に行け」

 月夜は車椅子のハンドリムを回し、一人で怪人のいるところに向かおうとする。

 しかし怪人がいると思われるところにはスパークと自家用車が

 とぐろを巻いている竜巻がいくつも発生していた。

「くっ……わかった。俺も行くよ」



 太陽と月夜は現場にたどり着くことができた。自家用車や鉄筋など

 様々な金属製のものを巻き込んでいる巨大な竜巻が

 乱立する危険地帯であった。



「すごいな。こんな光景は一生に一回見れるかどうかだ」

「やっぱり帰ろう。珍しいものも見れたし満足だろ」

「いや。行きたい。怪人も見たいんだ怪人」


 




「怪人の力だろうな」

「もうやめておこう。あそこに行くのは危険だ」

「先に避難しておいてくれ。俺は行くから」

 と月夜は好奇心に駆られて車いすを走らせようとする。

 太陽はそれに逆らうことはできなかった。

 彼は月夜の車いすを押してやり、もっと近くまで近づく。

 車の竜巻の脅威は近づく度に大きくなっていく。


 車の竜巻の発する風圧は凄まじく、それだけでも吹き飛ばされそうだった。

 更にたまに車が落ちてくるのだった。

「もうこれ以上は無理だ。本当に死ぬぞ」

「死んでもいい。行くぞ」

「いや。本当に無理だって」

 と太陽が説得するが、月夜は聞き入れることはなかった。



「どうしても見たい。どうしても……」

 と頑なだった。

「あの中に入るっていうのかよ」

 竜巻は一つだけではなく、いくつも吹いている。ここら一帯は沢山の巨大な磁力竜巻が動く危険地帯。そこを突破していくということは入口で体験した脅威と比べ物にならない危険を味わうのと同じ意味だった。

「本当に行くのか?」

「行こう」

「俺が行かないって言ったら?」

「一人でも行く」

 とサムズアップしてみせた。




「クソッタレがぁぁぁ」

 説得を諦めた太陽は月夜の車椅子のグリップを強く握った。意を決して竜巻地帯へと突っ込んできた。

 引力から逃れて投げ出された車が頭上めがけて落下することが幾度もあった。

 怪人の居場所に近づくとそれがドンドン激しくなっていった。

「はぁ……もう帰ろうぜ月夜」

「まだだ。まだ、俺達は怪人を見ていない」



「もう無理だ。車椅子を押しながらなんて絶対な」

「でも……俺だってお前みたいに動けるなら……いや、ごめん。

 今のは聞かなかったことにしてくれ」





「よぉ人間。こんなところに行くなんてあれか? 物見遊山か?」

 スクラップ鎧を身に着けた怪人が屋根にぶらさがりながらニヤニヤ笑っている。


「月夜。早く逃げろ」

「いやいや。逃がさねぇよ」

 怪人は手から引力を発生させ、月夜を車椅子ごと引っ張り上げてしまう。


「待て。スクラップ野郎。人質なら俺でいいだろうが」

「いやだね。足動かない方が都合がいいからね」

 と怪人はにやりと笑いながらこの場を素早く離れていく。

「ぶん殴ってでも止めればよかった」

 

 と太陽が考え込んでいると、彼の前に流星のような一筋の光が瞬いた。

 光が消えた時、姿を現したのは

「おい。避難警報が出ていたはずだろ。なんでこんなところにいる?」

「それは……」

「怪人を見ようなんて考えたわけじゃないだろうな」

 とフレアブレイドは太陽を睨みつける。



 逡巡したが、太陽は白状した。

「友達が見に行きたいっていって付き合いました」

「なんで止めなかった。はぐれたってことはまさか……」

「スクラップの怪人があいつを攫っていきました」

「分かった。後は俺がなんとかするから君は一刻も早く避難しろ」

「はい」



 フレアブレイドはカードホルダーからカードを二枚取り出して、バックルに付いているスキャン装置にカードを二枚スキャンする。

 しかしなにも起こらなかった。


「そんな馬鹿な……」

「なにがあったんです?」

 フレアブレイドは太陽の問いかけにしばらく答えられなかった。


「もうもたない」

 フレアブレイドの変身は解けてしまう。

「これがブレイダーズの正体?」

 赤髪に中肉中背の成人男性が現れる。

「変身できなくなった」



「フレアブレイドが変身できなくなった? いい話を聞いたな。くくく」

 上から様子を伺っていた怪人はにやりと笑ったのであった。

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