親子のオムライス!

崔 梨遙(再)

1話完結:1900字

 学校に行っても間に合わない時間。レ〇ナはベッドの中、掛け布団の中に潜り込んでいた。もう、学校には間に合わないという安堵感。もう今日は学校に行かなくてもいい。安堵感と同じ大きさの罪悪感。“また休んでしまった”という思い。レオナは、2種類の思いに苦しんでいた。


 コンコンコン!


 部屋のドアをノックする音だ。


「え! 誰? お母さん?」

「開けてくれー!」

「あなた、誰なの?」

「家庭教師やで」

「親から何も聞いてないんだけど」

「うん、親から頼まれたわけやない」

「変質者ですか? 家の鍵はかかっていたはずですよ」

「うん、鍵を開けずに入って来た。だから、入れてや」

「わかりました。変なことしたら、スグに大声を出しますよ」

「せえへん、せえへん」


 ドアを開けると、平均身長の痩せマッチョがいた。白のジャケット、黒いデニムパンツとタンクトップにネックレス。歳は30代後半だろう。眼鏡をかけているので、シャープな雰囲気が和らげられていた。


「レ〇ナさん、あんまり簡単に男を部屋に入れたらアカンで」

「それをあなたが言うんですか?」

「まあ、まあ、今の問題は勉強よりも不登校についてや。レ〇ナさん」

「は、はい! すみません、行かないといけないのはわかってるんですけど」

「何を言うてんの? 学校なんか、行きたくなければ行かなくてもええんや」

「そんな簡単に言い切っていいんですか?」

「通信制高校とか通信制大学もあるし、高等学校卒業程度認定試験もあるしなぁ。選択肢は沢山あるんやで」

「そう、ですね」

「それより、“学校を休むのはいけないことだ!”と思い込んでることがいけない。その思いが、不登校の自分を苦しめている。学校は休んでええんや! と開き直ればストレスはかなり軽くなるはずやで」

「そうですね! 少し気楽になりました」

「他に、最近凹んだこととかある?」

「朝、ダイニングに親がオムライスを作ってくれていて、夜に食べようとしたらゴミ箱に捨てられてた。せっかく作ってくれたのに、食べなくて申し訳無かったと思っています」

「ほな、今度は仕事で疲れた親にオムライスを作ってあげたら? 家族でオムライス食べたらええやんか」

「そうか、そうですね。あ、でも、あの、オムライスがゴミ箱に入っているのを見た時、“私がゴミになりたい!”って思いました」

「ああ、ゴミになるのはまだ早いなぁ。ゴミっていうのは、何か成し遂げた後の姿なんやで」

「意味がわかりません」

「例えばお茶っ葉、お茶を淹れてから、お茶の飲みガラとして捨てられるやろ?」

「あ、はい」

「野菜の切りくずだって、なんだって、一仕事終えたものがゴミになれるんや。レ〇ナちゃんはゴミにはなられへんで。これから、人気歌手として大きな仕事が待ってるんや。ゴミになるのはその後やから、何十年後か? わからへんな」

「未来のことまでわかるんですか?」

「未来から来たからな」

「何をしに?」

「レ〇ナさんがここで挫折せずに人気歌手になるためのサポートに来たんや」

「未来のあなたは何者なんですか?」

「レ〇ナさんの大ファンの1人や。僕はあなたの歌に支えられて来た人間やねん。勿論、レ〇ナさんは美人やから外見も好きやけど。でも、15歳やったらまだ幼いなぁ。まあ、心配せんでも5年後、10年後には魅力的な女性になれるから」

「ありがとうございます。私、歌手になれるでしょうか?」

「必ずなれる! そのことは疑わないで、自信を持って。そうやなぁ、後3年から5年で状況は好転するから、1番苦しいのは今やと思う。自問自答、葛藤に苦しんだ分、歌手になった時に活かされる。僕を信じて歌手になってや」

「あ……身体が……」

「ああ、僕の身体が透けてきたなぁ、そろそろお別れや」

「ありがとうございました」

「未来で、絶望している人に寄り添える良い歌手になれるからね! 信じてや!」


 男は消えた。レ〇ナはオムライスを作り始めた。夜、親が仕事から帰ってきた。


「オムライス、作っておいたんだけど」

「へー! 嬉しい、いただくわ」

「どう?」

「美味しい。けど、私のオムライスの方がもっと美味しいわよ」

「じゃあ、作り方を教えてよ」

「いいわよー!」



 10年後。病院で、“家庭教師を名乗った男”が息を引き取った。死に顔は、微笑んでいるかのようだった。不思議な力でレ〇ナと会うことが出来た男。男はレ〇ナの大ファン、レ〇ナを愛していた。レ〇ナと会えたことで、幸せな気分で逝ったのだ。だが、男が何故微笑んでいたのか? 医師にも看護師にも遺族にもわからなかった。笑顔の理由は、家庭教師を名乗った男だけが知っていた。







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親子のオムライス! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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