黒薔薇の誓い
及川稜夏
第1話
大理石のような床。どこまでも続く空間。
少女の声が響き渡る。
「いるんでしょ、蒼」
「やっときたんだね、咲」
10代後半程の見た目の、蒼と呼ばれた青年が姿を現す。その目は、夜空のようで優しい目だ。蒼を呼んだ少女、咲。艶やかな黒髪と白い肌。そして何より、身を包んでいるゴスロリはフリルとレースに塗れ、赤薔薇の刺繍があしらわれていた。服が、広い空間で何より彼女を印象付ける。
蒼は回想する。
(一体いつから僕は彼女と居たんだっけ)
蒼の思い出には全てに咲がいた。何かあればいつも頼ってくる。泣き虫で弱くて脆いのに、芯だけは強い咲。
かつて、存在すらできなくなりかけていた彼を、黒薔薇の誓いと咲の特殊なゴスロリが繋ぎ止めてくれた。この空間でだけでも、二人はずっと会い続けられるはずだった。
一体いつから歯車は狂ったのだろう。咲の高校にあの転入生が来た時からだろうか、それとも咲に友人ができた時からだろうか。それとも、他でもない蒼が狂わせてしまったのだろうか。
蒼は、今や満身創痍だった。このまま空間を維持していようがいずれ力は尽きてしまう。ましてや閉じてしまえば彼とて無事ではいられない。
いや、それともあの普通ではない転入生が彼の存在を消しにくるのが先だろうか。咲をひどく怯えさせていた彼が。
蒼は、腕の中に抱いたものを愛おしそうに見つめた。後ろから回した腕の中、玉座の中、ゴスロリ姿の咲はくたりと意識を失っていた。その体には鎖が巻かれている。まるで囚われの女王の人形のよう。
二度と目覚めないであろう彼女に、蒼は囁きかけた。
「これで永遠に僕を裏切らないね、咲」
黒薔薇の誓い 及川稜夏 @ryk-kkym
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