あの子とオムライス!
崔 梨遙(再)
1話完結:1800字
母親が仕事に出かけ、学校に間に合わない時間になり、やっとホッとして1階に降りたレ〇ナ、15歳。テーブルの上に弁当箱が置いてあった。レ〇ナは蓋を開けてみた。中身はオムライスだった。美味しそうだったが、レ〇ナは最近食欲が無かった。そのまま弁当箱に蓋をする。
その時!
「食べへんのかーい!」
と、声がした。キョロキョロと部屋の中を見回すレ〇ナ。勿論、誰もいない。
「ここや、ここやー!」
「え! もしかして、あなた?」
「そうや、僕や、僕や」
「もしかして、オムライスさん?」
「そうや、僕、オムライスや」
「最近のオムライスさんは喋るんですか?」
「他のオムライスのことは知らん。僕は喋る」
「なんで関西弁なんですか?」
「知らんわ! 関西弁は嫌いか?」
「嫌いじゃないですけど」
「あ、話を戻すわ。なんで蓋をしめるねん?」
「ちょっと食欲が無いから」
「なんで食欲が無いねん? なんや、何か悩んでるんか? 話してみろや、オジサンが聞いたるわ」
「でも、オムライスに相談しても……」
「あ、オムライスを馬鹿にしたらアカンで。さあ、悩みを打ち明けてや」
「今、学校に行けなくなってるんです」
「学校に行けない理由は自覚してるんか?」
「はい、自分ではわかっています。親には上手く話せないんですけど」
「ほんで、その行けない理由は自分1人で解決できるんか?」
「出来ないです」
「ほな、気にしたらアカン。自分で解決出来へんのやったら、悩んでもしゃあないやんか」
「まあ、確かに。でも……不登校はマズいかなぁと……」
「それや! それがアカンねん。学校に行けないことに罪悪感を感じてるやろ? それがアカン。不登校のまま堂々と生きたらええんや」
「それでいいんですか?」
「大丈夫や、通信制の学校もあるし、高等学校卒業程度認定試験という手もある。今は悩まないようにすることが重要やで。ほな、不登校に関してはこれで解決や、これでええやろ?」
「うう……微妙ですけど、確かに自分の力では解決出来ないことを悩んでも仕方ないですね」
「そうそう、ほな、次のお悩み!」
「お母さんを泣かせてしまったんです。私の不登校を気にして、私と話し合おうとしてくれたのに、私、上手く喋れないから伝わらなくて……泣かせたいわけじゃなかったのに」
「上手く喋れても伝わらないことは多々あるで。上手く喋れなくても伝わることもあるし。レ〇ナさんは上手く説明しようと思うからアカンねん。1回、泣きながら抱きついてみたらどうや? そうしたら、レ〇ナさんが悩んでツラくて苦しんでることは伝わると思うで。言葉に頼り過ぎたらアカンねん」
「わかりました……上手く喋れない時は抱きついてみます」
「そうそう、それでも伝わらへんかったら僕が抱き締めたるわ」
「私がケチャップまみれになるじゃないですか」
「汚れてもいい服装で抱きついたらええねん」
「はあ……わかりました」
「ほんでや! なんで僕を食べへんのや?」
「最近、食欲が無いんです」
「そういう時こそ、しっかり食べなアカンで。さあ、僕を食べてや」
「すみません、すごく食べにくいです」
「なんでやー?」
「だって、喋るんですよ! 喋るオムライスを食べるって苦痛ですよ」
「食べられてる間は黙ってるから、食べてや」
「はあ……じゃあ、一口……あ、美味しい」
「美味しいやろ!」
「喋らないって言ってたじゃないですか」
「あ、ごめん、ごめん。でも、オムライスに生まれてきたら、美味しく食べてもらうのが1番の幸せやねん」
「じゃあ、もう一口」
「うん、どんどん食べてや。もう、僕は黙るから」
「最後の一口ですよ。言い残したことはありませんか?」
「レ〇ナさん、かわいいから好きや。絶対にプロの歌手になれるから夢を諦めたらアカンで。ほな、最後の一口を食べてや。僕はまたオムライスに生まれ変わるから、また出会えたらもっとお話しよなぁ」
「はい。じゃあ、最後の一口、食べます!」
「どうぞ!」
「ああ、美味しかった」
それから、レ〇ナはふと思った。
「あ……私、オムライスに説教されたんだ……オムライスに説教される人って、私だけかな?」
レ〇ナは久しぶりに笑った。
母親が帰って来ると、レ〇ナは母親の胸に飛び込んだ。涙が溢れ出した。母親はレ〇ナをギュッと抱き締めた。
翌朝、レ〇ナは思った。
「学校、行こうかなぁ……」
あの子とオムライス! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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