余命九日の少女

藍無

一日目・夢か現実か

目の前にとても可愛らしく、不思議と惹かれる日記帳があった。少女はこれを買おうと思った。

「これ、ください。」

「はい、550円です。」

「はい。」

少女は550円ぴったりを出してその日記帳を買った。

「ありがとうございましたー。」

その買った日記帳を早速中を開けてみると、

『九日後に死ぬ』

と、書いてあった。怖かった。とても。その文字がとても赤い血のような色で書かれていて、殴り書きだったからではない。彼女には思い当たる節があったのだ。

彼女は至って今までは健康などこにでもいる平凡な少女であった。しかし、最近はめまいでふらっとふらついて動けなくなったり、頭痛・腹痛がひどかったり、心臓が痛くなることがしばしばあり、どこかおかしいのではないかと思っていて、病院にいったら、それは重い病気であることが判明したからだ。医者からも長くはもたないといわれていた。

『怖い』、ただ単純に怖かった。死ぬことも、何もかもが。今までは死ぬことの怖さをあまり理解していなかったから、毎日こんな苦しい日々を送るくらいなら死んでしまいたいと思っていたほどだったのだが、死を目の前にすると、急にそのことが現実味を増してきて本当に怖くなった。死んだら人間はどこに行ってしまうのだろうか。死んだらその人間はきっといつかは忘れ去られてしまう。いやだ、、無にかえるのだけは。誰からも忘れ去られてしまうのだけは。

それだけは少女にとって許しがたいことであった。

なら忘れ去られないようにしなければ。死ぬのはもう決まっているのかもしれないから、死という大きな力の前にしては今まで自分が築き上げてきた努力の結晶はあまりにも無意味だから、せめて、人から忘れられないようにあがかなくては、それが死を宣告された少女の思ったことであった。

――――――――――――――――――

次の瞬間、少女は目を覚ました。

「何だ、、、夢か。」

気が付いたら汗がびっしょりになっていた。

「はあ、、、枕カバー洗濯しなきゃじゃん。最悪。」

少女の名は、桜。13歳。親は夜遅くまで働いていて家にあまりいない。そのため、家事の全般は自分でやらなければならなかった。

「あーあ、夢かぁ。まあ、よかったのかもなー、夢で。」

そう言いながら桜が枕元を見ると、

――――日記があった。夢に、出てきた。

「は?」

桜は一瞬硬直した。

「え?夢じゃなかったん?まじで?」

そういいながら、日記を開くと

『余命、本日を含めあと9日』

と書いてあった。

「、、、、、。ふざけやがって。」

なんの冗談なんだろう。本当に。単純に桜はそう思った。

どうして私が死ななければならないのだろう。そりゃ、一年以内に死ぬかもしれないといわれていはいたが、まさかあと九日しかないとは。てか、この余命宣告は本当なのだろうか。嘘なんだとしたら、書いたやつマジで許せねー。でも、この私しか普段生活してない一軒家に誰かが入ってわざわざ余命宣告までして去っていったのか?

――マジでなんのために?

そんなことをしてメリットがありそうな人物は桜が考えた範囲では誰もいなかった。

本当に、死ぬのかな。

そんなことを思いながら桜の貴重な九日間のうちの一日がスタートしたのであった。

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