#31 陽炎

「改めて、今日はé4clat(エクラ)1.5周年記念3D LIVEを見てくれてありがとう」


 最後のアンコール曲披露前、夏樹なつきはセンターに立って、締めの挨拶をしていた。

 当初、ライブを行なう予定では無かったこの日は、夏樹たっての希望で急遽ライブをすることになった。本当に急に決めたことだったので、お客さんを入れての開催は出来なかったものの、画面越しには1万人以上の人が視聴している。

 また、今回はメンバー全員でセットリストを考案したり、ダンスの振り付けを日向ひなたが考えたりなど、これからのライブでやりたかったことを沢山詰め込んだものとなっている。

 勿論、最後に歌う曲もそうで、れいが選曲したものだ。普段は英語の歌詞が入ったりするロック調の音楽を好む玲が、この曲を歌いたいと言ってきた時は驚いた。それに歌詞を見てみると、é4clatや夏樹を連想させるように思えて、このタイミングで歌うのはかなりクルものがあった。

 しかし、私達4人が最後に歌うとするなら、これほどぴったりな曲は無く、誰も反対する人はいなかった。

 夏樹は、そんな想いが籠った曲への振りをする前、珍しく笑顔を抑えた真面目な顔で話し始めた。


「最後に、もう1曲歌わせて欲しいのだが、その前に少しだけオレに時間をくれ。

 いつもオレ達é4clatを、天倉あまくら 夏樹なつきを応援してくれてありがとう。こうやって活動を続けることが出来たのも、お前達が見てくれていたおかげだ。そして、プロデューサーとマネージャー。他にもファンには見えない所で日々走り回ってくれてるスタッフもありがとう。

 と、なんで急にこんな話をし出したかというとだな。最近、凄く実感したんだ。こうやってオレ達が活動出来てるのは当たり前なんかじゃなくて、とても幸運に恵まれているだけなんだと。だから、そういう感謝したいことって、したら減るもんじゃないし、今の内に伝えておこうと思ってな」


 カメラに向かってニコッと笑った夏樹は、今度は隣にいた私達に順に目線を配った。


「玲、日向、冬羽。オレの我儘わがままを聞いてくれて、ありがとな。お前達がいたから、オレはここまでヒーローでいられた」


 声は今までと変わらず、ただ優しく微笑んだ夏樹を見て、日向は一瞬暗くなりかけた表情を明るくして話した。


「こちらこそだよ。夏樹くんも、いっつもリーダーとして引っ張ってくれて、ありがとう」


 日向の嘘偽りの無い言葉は、ちゃんと届いたようで、夏樹は大きくコクンと頷き返して、前を向いた。


「あぁ。話が逸れてしまったが、改めて。この曲を歌った後も、オレ達は前に進んでいく。

 例え、沢山の困難が待ち受けていたとしても、お前達ヒーローがいる限り……これからも、ずっとだ。それじゃ、聴いてくれ──」


 夏樹の振りで曲が流れる。私はイントロを聴きながら、自分のパートを歌いながら、そして歌い終わってアウトロを聞いている間、こう思っていた。


(また、私達は会えるのかな……ううん。こうやって再び会える日まで、私達は輝き続けなくちゃいけないんだ。これまでも、これからも。

 そしたら、きっと──)


 この日、アンコールでの夏樹の語りやメンバーの間に漂っていた異質な空気にファンは動揺した。もしかしたら、彼等に何かあったのではないかと。

 その翌日。残念ながら、ファンの心配は的中し、é4clat公式SNSに上がったお知らせは瞬く間に拡散されることとなる。

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