#9 四人寄れば……?

 天倉あまくら夏樹なつき宮秋みやあきれい春風はるかぜ日向ひなた霜月しもつき冬羽とわが声優事務所ダイヤモンドダスト所属とProject étoile参加が発表されてから、早数日。

 今、最も私の頭を悩ませていたのは、1週間後にある初配信についてだ。

 1人の持ち時間は30分、リレー形式で行われる配信は夏樹、玲、日向の順となり、最後は冬羽が務めることとなった。この順番も皆で相談し、最終的には「自己紹介の順番だとダメなのか?」という夏樹のひと言で決まった。

 そして、特に私を悩ませていたのが初配信の構成だ。30分という短くも長い時間で、いかに自分を魅力的に伝えることが出来るか。自己紹介はマストで入れるとして、後は得意なイラストを描いてみせるべきか、それとも別のことを、と考えを巡らせていたのだ。


 更に私には深刻な問題が残っていた。それは兄である霜月しもつきはるかの存在を公表するかどうかだ。

 兄に関しては、応募した時から事実に向きあう覚悟をしていたこともあって、兄含めてプロデューサーを務めている一ノ瀬さんにも相談し、敢えて苗字は変えない決断をした。

 現在、SNSでの反応を見る限りは血縁関係を疑うコメントは見かけなかったが、やはり「同じ苗字だ」と言う人は少なからずいた。しかし、業界には同じ苗字であっても血縁関係では無い人が多くいる影響で、大きな騒ぎにはならなかったようだ。

 それに、仮に配信で指摘コメントが流れたとしても無視出来るが、結果、兄に迷惑をかけてしまうことになりかねない。そうならないようにするには、さっさと公表すべきではあるが、兄の名前を出したことで売名に利用されていると思われるのも嫌だ。


 思考する事に増えていくモヤモヤを追い払うことが出来ないまま、ふとスマートフォンを見ると、ある人物からメッセージが届いていることに気が付いた。


『冬羽ちゃん、今暇? 良かったら、みんなで作業通話しよ。招待送っとくね』


 日向からのメッセージを見て、アプリを開けば、皆のアイコンが通話サーバーにあった。

 これは流石に行くべきだろうと判断して、私はノートパソコンの電源を入れて、再度アプリを起動する。そして、通話サーバーに移動する為にカチリとクリックした。


「あっ、冬羽ちゃんだ。お疲れ様〜」


「冬羽! おはよう」


「……お前、結局来るのか。なら、さっさと来い」


 通話を繋げると、いきなり三者三様の挨拶を浴びる。私はメッセージに直ぐに気付けなかったことに対して、申し訳ない気持ちのまま、口を開いた。


「お疲れ様。メッセージ、無視しちゃってごめん。少し考え事してて」


 上手な言い訳も思い付かず、嘘偽り無く話すと、太陽のような明るい声が聞こえてきた。


「悩みか。良かったらオレが、いや。オレ達が相談に乗ろう。その為のユニットでもある筈だからな」


「そうだよ。僕たちで良ければ、何でも言って?」


 夏樹と日向の心遣いが胸に沁みる。しかし、大きな悩みの種である兄については、誤魔化して伝えるのも難しいし、まだ皆に言うことも出来ない。ならば、ここは優しさに甘えて別のことを相談してみようか。

 私は、心配してくれた感謝と共に不安を打ち明けてみることにした。


「ありがとう。実は初配信が上手くいくか不安で」


「そっかー」


 日向の共感する声が響き、一瞬沈黙が生まれる。もしかして、余計に気まずい空気にしてしまっただろうかと、そわそわしていると、日向が突如、「そうだ」と口にした。


「お出掛けして、美味しいご飯を食べて、不安なんて吹き飛ばしちゃおうよ。皆んな、明日って空いてる?」


「「「え」」」


 日向以外の3人分の声が見事にシンクロする。今まで沈黙を突き通していた玲も驚きを隠せなかったようだ。


「おい。初配信が迫ってるんだぞ。遊んでいる暇なんて……」


「玲くん。明日の予定は空いてるの、空いてないの?」


「……スケジュールは、空いているが」


「じゃあ、決定〜。夏樹くんは、どう?」


「オレは勿論、友の為ならば。例え、鬱蒼としたジャングルも未知の深海宮殿でも何処へでも駆け付けるぞ」


「よ〜し。夏樹くんも確保。冬羽ちゃんは?」


 私は明日も物思いに耽るだけであったが、一応、マネージャーと共有しているスケジュール表を確認して、答える。


「えっと……空いてるよ」


「じゃあ、決まり。実は僕、ずっと行きたいと思ってたパンケーキ屋さんがあるんだよね〜。だから、明日はそこに行かない?」


 ウキウキした声で提案してきた彼に私と夏樹は直ぐ了承すると、玲は、もう引き返せないことを理解したようで、渋々口を開いた。


「……分かった。そこまで言うなら、後はお前に任せる」


 彼の返答に嬉しそうにした日向は、早速、ウキウキとした声で計画を立て始めた。

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