第34話 課される試練

「みんなお待たせ! 準備が整ったよ!」


 数分の小休憩の後。


 リーシェのハイテンションな声が辺りにこだまする。


「さてさてと。ここからは個別課題だ。各々さっきのアドバイスで方向性は分かったと思う。後はひたすら極めるだけだ」


 そう言って、リーシェは色々と道具を取り出し、準備を済ませていく。


「それじゃあディノ、君からだ。君にはこいつと戦ってもらう」


 リーシェが投げたキューブ。

 そこから現れたのは、一体のゴーレムだった。


「こいつは僕が作ったゴーレムだ。ゴーレムの倒し方は理解しているかな?」


 リーシェの質問に僕は頷く。


 ゴーレムはコアとなる魔核に岩石などの物質が寄り集まったことによってできたモンスターだ。

 成立工程は全てのゴーレムで共通しているが、集められた物質によってその性質は大きく異なる。

 ただ、成立工程が共通している以上、倒す方法もまた同じ。

 コアに攻撃を加えて、破壊することである。


「結構。だが、こいつは少しばかり違う。ゴーレム戦の定石としてはコアを露出させて、これを叩くことだ。しかし、このゴーレムの防御力はあのサンドメカワームくんと同等に作ってある」

「え……それじゃあ倒せないんじゃ……」

「いや方法はある。ゴーレムの身体を通して、魔力を撃ち込み、コアだけを破壊することだ。それを行うにはゴーレムの魔力波形を完璧に捉えた上で魔力を流し込む必要がある。加えて、身体を形作る物質には魔力伝導を減衰させる反魔法物質を混ぜ込んでいる。コアまで届かせるためには自分の魔力を強く、かつ繊細に操ることが求められる。どうだい、いい課題だろう?」


 さも当然かのようにリーシェは説明を行う。

 忘れそうになるが、リーシェから発せられる言葉の数々はその全てが極めて難易度が高いものである。

 少なくともやれと言われて、容易くできるものではない。

 覚悟こそしていたが、また恐ろしく難しい課題が出されたものだ。


 まあ本当に恐ろしいのは、これほど手の込んだ課題をものの数分で完成させるリーシェなのだが。


「……一筋縄ではいかないでしょうけどね。とにかくやってみますよ」

「いい心がけだ。さて次は……」


 リーシェの視線が残りの3人の間で移っていく。


「ゴルドー、ルーシェ。君たち2人だ。課題こそ違うが、やってもらうことは似ているからね。一緒に説明することにしよう」


 再びルーシェはキューブを投げる。

 今度は2つ。

 それぞれのキューブから異なるモンスターが飛び出してくる。


「まずはこいつ。エレメントバードだ。これはルーシェに戦ってもらう」

「エレメントバード……ですか」

「お、知っているかな。一応説明しておくと、エレメントバードは魔力自体が身体を形作る魔法生物だ。当然物理攻撃は効かない。魔力での攻撃が対抗手段となる。だが、これも僕の特別製でね、通常のエレメントバードより魔力濃度を10倍にしてある。生半可な攻撃じゃ養分として取り込まれるだけだから注意してね」

「なるほど……そういうことですか」

「シンプルで分かりやすいだろ? そしてゴルドーはこっち」


 リーシェが指を差したのは、もう一体のモンスター。


「これは……スライム?」


 大きさこそブルーの数倍はあるもののそれ以外はほとんど変わりない。


「簡単に言えばそうだけど、もうここまできたらただのスライムじゃないのは分かるよね。こいつはミラーボールというモンスターだ。相手の魔力を読み取り、そっくりの姿に変化する。本来は姿だけしか真似できない張りぼてモンスターだけど、僕の調整で身体能力まで反映されるようになっている。同じ技量で同じ武器を使う敵と戦うことで存分に武器の解像度を上げてほしい」

「……これは、良い修行になりそうだね」


 ゴルドーはミラーボールに触れる。

 すると、数回身体を蠢かせた後、ゴルドーとそっくりの姿へと変化した。

 色こそ、元の姿のクリアカラーを引き継いでいるが、その気配までゴルドーと同じ。

 色まで同じであったなら、見分けがつかないほどの再現度である。


「最後はランだね。君にはこれだ」


 リーシェが取り出したのは、何かが入った瓶。

 液体らしき中身は毒々しい紫色をしている。


「なんですか、それ……。もしかして毒とか……」

「そうだよ。これは安楽草と呼ばれる植物の成分を抽出したものだ。その効果は一時的な仮死状態を引き起こす」

「ええ……毒……仮死って……なんか私だけ方向おかしくないですか……?」

「うん、これに関しては僕らしくない荒療治だ。だけど、これが一番手っ取り早い。君の意識を強制的に失わせて、無意識の内に力を抑えこんでいる原因と対峙する。……とはいうけど、実際どうなるかは分からない。何もないまま目が覚める可能性もある。その場合は別の方法に切り替えるから、安心して飲んでね!」


 ウインクしながら、リーシェは瓶をランへ差し出す。

 ランはうー、と唸りながら渋々瓶を受け取った。


 こうして僕たちが取り組むべき課題は決まった。


 それぞれが試練を前に覚悟を決める。


 更なる先へと進むために。

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