世界がゾンビまみれになったので、わたくしたちはダンジョンを攻略しながら安息地を求めて旅します。(仮題)

内妙 凪

第1話 久化10年4月1日

この作品はこの作品はフィクションです。

実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。


◇────────────────◇


 平成が終わって久化きゅうかに元号が変わってから、ちょうど10年が経ったその日、久化10年4月1日。破滅は突然訪れました。


 わたくしはその日、ちょうど御爺様に呼び出され、東京でも有数の高さを誇る六本木グレーター受楽院じゅらくいんビルの最上階のオフィスを訪れていました。


 ああ、ご紹介が遅れました。わたくしの名前は受楽院 誉玲ほまれ。受楽院グループ総帥、受楽院 弦三郎の孫にあたります。年齢は16歳。誕生日は5月5日の乙女座です。身長は170センチメートルちょうど、体重は秘密です。足のサイズは24センチメートル……もういいですか?


 とにかく一応わたくしは世間的には受楽院家の令嬢となっているのですが、残念ながら一般的なご令嬢とは変わった育てられ方をしておりました。


 と言いますのも祖父とわたくしの父が不仲であり、父が受楽院グループを継ぐことを認めなかったことで、わたくしが生まれる前に色々とトラブルがあったそうなのです。


 そして祖父と父は第一子の性別、能力如何に関わらず後継者にすることに決めました。当人のわたくしの意志など関係なくです。……まぁ、楽しかったのでわたくしは構いません。ただ今のところ会社経営に興味はないので、これから興味を持てるものなのかと心配ではありますけれど。


 祖父はその第一子を後継者とするため、独自の教育を施すことにしました。表向きはアメリカ西海岸にある、幼稚園から高校まで一貫の女学園に通っていることになっていますが、実際は一部界隈で世界最強と名高く、さらに祖父の親友でもある武術家のような方に高校卒業までの教育を託すという、それはもう常軌を逸した教育を施すことにしたのです。憲法が定める教育の義務とは一体?


 わたくしと師は世界中を周り、あらゆることを行いました。時には生きるために動物を狩ったりもしましたし、人も殺めました。お恥ずかしながら14歳で初めて日本に帰国するまで日本語も話すことができませんでしたし……。


 今思い出しても刺激に満ち溢れた素晴らしい日々でした。これからの日々があの時よりも楽しくなることをわたくしは願って止みません。


 六本木グレーター受楽院ビルのとても長い直通のエレベーターを降りると、受楽院近衛と呼ばれる方たちが待機しておりました。スーツ姿の筋骨隆々の方たちです。


 わたくしは会釈をして通り過ぎ、そのまま祖父のオフィスの扉の前に向かいますと、扉の前を警護していた近衛の方が扉を開けてくださいました。


 祖父の姿を視認すると同時にわたくしに向かって小さなナイフが飛んで参りましたが、指でつまんで祖父の机の上に投げ返しておきました。相変わらずそそっかしい御爺様ですわ。


「御爺様、ごきげんよう。御爺様の愛する誉玲が参りました」

 

「うむ……相変わらずだな」


 ガラス張りのオフィスの最奥、そこに鎮座する巨大な杉の無垢板を使った机。その後ろにどっしりと座っているのはわたくしの敬愛する御爺様。名を受楽院 弦三郎げんざぶろうと申します。御年93歳。しかしそうはとても見えない体格をしておられます。身長は190センチメートル近くあり、体もまるでボディビルダーのように厚みがあります。本当に93歳なのでしょうか? わたくしはいまだに信じられません。


 白くなった髪をオールバックにして、短く刈り揃えた髭を撫でながら、いつものように渋い顔をしていらっしゃいます。


「誉玲、お前はまだまだ未熟だが、ワシの求める後継者としての水準に達しておる」


「はい。ありがとうございます」


「そこで約束のものを用意した。少し早いが誕生祝いだ」


「まぁ! ありがとうございます、御爺様!」


 わたくしったら思わず昂ってしまいました。成人祝いに何か欲しいものがないかと聞かれましたが、まさか本当に頂けるのでしょうか! こんな気分は南アジアの某国で人さらいどもを根切りにした以来です!


 静かに目を細めて頷く御爺様の机の上に近衛の方がとても長い刀を持ってきてくださりました。刃渡り1メートル近い大太刀です。


「銘を蛍丸という。合衆国の知り合いに無理をいって譲ってもらったものだ。大事にしなさい」


「はい。大切に致します。御爺様、ここで抜いてもよろしいですか?」


「うむ。だが部屋の中ではふり……」


「まぁ! なんて素晴らしいのでしょうか!」


 抜いた蛍丸を振るうとピュンッと素敵な音が鳴りました。少し重いですがそのうち慣れるでしょう。妖艶な反りを持った刀身はしっとりと濡れているようです。今までわたくしが持った刀の中で間違いなく一番でしょう。斬った机の角もとても美しい切り口です。これは師匠もきっと羨ましがります!


「とても気に入りました。大事に致します、御爺様!」


「うむ。机は斬らぬようにな……」


「はい!」


 なぜか渋い顔をされている御爺様に微笑みかけると、ぎこちなく笑い返してくださいました。御爺様は相変わらず笑うのが苦手なのですね?


 その時、空が突如として赤く染まりました。

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