第42話 頼み事

 今、私の前にユルリカがいる。記録係として冒険者の人たちと一緒に森に出てほしいと目の前で懇願こんがんしていた。しかし、私は外に出ることは拒否している。過去私とともに出て、全員危険な目に遭っている。もし、私がその原因となっているならともに出ないほうがいい。


「無理だよ」

「お願い、アーロ君。アーロ君が知らせるモンスターの情報はすごく正確なの」

「だけど、僕が一緒に行くと冒険者の人たちが危険な目に遭うよ」

「それはみんな覚悟の上よ」

「それはそうだけど」


 危険なことを常にしている以上、全員覚悟はあるだろう。だが、想定外のことが毎回起きている。ダンジョンに潜った時や水晶を届けに行った時。そして、アレシアと会った時も。


「ごめんけど、今回は無理だよ」

「……そっか」


 自分1人で調査に行くのなら受けるが、ほかの人を巻き込むわけにはいかない。誰かが私の命を狙っているならば、なおさらだ。


「それ以外ならば何でもやるよ」


 前、私が提案した担当分けや荷物運び。それならば誰かが危険な目に遭うこともない。それに仕事がなかったとしても、最近少しだけ文字を理解してきた。それを使って怪物についての資料を読むこともできる。

 手伝いとは言っても、ギルド職員ではないからより詳しいところまでは読めないが、冒険者たちが読んでいるものなら読んでもいいと許可も下りていた。それを一日中読むことだってできる。

 怪物については、直接見に行く必要だってない。英国では必要だったが、ここでは私より前の者たちが記録を残している。それを読めばいい。


「じゃあ、今日は荷物運びになるわ」

「わかった」


 ならあの場所だな。獣人のメリセントがいるところだ。そこに向かおうとして、受付を出たとき、革防具を着ている冒険者の2人組に呼び止められた。


「あなたがアーロ君?」

「そうだよ」


 大きい帽子をかぶった女の子だ。その横に棍棒を持っている男の子もいる。なぜ棍棒なのかはわからないが、見た目や身長からして私と同じくらい。ただ、腕を見ると冒険者の証である腕章をつけている。アレシアのとは若干違うな。


「受付さんが言っていたけど、モンスターの知識が豊富ってあなたのことよね」

「ユルリカお姉ちゃんが言ってた?」

「そう」


 この2人がユルリカを仲介してお願いしてきたっていうことか。


「聞いたのなら早いわ。一緒に行ってくれないかしら?」

「ごめんなさい。さっき、ユルリカ姉ちゃんにそれを断ってきたところだった」

「え……それはなぜ?」

「過去に冒険者の人たちやギルドの手伝いで別の街に行ったときにモンスターに狙われて、それから外に出るのが怖くなって」


 私が原因で事故に巻き込むわけにはいかないからな。


「それは、確かに……」

「俺だったら行くぞ」

「バカ。トラウマになってるかもしれないでしょ」


 男の子を女の子がでかい棒で軽く叩いている。依頼とかで使う棒で叩いたが、大丈夫なのか?

 男の子が叩かれて笑ってるからいつものことなんだろう。


「大丈夫だよ。トラウマになってない」


 トラウマになるとしたら、殺されかけたうえに、それ以上の攻撃を受けた時ぐらいだろうな。


「行けないとしたらどうしよう」

「知識ならやれるよ」

「じゃあお願い」


 2人の冒険者にこれから向かう怪物の知識を授けた。これで生き残って戻ってきてほしいが。

 この2人次第だな。

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