第26話 慣れるには
昨日はアレシアを少しでも元気にさせるために、自分の少ないお金で食事とお酒用のお金をだして飲んだ。そのせいで頭痛と吐き気に悩まされたが、アレシアは平気だったようで、私の介護をしている。普段から飲みなれているのか、それとも制限を知っているのかだな。
「すまん、あれしあ」
「いいよ」
励ますつもりが私が励まされている。情けない。
「ねぇ、アーロ君」
「ん?」
私の頭を撫でていたアレシアの手が止まる。
「アーロ君はどうやって慣れたの?」
「私は、とにかく見続けた。怖いや悲しみの感覚がなくなるまで」
殺して見続けたのだがアレシアには言わない。そしてこれからも言うつもりはない。
「
「辛かったさ。毎回泣いてベッドの枕を濡らしていた。それでも慣れなきゃいけなかった。慣れないと生活が出来なかった」
そうしなければ心が壊れてしまうから。自覚していない所がもう壊れているかもしれないが、まだ常識人のつもりでいる。世界のルールに順応し、人の枠を外れないように動いているつもりだ。
「私もそうしようかな」
「やめておけ。私はそれでしたが、アレシアにも合うとは限らない。なにより、心が壊れるぞ」
心が壊れればその場から動けなくなるうえに冒険者も出来なくなる。
「母を楽にさせたいのだろう? 私と同じことをすればそれすらも出来なくなるぞ」
「それは……」
「嫌だろう? だから別の方法で乗り越えるしかない。私は1つしか方法を知らないが、他に冒険者はいる。その者達に聞くのが一番だ」
1人の意見を聞くよりも多くの者の意見を聞く方がいい。多いぶん様々なことを言うやつがいるかもしれないが、その中で自分に合うものを見つけられるならそれが一番いいだろう。
「でも、私誰とも話したことがない」
「受付のユルリカとは話したろ? 彼女を仲介して他の人を紹介してもらうのが一番じゃないか?」
「それがいいかな?」
「ああ」
彼女が言うように自分から誰かに話しかけているのを見たことがない。大男から私を守った時に震えながら声をかけたのはみたが、あれは仲裁するためのもの。相談ではない。
どうしても無理そうなら手助けもする。自分では相談の対象にはなれないが、子供ということを生かして、積極的に声をかけていけばいい。相手をよく見て声をかけないといけないが。
「そういえば、今日休みなのだろう? どこか行く予定とかあるのか?」
話していたらいつのまにか吐き気などはなくなっていたが、アレシアは休みを取っていたんだ。どこかに買い物に行く予定でもあったのかもしれない。私が酔いつぶれたばかりに朝から迷惑をかけてしまったが。
「防具を綺麗にしてもらおうかと思って」
革装備だが、どこか少し汚れている。私の感覚だと革を綺麗にするのにはお金がかかると思っているのだが、この世界では少し違うのかもしれない。ギルドにいればアレシアと同じように革防具の人もいた。そしてその素材となる怪物も多くいる。それ故にしやすいのかもしれない。分からん。想像の域だ。整備しているところを
を実際に見たわけではないからな。
「そうか」
「アーロ君はどうする?」
「私は、ここでゆっくりしておく。動いたらまた頭が痛くなりそうだ」
安静にしているから落ち着いてはいるが、少しでも動けば痛みがまた復活しそうだからな。
「わかった」
「防具を綺麗にしてくるといい。たまの休息だ。私のことは気にするな。何かあれば痛みを無視してギルドに行く」
「うん、じゃあ行ってくるね」
「ああ、気を付けて行けよ」
私の頭を優しく撫でたアレシアの顔は、少しだけ落ち着いた表情をしていた。その表所のまま扉へと向かい、外へ出ていく。
「寝れば多少の痛みが無くなるかもしれない」
そう思い、薄い毛布をかぶったのだが、寝ること自体に対して何故か戸惑いが発生している。朝起きたばかりというのももしかしたらあるのかもしれない。今は寝るときじゃないのかもしれないが、言葉では表せないほどの不安が自身の心を支配している。
過去の話を少ししたせいか、それに引っ張られて気持ちが落ち込んでいるな。
まぁしばらくすれば不安もなくなるだろう。
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