第20話 応戦
洞窟らしき場所の前にたどり着き、門をくぐる。中は私が想像しているような薄暗く、線路が地面にひかれ、蜘蛛の巣などが張ってあるようなところだ。
蜘蛛か。嫌な思い出しかないな。アラクネの毒でこんな姿になったのだ。しかも、力まで奪われた。アラクネを倒す。私をこんな姿にした報いは受けさせる。その為には早く元の姿に戻らなくては。
悶々と私が頭の中で恨み辛みを吐き出している間に、アレシアが松明に火を付けた。そして、もう一本を剣士ローリンが持つ。松明で照らしているとはいっても、明かりで見える広さには限界がある。私を中心に縦に並んで移動しているが、これでは後ろの人物がなにかあった時、すぐ知らせるのは難しいだろうな。
「足元気を付けて。滑りやすくなってるから」
そういえば、入る前に戦うのはダメだと言われたが、襲われてし返すのはダメとは言われていない。仕方なくだ。仕方なくし返すのだ。
なるべくバレないように武者震いを押さえてはいるが、戦いたくて仕方がない。
ギルドの仕事の手伝いも有意義ではあるが、ここに来る前はずっと戦いっぱなしだったせいか、求めてしまうのだ。戦いを。だが、ルールがあるならば守らねばならない。目立ち過ぎないようにして。もう難しいかもしれんが、しばらく大人しくしていたら人の記憶から私のことは薄れていくだろう。その時にひっそりと活動すればいい。
「何か来る」
前を歩いていた斥候のカリスタが全員を止めた。この何か来るで既に分かっていなくてはならないが、ここで言ってしまえばこの4人の実力を上げる
私の耳に届く音は、二足歩行で軽い体重のものだ。時々壁に重いものを当てたような金属音と木の音がする。棍棒を持っているのだろう。洞窟にいるのはドワーフかゴブリンだな。ただ、ここはダンジョンと呼ばれるところだ。そんなところにドワーフはいない。そもそも壁を削っているような採掘音が聞こえない。なら、ゴブリンだろうな。
「来る!」
前から大量のゴブリンが現れた。棍棒、弓、投石機。そして、杖を持っている者。とりあえず私は下がろう。皆の戦闘の邪魔になる。
アレシアの後ろに下がり、背後を警戒する。
下がった途端に、混戦が始まった。ローリンが剣で応戦しているが、少し長すぎるな。時々壁にぶつけている。さて、どうするのだろうか。
「アーロ君助けて……」
「私に頼ったらダメだろ」
ふむ。小型ナイフと盾で応戦しているのか。考えたな。魔法使いマリンダも小さい石を空中に出現させゴブリンに向けて撃っている。
アレシアが槍を持ちながら私の隣に来る。こそこそと小さい声で話しかけてくるが、ここで私が応戦したら違反になる。
「参戦は出来んが、助言はしてやる。槍を持って右手を後ろに。左手は前の方を持て」
言われた通りの持ち方をしているが、前過ぎるな。
「もう少し短くだ」
さきほどまで刃がある場所に近かったが、今は離れている。
「それで刺せ。刺しまくってぶつけろ」
「え、でも」
「味方に当たりそうだと思うなら一歩下がれ。もしくは後ろに来ているやつのことだけ考えろ」
私が後ろを振り返れば、多くの足音が近づいてくる。
「きゃあ!」
「絶対に途中で手を止めるな」
悲鳴を上げたアレシアを見上げたが怖くなって目を閉じていた。万が一のことを考えてナイフに手をかけてはいるが、ここは自制しなくては。
「アレシア、目を開けろ。でなければ皆もろとも死ぬぞ」
「で、でも」
「でもと言ってる場合ではない。覚悟を決めろ」
震えながら目を開けるとすぐ目の前にゴブリンが迫っている。前も迫りくるゴブリンで対処に追われている。
「や、やぁああああ!」
目を
「やれば出来るじゃん、アレシアお姉ちゃん」
最後の一体を倒し、前もひと段落着いたのか、その場でしゃがみ込んでいる。
アレシアは終わったことに気づいていないのかまだ槍を振っていた。
「アレシアお姉ちゃん、終わったよ」
アレシアの服をグイっと引き、地面に尻餅をつかせた。短い悲鳴を上げた後、荒い呼吸が聞こえてくる。
「お疲れ様。よく頑張ったじゃん」
よく頑張った。だが、まだ1階層目だ。この調子で進めるのだろうか。さて、記録をしとかなくてはな。
記録
ダイムサルンダンジョン 1階層目
敵 ゴブリン
死傷者 0
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