第6話 リベンジ
「実を言うと、私もそこまで世界を知っているわけではないんだ」
「なら教えるね! 他の国の常識には私も詳しくないけど、この国についてならいろいろと教えられるよ!」
「よろしく頼む」
怪物に対しては今までで得た知識と新しい情報を掛け合わせながらやって行けばいいが、世界の常識については誰かから教えて貰わなければ一生知らないままだ。
言葉は通じてはいるが、文字が読めるかどうかも実際に見なければ分からない。
生活するのだってお金がいるだろう。お金の稼ぎ方や生き方。住む場所も考えなくてはならない。
「とりあえず、街に行こう。それまでの間いろいろと教えるね」
「ああ」
遠くに見えている街に向かうのだろう。そう歩き始めた時、背後で
「危ない!」
とっさに反応出来なかった私を、アレシアが抱えて木を挟んで向かい側の地面に倒れ込んだ。
「平気か」
「だ、大丈夫」
大丈夫だとは言ったが、痛そうに顔を歪めている。どこかを
「あれは、さっきの牛か?」
「トキシン・ブル……」
震えた声でアレシアが動物の名前を呟いているが、先程私たちが追われていたやつとは違うのか。見た感じ違いが分からないが。
それにしてもトキシンか。どこにあるかが問題だな。ツノか皮か。それともフグと同じように内臓か。何も知らないというのはとんでもなく恐ろしいな。
「トキシンということは毒だな。それはどこにある」
私とアレシアという目標を見つけて、トキシン・ブルが地面をかいている。今にも突進してきそうだ。今ここで倒さなければいつまでも追いかけられるし、攻撃を喰らえば毒に侵される可能性もある。
「な、内臓と吐く息に」
吐く息にということは肺に溜まっているのか。これは早めに倒さなければ。今は大丈夫でもいつ吐かれて毒に侵されるか分からないからな。
しかし、どう倒すか。アレシアが持っている槍は鍛えていない自分の力では持てそうにない。今手持ちのナイフでやったとしても
だが、まだ遅かった。ツノが少しだけ腕の布に引っ掛かったのか
せめて締めあげる物があれば。
周りを見渡せば、倒れ込んだ場所よりも離れたところにアレシアがいた。ブルと距離を保ちつつ近づく。
「アレシア、縄はあるか」
「あ、ある!」
訊ねれば持っていると答えが返ってきた。ナイフや槍で傷つけて倒すことは出来ない。なら縄で首を締め上げて倒せばいい。口から毒を吐き出すなら、ワニの口が開かないように絞めるやり方で、残った部分で首に巻いて、後は突進する力を使って私が全体重をかけながら後ろに倒れば終わり。
落ちないようにブルの背に乗りながらだ。せいぜいもって5秒。上手くいけばいいが。
アレシアから輪っか状にまとめられた縄が投げ渡され、それを受け取り、カーボーイが持っている投げ縄に形作る。
「さぁ、来い。今回で終わらせてやる」
次こそは成功させる。
私の言葉を合図にブルが突進してくる。スピードが肝心だ。
最初あった時にしたツノを掴んでその遠心力でブルの背中に乗る。ブルが暴れるせいで土埃が舞って目に入って痛い。ずっと目を開けるのが難しいが、息を吐かせないように輪の部分でなんとか口を塞ぎ、余った部分を首に巻きつける。
後は、自分の力が持つか。
「ここで、離したら、終わりだ」
ブルの背に乗り、やつのツノに両足を当てながら自分の体重を後ろに倒す。何も傷ついていない
あと数秒だけでいい。耐えてくれ、私の力。
「ぐ……ぐ……」
動きが先程よりも鈍くなり、ぐぐもった声を出している。あと少しだが、最後まで気を抜いたらダメだ。死が近づいてくるものは最後に何をするか分からない。
ん? 尻あたりに違和感が。いや違う。ブルの胴体部分が膨らんでいるのか!
「アーロくん、早く息を止めて! トキシン・ブルが毒霧を鼻から出そうとしてる!」
まずい! 早く呼吸を! 子供の体で息がどれくらい持つか分からないが、それまでに決着を付けなくては。
アレシアも布を口元に当てている。
ブルの鼻から出る毒霧は紫色をしている。目に見える霧の量は少ないが、少しでも吸えばどうなるか分からない。
早く倒れてくれ。
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