上杉謙信の仕置き完
「ほう?其方が、大橋が欲した男か。名はなんという?」
気付けば信長さんが横に来ていた。さっきまで俺の横で然も『俺が全員討ち取ってやったぜ!』みたいな顔していた信治さんはチキンラーメンに卵まで乗せて如何に通な食い方かを諸将に高説垂れている。
まあ意味のないアイテムかと思ったがゲーム会社には感謝しないとな。
「某はーー」
「真田昌幸・・・今は武藤喜兵衛さんでしたっけ?信濃に秋山氏に会いに行った時少しありましたね?」
「やはりあの時の男だったか・・・あの時は変装していてイマイチ分からなかったがこれで納得した。そして歩き巫女を確保した噂も本当だったのだな。足軽大将でしかない某の事をそれまで知っておるとは・・・」
「武藤と申すのか。大橋?此奴は何が良いのだ?」
「智勇に優れた方です。築城に関しても大変によろしいかと」
「そ、某はそんな大した男ではない!何故某をそんな風に思うかは甚だ疑問だ!兄者達の方が某よりーー」
「貴様ッ!武藤!!信玄様の御寵愛を受け敵に突撃せず1人防御陣に構えやがって!!!信綱と昌輝はどうした!!?」
「兄上達はすぐに本陣の防衛に走った。あそこで無闇に鉄砲に突撃しても殺られるのは明白。某は部下に無駄死にはさせない」
「ぐぬぬぬ!貴様それでも武田の兵か!?」
「ぬしは・・・山県昌景だな。馬場信房の後釜に陣に座ったらしいな」
「織田めがッ!!!ワシに縄目の恥辱を味わわせるとはなんだと思っている!!」
あの山県昌景か。馬場信房みたいに猛将の人だったよな。俺が討ち取ってやろうかと思ったが上杉に付ききっきりになってしまったからな。
「吠えるなッ!!弱いから捕らわれた。偉そうに突撃しか出来ぬ者はこれより先は生きてはおれん」
「そっちこそ偉そうに何を言っている!離せ!!」
「えっと・・・武藤さん?俺は上杉軍の方を相手していたので詳しく知りませんがあなたの隊は攻撃しなかったのですか?」
「暁様?某から話しましょう」
そう言ってくれたのは望月さんだ。以前、真田昌幸が欲しいという事を覚えてくれていて望月さん達が捕らえてくれたと。そしてこの真田昌幸。おっと・・・今は武藤さんだったか。
この武藤さんはやはりキレ者。瞬時に銃相手に突撃では無駄死にだと思い、即席で塹壕擬を堀り'待ち'の陣を作っていたそうな。
そこへ、全軍総攻撃の激が飛び山県昌景や高坂昌信など全員が突撃している中、攻撃に加わらなかったと。
「ならばあのままあなたはどうするつもりだったのですか?後学のためあなたの作戦を聞いても?」
「正攻法ならば勝てないでしょう。それに・・・空の鉄虫を見ていない。まだ余力があるはずです。飽く迄勝つと言うならば・・・某は卑怯と言われようが捕らわれる振りをして、討死に覚悟で最後に敵本陣にて暴れ申す」
「うん。銃の事を知らない状態で今の答えは有りですね。まあ負けはしないけど。俺も今後捕える時にも注意しておきましょうかね。それで・・・あなたは今後どうしたいですか?」
「生殺与奪権はあなた様にございますれば。腹を斬れと申すならば今ここで。斬首と言うならばすぐにでも」
またかよ・・・みんな死にたがりだな。
「武藤!!貴様信玄様を裏切るのか!?あれ程親父の代から厚遇されておいてーー」
「山県の叔父貴はこの状況でまだそんな事言えるのか!?死んで残された者はどうなる!?最早武田は再起不能だ!そもそも某はこの西上作戦は反対だった!!」
ここで家康さんの馬廻りが黙らそうとするが信長さんが手で制す。うん。相変わらずカッコいい。
「臆病風に吹かされたか!?」
「考えてみよ!信濃は山深く日々の食にも困る程だ!それが最近では岐阜米と呼ぶ米が入ってきておる!聞けば織田殿の米ではないか!商人の者が『それだけでは味気ないだろう』と言い、海の生魚まで出回ってきておるのだぞ!?しかも氷で固めてだ!腐っていない魚だぞ!?」
「食い物がどうした!ならばその手で奪ってしまえばよかろう!」
「それこそ阿呆のする事だ!何でも奪ってばかりでは奪われ返される事もあるだろう!どうやってあのような精彩な氷を作るのか。どうやってあのような甘い米を作るのか。山県の叔父貴は不思議に思わぬのですか!?」
武藤さんは先を見ているな。この場を凌ぐだけの方便ではないと思う。本心から知りたそうな顔だな。是非俺の元に来てもらいたい!そして何か城をプレゼントしてあげたい!
気付けば本陣から離れたつもりだがみんな俺達の方にやってきて居る。
「たぬき!処遇は決めておるのか?」
「いえ、信長様に確認をと思いまして、家臣には極力生きて捕えるように申し付けておりまする」
「此奴は根っからの武田武士だ。武藤喜兵衛!お主は此奴の与力に付けてやろう。粉骨砕身励め!山県昌景!貴様は暫し待て。一席設けてやる。武田に忠節を貫け」
「ぐぬぬぬッ!!!貴様等の・・・手は借りぬッ!!我こそは武田軍の赤備え!山県昌景ぞ!見縊るでない!!」
ガチンッ!!
山県が啖呵切ってそう言うと聞いた事ないくらいの歯の音が聞こえた。そう・・・この男・・自分で舌を噛み切りやがった。俺は少し身震いしてしまう。
動じない男は1人だけ・・・織田信長だ。
「ゴボッ ゴボッ ゴボッ 呪い・・殺してやる・・」
最後の言葉がこれだった。怨念とか信じるつもりはないが俺は天寿を全うしたいため暫くは【鬼石曼子の護符】を身に付けておこうと思う。
この鬼石曼子(グイシーマンズ)の護符とは文禄の役などで明の人達にまで武勇が伝わった島津義弘さんの名前から来た護符だ。ゲーム内では怪我や病気になりにくく少しだけ運(ラック)が上がるアイテムだ。
悪霊退散的なアイテムはないためこれを背中にでも貼っておこうと思う。島津義弘さんとは会った事ないけど凄まじい護符だと思いたい。
「さすがは武田の赤備えである。丁寧に扱ってやれ」
「は、はい!」
家康さんが吃りながら答えると信長さんは高らかに答えた。
「ワシは今回、大橋の与力である!織田軍は信忠が総大将であるッ!!よって、ワシは今から京に向かう!些細は全て信忠に申し付けておけ!河尻!佐々!帰るぞ!」
嵐のような数時間だ。上杉の到着待たずに急に去ってしまった。そしてその数分後に肝心の上杉謙信が小雪に連れられて本陣にやって来た。完全な女の姿で。
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