大詰め

 気持ちが昂ったまま本陣に戻り事の次第をみんなに伝える。信治さんに関しては小雪がただならぬ顔で飛び出したのを見て遅れまいと夜襲を仕掛けたとの事。俺が本陣に戻ると信治さんの隊も退き、静かな戦場に戻った。


 「捕らわれの身と聞いて焦ったぞ?俺の夜襲がなければ危なかったのではないのか?このでじたるないとびしょんで確認できたから良かったものを・・・問題ないか?」


 「デジタルナイトビジョン双眼鏡ですよ。信治さんありがとうございました。助かりました」


 「という事は・・・大橋殿は危なかったのか!?」


 「家康さん・・・いやすいません。徳川様、申し訳ありません。大口叩いて討ち取るはずの上杉謙信は影武者でした。確かに影武者は俺が倒しました。けど色々あり、本物と相対しましたがあれは普通じゃないです」


 「なんだと!?大橋殿が普通じゃないと言うとは・・・」


 俺はみんなに伝えながらもサヴァン症候群というのを思い出す。けどやはり俺には考えが足りないようで思考が停止する。


 それに小島弥太郎だ。さすが後世に鬼小島弥太郎と言われるだけある。


 「まずは暁様が戻られた事をお喜びください。そして私が小島弥太郎、上杉謙信の強さの秘密を教えましょう」


 それから錚々たる面々が揃う本陣で小雪の盛大な仮説を言う。


 そもそも自閉症とはなんなのかというところだがこれは分かりやすく、社会性の障害や他者とのコミュニケーション能力に障害・困難が生じたり、こだわりが強いといった特徴を持ち、多くが精神遅滞を伴う事と言い、原因は色々あるがこの面子に簡単に教えた事は生まれつきだと言った。


 「この中には暁様は未来から来たと知ってる方だから言いますがこれは未来でも治せません。人間の脳や遺伝子の事になりますので。そしてこの自閉症と呼ばれる病を患っている人が必ずしもサヴァン症候群と呼ばれるものがあるわけではありません」


 「待て!待て!奥方殿!?そのさゔぁんなんちゃらとはじへいしょうとはなんなのだ!?」


 「酒井様!簡単にかなり端的に言いますとサヴァン症候群と言うのはさっき言った自閉症などその障害がある事とは対照的に優れた能力・偉才を示すことを言います。ある特定の分野にて人智を超えた能力を発揮するのです」


 「うん?自閉症とは何か障害があるものなのか?」


 「軽度の場合もあれば重度の場合もあります。そしてこのサヴァン症候群・・・記憶力や芸術に力を発揮する方が多いですがそれは私達が居た世界での話。ここからは仮説ですが恐らく幼少時から武、軍略の事などに上杉謙信は触れていたのでしょう。それでこの能力を得たのかと・・・」


 「小雪!?そんな事有り得るのか!?ならなんで俺達が居た世界ではそんな奴が居なかったのだ!?」


 「未来では戦争はあっても触れる事が少ないでしょう?ましてや子供に武器を触れさせる時代ではなかったでしょう?」


 普通に考えればそうだ。現代の子供・・・幼年期の遊びは積み木や玩具で遊ぶくらいだよな。謙信は幼年期から傅役なんかに英才教育を受け刀の才能を発揮し、色々な軍の書物なんかを読み漁りあの銃の弱点、石盾や密集しない陣を考えたのか・・・。


 それに俺との1対1での圧倒的なまでの空間把握能力・・・。初見で飛ぶ斬撃を避け、銃を撃たせないように超接近戦をしてきたのか・・・。


 「色々分からない言葉が出てきておるが・・・まずいわけか・・・」


 「いいえ!徳川様、御安心ください。全て暁様の手のひらの上ですよ?」


 「うむ。では次の手を聞こう」


 これは俺が考えた作戦だ。さっき上杉の陣から退いている時に小雪と話し合った事だ。正攻法なら上杉軍の勝ちだろう。本来の歴史で上杉軍が強い理由がなんとなく分かった。


 あの影武者が誰かは分からないが本物と瓜二つ。けど一つ不思議に思う事は本物は胸当てをしていた事だ。影武者はしていなかった。


 そして確定ではないが上杉軍には未来でも中々居ない特殊能力を持っている者が2人も居て、その2人共が芸術や数学に特化するわけでもなく圧倒的なまでの武の頂に近いわけだ。これは反則なくらい強いわけだな。


 「奥の手を出します。攻撃ヘリ・・・アパッチを出しましょう。本来なら本気で戦えば危ないでしょう。上杉の強さは認めます。けど・・・俺は負けない。反則と言われようが卑怯と言われようが勝つ」


 「あの空飛ぶ夢幻兵器か!?」


 「はい。明日1番に俺が敵を一掃しましょう。こうなれば遠慮しません。上杉は俺が相手します。武田は徳川様にお任せしても?」


 「うむ。必ず・・・」


 「小雪?明日は徳川様の側を離れるなよ?小島と上杉・・・あの2人を丸裸にする。ゲームではないけど、できる限り歩卒をアパッチで減らす。そして、どこまでやれるか分からないが刀で仕合いたい」


 「そんな!?だめです!危険です!」


 「いや・・・この先、謙信より危険な人物が居るかは分からないが、今後俺の刀ですら勝てない奴が居るか確認もしておかないといけない」


 「・・・・危なくなればすぐに言ってください」


 「ははは!大丈夫!本当に危なくなればRPGでもブッパするから!それに相手も数丁だろうがSTGやらAKやら盗られただろ?信治さんの兵を死なせたくないしね」


 「おうおう!俺の兵は死なんか恐れちゃいないぜ!?」


 「その言葉嫌いです!戦なんかで死ぬのは勿体無い!これより先は面白い世界になるのですから!黒川さん?肩は治りましたか?」


 「暁様申し訳ありません。薬のおかげで治りました」


 「良かった!良かった!明日、黒夜叉隊も徳川様の隊に組み込むように。最前線で武田の足を止めるように!武田は普通の兵だから銃で止まる!北条さんと連携して必ず武田を仕留めるように!酒井様!御武運を・・・」


 「・・・うむ」


 この日敢行した暁の強襲。一見成功したかのように見えるが中身は影武者1人を殺っただけ。だが、武田軍には上杉軍の重臣が1人討たれたと報が届く。それは武田軍の草からである。その重臣が誰かまでは調べられない。


 武田軍で本物の上杉謙信を知るは武田信玄のみ。



 

 「少し・・・お主の陣が煩いと思っておったが・・・影武者を討たれたか」


 「ふん。どうせ調べてあるだろう?何故だろうな。貴様の事は我は宿敵と思うておる。だが・・・貴様と共に戦場を駆けるは心地良い。あれはあれで使える奴であった」


 「どうするのだ?その姿で上杉の強さを保てるのか?あの影武者は影武者で統率力、武、全てにおいてワシは極めて高く評価していたのだがな」


 「知れた事。我は戦の事を考える時が1番生を実感する。久しぶりに我が宿敵以来の好敵手だ」


 「まさか甲斐源氏流の武田が女の貴様と共闘とはな」


 「長尾家では兄上と我は真逆で、はみだし者の我はああするしかなかったのだ」


 「ふん。女だろうが貴様は本物だ。なにせワシが本気を出しても勝てぬのだからな。明日は浜松城にて祝杯をあげようぞ!ゴホッ ゴホッ」



 1571年5月3日三方ヶ原決戦最終日が今始まろうとしていた。



 

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