奇妙丸の口上

 この日の夜はみんなの歓迎会も兼ねてまたまた多目的ルームに集まってもらった。


 「ちょっと大橋様!?ここはどこですか!?」


 「はは!きょうさんや、おこいさん達が驚くのも無理ないですよ。俺には秘密があるけどこれはまた落ち着けば追々に」


 言ってもいいがみんなに一から言うのは面倒臭い。俺が出陣中にセバスチャンが説明してくれるだろう。


 そしてみんな集まった所で俺はゲストルームの奇妙丸君を呼びに行った。もちろん1人ではない。奇妙丸君の本来の護衛の人達もだ。


 「お待たせ致しました。皆に顔合わせをお願い致します」


 「はい。分かりました。しかし大橋殿の家は凄いですね!見た事ない調度品ばかりで」


 「はは!それなりにお金掛かりましたからね(課金)」


 「おい!大橋殿!いくらお館様から許しを得たと言っても下々の民と同じ飯とーー」


 「梅村!控えろ!」


 「いやしかし・・・」


 「父上も生まれや身分に問われない。某もそうありたいと思う。大橋殿?案内してくれるか?」


 「分かりました」


 それから多目的ルームに案内し、俺が作った飯、ブリ大根とティラミスを出した。正直、ティラミスに関しては全員分を俺1人ではとてもじゃないからセバスチャンと小雪とさきさんに手伝ってもらったが、味に大差はないと思う。


 そしてブリ大根に関しては大根は岐阜の町にある八百屋にて小雪が買い占めてきて用意したものだ。ブリに関しても小雪がわざわざ伊勢湾まで行き、人間では絶対に出せない速さの走りと泳ぎで自ら獲ってきた物と教えてくれた。


 それを醤油、砂糖、酒で煮詰めた物だ。


 「なんぞこれは美味そうな匂いだ」


 「奇妙丸様、はしたのうございます」


 「許せ!この匂いで正気を保ってられん」


 いい反応だ。味見したしセバスチャンからもお墨付き貰ったから大丈夫なはずだ。新たに来た人達はアワアワなってるな。


 「奇妙丸様。全員揃いました。お声がけよろしくお願い致します。この者が岐阜を発展させてくれる私の配下の者達です」


 「うむ。皆の者!よく集まってくれた!ワシは奇妙丸である!織田家の嫡男ではあるがそれは置いておいてほしい。ワシは何もできない男である!だが何もできないから何もしないのではない。

 何も分からないからしないのである!皆には苦労を掛けるであろう。だがワシは生まれや身分で態度は変えない。これから共に父上を・・・織田の町を発展させてくれるか!?」


 「「「「オォォォォーーーーー!!!」」」」


 決して人を引き付ける語りではないし、カリスマ性は信長みたいにはない。けど、この奇妙丸君の話し方は嫌いじゃない。一緒に仕事をしよう!と思える話し方だ。


 「奇妙丸様ありがとうございました。父上様もお喜びかと思います」


 俺はこれを見せる為にわざわざタブレットを渡している。虫型カメラも飛ばして。これは俺と小雪とセバスチャンと勘助だけの秘密だ。喜助と佐助はって?あの2人にも内緒だ。


 喜助に関しては重たいバレットM82を背中に背負って奇妙丸君の後ろで笑顔のままだ。佐助は黒川さんの横で恨めしそうに見ているが。


 信長さんに明日なんて言われるかな?


 「長々話しても良くないだろう。まずは食べよう!ワシが作った物ではないが存分に食べてくれ!」


 そこからいつも食事会だ。


 「美味いッ!!!これ程の飯があるとは!ぶりだいこんでしたよね!?」


 「そうですよ!小雪のおかげですよ!砂糖、醤油、酒で煮詰めるだけなので簡単な割に美味いので俺も好きですよ!」


 「某、これが一番好きでございます!」


 「すずもこれが一番好きです!」


 いやあんたらは新しい物出す度に一番が変わっているぞ!?


 「大橋殿良いですか?」


 「はい。奇妙丸様のお口には合いませんでしたか?」


 「いや、今まで食った物で1番・・・いや父上が普段食べている物よりも美味いと言える自信があります。それと疑問があるのですがいつもこんな感じなのですか?」


 「そうですね。料理はセバスチャンが普段はしてくれていますが基本みんながいればみんなと食べますし、腹の空き具合は人により変わりますのでバラバラの時もあります」


 「奇妙丸様は下々の民と違う方。礼儀は必要にございます」


 確かに俺達と違うからな。可哀想だよな。


 「奇妙丸様は今後目上の方と飯を食う事もあるでしょう。その時はちゃんとしないといけませんがせめて私の館にいる時は寛いでください。私の信条は食いたい時に食う。寝たい時に寝る!遊ぶ時は遊ぶです」


 「・・・・・・羨ましいです。それに妻と共に飯を食えるというのも・・・」


 食べながら奇妙丸君が教えてくれた。城での生活風景を。兎に角座学、座学、座学と。たまに剣術なんかも教えてもらうらしいが面白くないと。


 けど、数日だが俺達との勉学なんかは面白いと。それと俺と小雪、さきさんが飯をみんなと食べる事は前代未聞とも教えてくれた。


 「普通、女は影から支える事とーー」


 「あら?奇妙丸様?それは間違いですよ?女も男も関係ありません。みんな平等。1人で食べるよりみんなで食べる方が交流でき仲良くなれるのですよ?」


 「小雪殿の言う通りだな。申し訳ない。実は某にも許嫁が居てな・・・」


 「武田の娘ね。松姫だったかしら?」


 「そ、そうだが・・・会った事もないのだ」


 確か本能寺の直前に迎えに行くかなんかで結局自刃して会えず松姫も寺に入ったのだったよな。信忠(奇妙丸)もずっと正室を空けて待っていたとかだったかな?


 純愛だな。純愛。あぁー!!ムズムズするな!?この際連れてくりゃいいんじゃね!?三方ヶ原が起こるか分からないけど武田信玄は後3年か4年くらいで死ぬから・・・確かその時に松姫も引っ越しするんだったよな?


 その時に一計してやろう。そもそも武田の目はある程度奪ったつもりだけど大丈夫なのか?望月さん達だけではないと思うしあの出来事は小雪の仕業だけどバレてないのだろうか?


 「その気持ち忘れないでくださいね?1人の女を思う事は素敵な事ですよ?ね?暁様?」


 俺はあの小雪の微笑みに震えを感じた。もう、側室は作るな!と言われているようだ。


 「はは。大橋殿は小雪殿に顔が上がらないみたいですね」


 チッ。俺とした事が堀秀村と同じくらいの歳の子供に内情がバレてしまったか・・・。


 「いや、その・・・まぁ・・そうですね。小雪には歯向かえませんね。ははは」


 「某が言える事ではございませぬがお互い妻は大切にしましょう。それと、茶筅丸は北畠に行き、三七郎は神戸に行った。この2人は仲が悪いから、弟2人を纏めれるか・・・」


 後の、織田信雄と織田信孝か。この時から仲悪かったのか!?


 「なんの意味もない言葉ですが大丈夫ですよ。私が居る時に弊害があれば助言致します。できる事からしていきましょう。弟様に負けないように頑張りましょう」


 「うむ。頼む。いやしかし、この大根は美味い!何杯でも米が食えそうだ!」


 腹いっぱい食べて大きくなれよ!本能寺で信長に殉じて切腹なんかさせねーからな!!


 ドタドタドタドタドタドタ!!


 「何奴!?殺気を感じるぞ!?」


 ドンッ


 いや凄い威圧感だな!?信長さんよ!?あんた今日は『倅の器の大きさを測る!』とか言ってなかったっけ!?今日は不参加って自分から言ってたぞ!?


 「なーにが殺気じゃ!おい!邪魔するぞ!」


 「ち、父上!!!」


 「うむ。確と奇妙を見せてもらった。だがこんな飯の事は聞いておらぬ!ワシにも食わせろ!!」


 「で、では某達黒夜叉隊はお邪魔のようなので下がります。暁様美味しかったです!ご馳走様でございました」


 チッ!逃げやがったな!?望月さん!卑怯だぞ!


 「大殿様どうぞ」


 「うむ。うん?お主は見た事ないな?」


 「はい。暁様 側室のさきと申します」


 「ほう?側室か。どこの家だ?」


 「俺から言います。さきさんありがとう」


 俺はさきさんとの関係を言い、この世界に来た時の事を言った。


 「ふん。朽木か。奴には先の撤退の折に世話になったな。まあ良い。何かあれば誼があるからな。しかし中々できる女だな。大事にせよ!」


 「ありがとうございます」


 「それにしてもこの飯はなんだ!?ワシ好みの味だ!」


 「それは小雪が…………」





 順調に大橋家が大きくなってきていますね。この調子で三好を駆逐し織田家に大橋有り!と周辺国も自ずと名前が広がるでしょう。此度の戦は手加減なしで殺りましょうか。


 「小雪?ブリとは何か聞いてるよ!!」


 「はい!ブリとは……」

 

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