小雪の感情

 「猪2匹にこの鳥は・・・鴨?」


 「そうです!この鴨は私が見る限り脂肪が乗り美味しいと思いますよ!現場で適切な処理を行いました」


 「適切な処理とは?」


 「それを聞きますか?聞きたいなら教えますが?」


 いや小雪は生々しく言いそうだから食欲がなくなってしまうかもしれないからやめておこう。


 「いややっぱいいよ。一応・・・血抜きなんかはしてるんだろう?それで俺は何をすればいい?」


 「はい。血抜きと毛の処理、肉を冷やす事は最低する事です。暁様は錬成機で雅なお皿を作ってくれますか?」


 「了解。雅な皿って・・・。そりゃ、そこら辺の石と土と水を入れて錬成すれば焼物的な皿は作れるけど・・・」


 「それで大丈夫なのでお願いしますね!料理は私の仕事です!暁様に喜ばれる美味しい物を、皆様にはそこそこな物をお作りします!」


 いやそこで差別するの!?そりゃ美味しい物の方が嬉しいけどみんなも美味しい物でいいんじゃないか!?


 「分かった。じゃあ俺は皿を用意するよ」


 それから俺はひたすら錬成機を使って皿やグラスを作っていった。別にこのジオラマ家に食器なんかはあるはずだけど何故作らすのか俺には分からなかった。


 皿の模様は当たり障り無い織田木瓜紋を入力した。変に柄なんか付けようとしてもみんなは分からない模様になってしまうからだ。


 それから家の時計が17時前の時に調理場から小雪に呼ばれる。


 「暁様?いかがですか?」


 持って来たのはトンカツだった。


 「え!?本物のトンカツ!?マジで作れたの!?」


 「はい。先ほどの猪を適切な処理を施し、切り分け、食料貯蔵庫に入っていたパンを削りオリーブ油で揚げました」


 「ごめん!下品だけど一切れ食べるよ!!!」


 小雪が作ったトンカツは最高に美味い出来だった。現実で食べたトンカツ屋のやつより美味しく思う。


 「美味い!マジで美味い!カツ丼にしなくてもこれで白ご飯をかき込みたいくらいだ!」


 「ウフフ。暁様?ありがとうございます!これを皆様に振る舞おうと思います。他のメニューは地下の農園をフル稼働し、早急に作った色々な野菜を作ったサラダに、鴨のすき焼き、真っ白な白ご飯とデザートはバニラアイスクリームを作っています!」


 「そんなに作ったのか!?あの短時間で!?」


 「はい!このくらい私なら余裕です!」


 俺は小雪を侮っていたみたいだ。戦闘もできるし料理もできる。最高のアンドロイドだ!


 「小雪!ありがとう!小雪に勝てるアンドロイドは居ないよ!これからもよろしくな!」


 「・・・・・・はい」


 うん?また含みのある返事だな?なんなんだ?


 「とりあえず晩餐室というか宴会場にテーブルと椅子と皿を並べたのでいいかな?ナイフとフォークはみんな知らないと思うから箸を出しておこう。予め一口ずつに切って出してもらえるかな?」


 「分かりました。暁様?私はただのアンドロイドですか?」


 「え?そりゃ俺の護衛アンドロイドだと思うけどどうしたの?」


 「正妻ですよね?人間の正妻とは一番の妻と言う事ですよね?」


 「そうだよ?いきなりどうしたのさ!?」


 「なら何故何かある度にアンドロイド、アンドロイドと言われるのですか!?私を人間として見てはくれないのですか!?」


 だからか。だから俺がアンドロイドと口を滑らせると含みのある返事になったのか。これは悪い事してしまったな。


 「ニュアンス違いだよ。俺は本当に小雪の事を大切にしたいしこれからも一番に考えるよ。唯一の元の世界と繋がる人だと思ってるから」


 「なら・・・それなら何故一定の距離があるのですか!?朽木さきみたいな寝屋を共にする事を致してくれないのですか!?」


 ブッ!!!いきなりなんだよ!?ビックリしたわ!差別するわけではないがアンドロイドだよね!?そりゃ自分の考えをどんどん成長する優秀なAIを搭載と書いていたけど・・・いやそもそもそんな事ができる作りなのか!?


 「いや・・・その・・・小雪はそんな事できる作りをしてるのかどうなのかと・・・」


 「実は私みたいなゲームのアンドロイドは脳の部分だけ48コア 128ヨタバイトプロセッサが組み込まれているだけで後は人間となんら変わりません」


 うっすら涙を流しながら小雪は俺に言った。感情は徐々に勉強し考え記録していくと。


 喜怒哀楽を学ぶが今までゲームでは主以外にこの感情は出なかったし基本、小雪自身でも書き換えできないように俺を守る、命令された事を絶対忠実にするようにプログラミングされてたらしいが、俺がこの世界に来てからその縛りがなくなり今まで蓄積されたデータを解析した結果小雪は俺の事が本当の好きと言う感情に行き着いたと。


 「でももっとこの時代の他の男の人とか見れば感情が変わる事もあるのじゃないの?」


 「それは、ないと断言できます。私の根底には暁様の護衛、命令された事は忠実という部分があります。私はこのプログラムされた所を覗く事は出来ても書き換える事は未だにできません。ですが、強制力はなくなっています」


 どういう事だろう。なんらかの形でタイムスリップしたけど、その理由が小雪って事か?んなわけないよな。なら、これは実は夢の世界って事か!?もっと有り得ない話だ。


 「う〜ん。なら俺はこれから小雪を本当の妻のように思えと?」


 「もしそう思っていただけるのであれば私はもっと頑張り、日々の仕事が捗りスピードも上がる事間違いなしです!」


 「なんじゃそりゃ!まあ分かったよ。なら今日の夜一緒に寝てみようか!嫌ならその時に言ってくれよ?さ、早く最後の準備しよう!もう来てしまうぞ!」


 「分かりました!お酒も倉庫から各種出しておきますね!それと暁様がお作りになった皿は皆様にプレゼントしますのでそのつもりで!」


 え!?プレゼントするの!?それなら早く言ってくれよ!?こんな適当に作った物は失礼だと思うんだけど・・・。






 言ってしまった。我慢しようと思ってたのに自分の感情を殺す事ができなかった・・・。これが人間に近付いたという事でしょうか・・・。


 私はこの先どんな事になろうと暁様を裏切らない、私が壊れても暁様だけは死なせない。暁様の笑う姿がもっと見たい。また、ゲームの時みたいに意味の分からないモニュメントを作ったり無駄に凝った装飾品を作ったりして過ごしたい。これは我が儘なのでしょうか。


 けど、結果として'温もり'のある暁様と初めて寝屋を共にできる・・・この顔が熱くなるのは正常な事なのでしょうか。でもまずは暁様の出世のためこの晩餐を成功させ、皆に度肝抜いてやりましょう。


 「おう!待たせたな!他の者はまだ暫く掛かると思うがワシは先に来てやったぞ!ははは!」


 「あっ、織田様すいません!今準備していますので少しお待ちを・・・あっ、前田様でしたよね?」


 「おう。覚えていたのだな。俺も来ていいと言われたから来てやったぞ!見た事もない物を食べさせてくれるとか?そんな事よりこの家はなんだ!?これこそ見た事がないぞ!?」


 「犬!少し落ち着け!それとお前は外でこれから来る者をここに案内する役を命ずる!」


 「お館様・・・それはこの大橋の家の者がする事ではーー」


 「つべこべ抜かすな!大橋はまだ仕えて間も無いのは知っていよう!」


 「すいません!俺は案内役引き受けます!」


 「前田様?無理にすいません。先にこれでもどうぞ。ただのクッキーです。全部あげますよ」


 「うん?くっきー?なんじゃ?」


 「まあ、菓子ですよ」


 「ではどれ一つ・・・甘い!!?こんなに甘い菓子があるのか!?」


 「おい!犬にだけ出すとはどういう了見だ!?ワシのはないのか!?」


 いや我が儘すぎだろ!?出すよ!出せばいいんだろう!?


 「織田様?織田様にはこれを・・・」


 「おう。小雪か。それはなんじゃ?些か少ないように見えるが?」


 「これは数に限りがある至高の甘味・・・イチゴショートケーキにございます」


 「ほう。数に限りがあるとな?犬に渡した量産品ではなくワシのは特別だと申すのだな?そこまで言われれば食わぬのは悪いな。・・・・これは・・・」


 別に数に限りはないけどな。作ればいいだけなんだけどな。小雪は喋りが上手だな。まあ味は信長の表情見れば分かるな。


 「お、お館様!くっきー、一枚とその至高なるいちごしょーとけーきとやらの一口交換致しませぬか!?」


 「ならぬ!これはワシのだ!ワシが食べる!貴様ははよう行け!」


 ケチすぎだろ!?


 「小雪!これは何故数に限りがあるのじゃ!これを作るのに必要な物を言え!尾張に岐阜にないのであればワシはこの至高なるいちごしょーとけーきのためならばどの領土にだって攻めてやる!」


 いやケーキ如きで戦をするのか!?やっぱこの時代の甘味は怖い。でもこれは他国にも使えるな。贈り物と称して甘い物、砂糖その物を送り織田なしでは立ち行きできないくらいにしてしまえば無理難題言おうがなんとかなるような気がする。これはまた考えよう。

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