第7話 万能《チート》女と異形課都市伝説チーム

「はぁ、いつおまえは大人になんだよ……」

「俺は大人っす」

「成人したらみんな大人って思ってねぇか? 成人式するってことは、同時に自己責任が付きまとう。もう誰かの世話にならないように自立しなきゃなんねえの! 成人を機に自力で頑張るんだよ。おまえ、未だにおんぶに抱っこだろ。一人暮らししたら1人前か? んなわきゃねえだろが」

「自分の世話ぐらいできるっす! 」

顔を合わせれば説教と喧嘩になる2人。

「まぁまぁまぁ」

丈琉が間に入る。キャスリンは重い空気に耐えられず、見た事のない文明の利器たちを隈無く見て回っていた。

「だったらお守りは丈琉がしろよ。きっとすぐ音を上げるぜ。筋金入りのあんぽんたんだからな。丈琉に優しーく説明してもらえよ。だけど、梨翔おまえの脳ミソは聞く準備が出来てないから右から左だろうよ」

「はいはいはいはい! 一旦やめてください。聞く準備が出来てないと分かっているなら、今言っても意味が無いですよね? 反発してますます聞く耳を持たなくなってしまいますよ」

「ちっ」

「ううっ」

大人なんて一括りで説明出来るものではない。いくつになっても子どもの部分は残ってしまう。堂々巡りだ。

「実は私、おふたりに会うのをすごく楽しみにしていたんです。真人さんはアレですよね。梨翔さんが入られる前は真智さんとペアだったとか。特に真人さんにリーダーと言わしめる真智さんてどんな方なのが興味がありまして。ご本人に会えなかったのは残念ですが。姫を責めているわけではないんですよ。純粋に彼女がどんな人か、おふたりに聞いてみたいと思っているんです。逆に聞きている話ではご本人だと話してくれなさそうですし、ね? 」

隣の部屋からちらりとキャスリンも覗いていた。やはり興味があるようだ。

「……先に言えよ。おまえはアイツを理解してるのか? 相棒さんよぉ」

「そ、それは知ってるっす。いつも俺の話理解して聞いてくれてるし、俺のカンの鋭さを褒めてくれるっす」

「いや、そうじゃねえよ。アイツの話……遠回しにいや間違いじゃねぇが。アイツは多少訳わかんねえこと言ってもどっかから繋がり見つけて正確に理解するのが早い。確かにおまえのカンの鋭さはチームで1番だ」

「え? 真人パイセンに褒められたっす……」

「おまえ、『仕事は出来るよね』って言われて喜ぶタイプだろ」

「え? ものすごく褒められてるじゃないすか。真智パイセンもよくいってくれてるっす」

真人はクソデカ溜め息をつく。丈琉でさえ苦笑いをしている。

「……あの、『は』ということは他の欠点が多いことを指している場合が多い、ですわね」

「ああ、仕事が出来るのはいいことだ」

「え? ほら……」

「聞け。おまえは仕事中に暴走しなかったことがない。そもそも今のおまえの精神ではメンターに不向きだ」

傍目からでも分かるほどに梨翔は萎れてしまった。

「『今は』ですよ、梨翔さん。あなたはまだお若い。いくらでもまだ両立する術はあります。悲観しないでください。真人さんはきつければきついほど心配して下さってるんですから」

「……怒られるのは嫌っす。真智パイセンもいつも怒らないのに、なんであの時あんなに怒ったのか分からないっす」

真人が後ろを向いてしまった。話はした。しかし、梨翔は理解出来ていない。

「直で言っても梨翔さんは理解出来なかったようですね。いえ、自分の考えが前提で否定してしまっていた。違う角度から話しましょう。あなたの言葉は間違ってはいなかった。けれど───順番を間違えたんです。真智さんの交渉が終わってからでも遅くなかったのに気が急いでしまった為、あの事態となりました。私たちはあなたが入り口まで来なければ場所も分からなかったんですからね。真智さんも分かっていたから『今は黙りなさい』と言ったんです。分かりましたか? これでも分からなければ私も説明のしようがありません」

「あ……」

やっと理解したようで、グスグスと泣き出す。真智の姿では躊躇われたのか、キャスリンは伸ばしかけた手を引っ込めた。

「……アイツは、真智はスイッチのオンオフが微妙にズレてる。エンジン掛かるまでちょっと掛かんだよ。完全オフ時にも無意識で人助けを勝手にしちまう大病を抱えていてだな。しかもコミュ力皆無になるから不審者扱いされ易い。人と関わるのは嫌いじゃない。頭がいいはいいがスタイルは脳筋だ。アイツがスカウトされたのは5年前でもマーキングされていたのは更に5年前だ。あ、コレはアイツ知らない話だからな? 署員の話聞いちまったのよ。『セーラー服の和風美人が異形相手に単身物理で捕物帖バリに渡り歩いていた』ってね」

皆目を見張っていた。欠点から話されているとは本人も思わないだろう。

「確かに正統派美人ですよね」

「は? アイツ美人か? 」

「え? 真智パイセン美人なんすか? 」

「あの、お綺麗ですわよ? 」

意見が半々に分かれた。

「待ってください。姫、これは話し合いしてはならない事項です。何故ならば、こちらのおふたりは『異形愛者』なので人間の女性の美醜を聞いてはいけなかったんです。顔は名刺だと思っている方々です」

「確かにその方を表す看板ですわね」

「そう、正にかんばせ……」

ゴン。

「くだらねえギャグ言ってんじゃねぇぞ。異形であればいいってわけじゃねぇ。理性を失った異形は動物で、理性のある異形は愛すべき存在だ。忘れんな」

「そうっす! お話してくれる異形さんはみんな素敵なんす! 」

「異形に関してだけは気が合うな」

「まだまだ負けないっす! 」

「その意気で本命見つけろや」

頭をさすりながら苦笑いするしかない。

「因みに私は2次元に嫁がいますので3次元は参考程度です」

「聞いてねぇよ! 」

「聞いてないっす! 」

「はぁ、その調子で仲良くしてくださいね……」

息合ってるじゃないですかとボヤく。

「アイツのすげーとこは怨霊だろうが生霊だろうがぶん殴れちまうとこだ」

「漫画によくありますが、現実にいるんですね……」

「あ、あの、オンリョーとかイキリョーってなんなんですの? 」

「ああ、姫の世界なら異形全般はモンスターみたいなものですが、怨霊や生霊は……そうですね。『レイス』でしょうか。いますか? 」

キャスリンがビクッとこわばる。

「レ、レイス……。最強のモンスターですわ。アレに拐かされたら二度と帰っては来れません。武器はもちろん、魔法も効きませんもの。そ、それを倒せるのですか? マーチ様が私の世界にいて下されば……あ」

肩をポンと叩かれる。

「大丈夫ですよ。もしかしたら、姫と入れ替えであちらにいる可能性がありますから」

「ただ、出会ってすぐボコるわけじゃねぇぞ? アイツの根本的な能力はことだ。霊視チューニングってことだな。漫画でもあるだろ? 戦闘力何万とか、相手のステータス見れるやつ」

「ああ、鑑定能力ですか? 」

「そう、それ。異形限定でどんなやつでも視ることが出来る、と同時に自分の土俵に引きずり込むって裁断だ。俺らも叩けるわけじゃねえ。アイツだけだからな。それを昔から無意識にやってるから実際はひとりで何でも出来ちまうんだよ。だから───先に謝る、済まねえ。アイツの相棒はんだ。アイツが暴走するのは敵が強ければ強いほどだからストッパー役の、なんつーか、無茶しないで済む相手が必要ってことだ。エネルギーがキレるのが先か、敵が全滅するのが先かの瀬戸際だからな。で、終わったら暫く動けなくなる。結局能力者じゃなくてもいいんだ、運べれば」

真智がすごいと拍手するのもはばかられた。間違っても梨翔が使えないという話ではない。

「……俺がアイツとペア辞めたかったんだ。遠慮する時はとことん遠慮するか、全力で当たるかの2極だからな。俺の力の持ち腐れになってバランスわりぃのよ。アイツが嫌いとかそんなん全くないし、寧ろマブダチぐらいには思ってるさ。───守れって言って悪かったな」

「……いいっす。皆能力と引き換えに何かしら抱えてることくらい分かってるっす」

「うん、だからアイツは……を避けるようになった。霊視チューニング交渉ネゴシエーションにも有効だからな」

「でも……俺を投げた力にはビックリしたっす」

「ああ、アイツ片っ端からやってたからな。帯とかには興味無いってさ。署内の師範たちも逃げ回るレベルだぞ、ふっ」

一頻り話すと皆沈黙になる。真智がキャスリンの中にでもいてくれたらと願わずにはいられない。結局のところ、上司もここまでの事態を想定していなかっただろうし、自分たちもしていなかった。

「あと、これだけは覚えとけ。───この異形課は『入ったら二度と出られない』監獄や収容所だと思え。元々俺らみたいなんは持て余されてたんだ。これ見よがしに作ったのはそんなやつらを纏めて管理するためだ。どんなに力が上手く使えなかろうが、全力でやろうが同じだからな。あの上司『島袋しまぶくろ幸成こうせい』もそうだ。あれは外勤出来ねえから内勤してんだよ。署内にいなかったんじゃねぇ、外勤レベルがいなかったってことだ」

2人は知らなかったのか青ざめていた。

「いざという時の転職権は……? 」

「ねえって言ってんだろ。俺らは一生消耗品で使い古されるだけだっての」

「なんかやる気がなくなったっすぅ」

「無くなったら……死ぬだけだぞ」

「このご時世でそんなことがまかり通るんですね」

公務員という立場から、給料や手当、待遇も手厚く完備されている代わりの代償がこれなのだ。休日出勤はい喜んで! な課である。社畜どころではなかった。時間さえも選べない。

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