視えちゃう底辺VTuberは人外専門の交渉人《ネゴシエーター》公務員

姫宮未調

第1話 底辺VTuberの公務員

───画面にはアニメのような金髪クール系美女が写っている。

来場に1がついた瞬間、口を開く。

『初めまして。【シャレコウベ】さん。ああ、そのままで大丈夫です。貴方がいらっしゃる事は少し前に

顔や心まではわからない。でも私には

【スピリチュアリスト《マーチ》】

それが私のVTuber名だ。活動歴2年、登録者数15名。定期的に登録者が訪れることは無い。ましてや登録者が来ることも稀。……底辺である。

このように話し掛けているのでは大体の人が気味悪がって近寄らないのも頷ける。明らかにコミュニケーションのとり方がおかしい。

『スピリチュアルと聞くと不審がるのも分かります。しかし……の日本では無視出来ない時代となりました』


そう、20年ほど前にこの日本は様変わりした。

のだ。幽霊や妖怪、都市伝説の類いが視えない人の目にも映るようになってしまう。しかし視えるだけの人が大量発生した。日本全土が脅威に晒されることとなった。対処出来る人はごく僅かしかいない。今まで邪険にされていた霊能者などが持て囃され始めた。と同時に詐欺も横行している。大混乱時代の幕開けである。

『信じて頂く為に……、? 』

絶句している空気を感じ取る。

『……あなたは昔、カエルの解剖実験の授業をしましたね? あなたは1がそこにいます』

顔は視えないが息を飲んでいることは感じた。

『……ご安心を。そのカエル、あなたにを言いたくてずっとそばに居たみたいですよ』

お腹に薄ら傷跡があるのが視えるはずだ。

『なんで』

ビックリしたのか返事が返ってきた。

『彼、生き延びたんです……あなたのご実家、医療関係なのでしょうか。あなたの施術は完璧だったようですよ。残酷ですよね。解剖されたカエルは皆淘汰される。しかしあなただけは助けようとした。いえ、助けたんです』

『カエルがきえました』

『やっとあなたに伝えられて成仏したんでしょう』

『なんで……なんで今……』

『20年前のあの時以来、視える方が爆発的に増えましたが、あなたは自分の力では視えない方だったようですね。あたしの力を少し使わせてもらいました』

『それだけのためにずっといたんですか? 』

『だけというようなことでもないですが……。そうそう、伝言を預かっています。だそうです』

『夢』

『あなたの夢はなんですか? 』

『……お父さんみたいなお医者さん。でも無理なの。成績もよくないし、実力もない』

『あたしにはあなたに無理強いしてまで貫けなんて言えません。諦めないのも諦めるのもあなた次第です』

『なんにも知らないくせに! 』

『そうです。何も知らないからこそ言える言葉です』

退出する未来が見えた。

『……ひとつ、言い忘れました。はあなたに人間よりになってほしいみたいですよ。淘汰されるはずだった彼が寿命の5年生きられたのはあなたの縫合が正しくなされたからでしょう。そうです』

最後まで聞いてから出て行ってくれたようだ。

「またお節介しちゃったなぁ。そろそろ潮時だなぁ」

未来や過去が少し視えたからといって20年経っても変わらないことはある。

数時間後、チャンネルが凍結し、運営さんとのメールのやり取りをする羽目になった。何人かに不審者と認識されていたようだ。詐欺をする人も耐えないのだから不審がられてしまうのも当然と言えば当然なのだ。

あたしはついに職質をされた。

『すみません。をしておりまして……地域保全を根ざす【都市伝説課】です。はい、20年前に発足されたあの課です』

配信の内容も、公私混合では誠意は伝わりませんよとのお叱りのみで凍結を解除してもらえた。

運営さんは視えるようになっていたこともあり、懐疑的で、困っていることもしばしばだったらしく、後半は逆に相談される側になった。


私は耳を疑う。妖怪とも都市伝説とも位置づけがたい『お歯黒さま』とは───。












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