転生神のお仕事

星の人

第1話

「う、ここは……」

『目が覚めましたか』


 目が覚めると目の前には絶世の美女がいた。髪は目が覚めるような金髪で、胸は大きすぎず小さすぎない黄金比身体。そして声も透き通るような美声だった。


「あああ、あの……ここはどこでしょうか……?」


 思わず詰まりながら話してしまったが、変に思ったりされないだろうか? そんな不安に駆られるが、目の前の美女は気にした風もなく答えた。


『ここは転生の間です。残念ですが木下きのした 還琉かえるさんは亡くなったため、ここに来られました』


 そう言って悲しげな顔をしている。いや、それよりも亡くなったって……。その時、車に轢かれる直前の記憶を思い出した。


「あ、俺、たしか車に轢かれて……」

『ええ、あなたはそのまま死んでしまいました。普通ならこのまま輪廻転生させるのですが、あなたには特別な才能がありますので記憶をもったまま転生しませんか?』


 そう言って推定女神様は、転生について話し出した。これってあれだよな、チート転生ってやつだ。そう気づくと俺は、死んで怖がっていたことも忘れてテンションが上がった。


「それって、チート転生ってやつですか!?」

『はい、その通りです。還琉さんの場合、魔力が無限がチートになりますね』


 魔力が無限! それに魔力があるってことは魔法も!


「はい! 俺、転生します!」

『おお! ありがとうございます!』


 転生することを告げると、女神さまは思いのほか喜んでくれた。なんでこんな喜んでくれるんだ?


『それなら特別に、生まれも才能が活かせる場所に転生させますね! 本来はあんまり特別扱いはしちゃダメなのですが……』


 女神さまの特別……! そう扱われた俺はさっきの疑問を忘れて、素直に喜んだ。才能を活かせるとなると貴族とかか? そうなら生まれは安泰だな。それに貴族なら可愛い子がたくさんいるだろうし、もしかしたら許嫁になったりとか!

 そんなことを考えつつ着々と転生の準備が進んでいって、あとは転生するだけになった。


「女神様ありがとうございました!」

『いえいえ、これも私の仕事ですから』


 そういって女神さまは微笑んだ。その顔を見て思わず赤面してしまったが、ばれてないといいけど。


『それでは、転生させます』


 そういえば女神さまの名前を聞くのを忘れていたな。そんなことを思いつつ俺の意識は薄れていった。




◇◇◇◇



「お疲れ様でした、先輩―」

「あら、ありがとう」


 ここはさっきの転生の間。そこでは木下還琉を転生させた神と、後輩と思われる神が話していた。


「それにしても先輩すごいっすね。あんな腐った魂をスムーズに転生させるなんて」


 木下還琉は自身が黒ずんでいることに気づいていなかったが、神からは腐って見えていた。


「まあね。ああいう魂のやつには好みの見た目に見えるようにしたりすれば、コロっということを聞くようになるのよ。あれからは優しそうな美女に見えたでしょうね」


 神は特定の姿をもたない。そもそも神と人間では見え方が違う。神は魂を見るが、人間は身体を見る。それに何もしなければ、神を見ることすらできないだろう。


「それにしてもよかったんすか?」

「なにが?」

「いや、特別な生まれに転生させるって言ってたじゃないっすか? それって貴族っすよね。貴族は倍率大変っすよ、それをあんな魂なんかに……」

「そんなこと言ってないわよ」


 そう返答されて、あれ? っと疑問に思う。たしか『生まれも才能が活かせる場所に転生』って言ってたような? 問うと思ってもいない答えが返ってきた。


「ああそれね。そもそも無限の魔力を活かせるなんて、貴族でも活かせないでしょう」

「それじゃあ、どこに転生させたんすか?」

「魔力炉よ」


 そう言われて、確かに活かせるなと後輩神は思った。魔力炉はホムンクルスが使われてるから、それに転生させたんだろう。


「いやー先輩、それはあれも勘違いしてますよ?」

「ちゃんと言った通りにしたし問題ないわよ。それにああいうタイプはこっちが下手に出ればつけあがるし」

「まあそうっすね」


 これまで見てきた転生者を思い出す。矮小な人間がなぜかこっちにいろいろ言ってくるのだ。それで天罰が下って、魂が消えた人間がいっぱいいる。


「まああんな腐ったのなんていいじゃない。それより次の仕事よ」

「それもそうっすね」


 そうして神は先ほどの転生者について忘れた。この先、木下還琉のことを思い出すことがないだろう。それに気にかけることもない。

 例え生体部品になって苦痛を味わい続けて、呪詛を吐きまくっていても気にしない。神とはそういう性質なのだから。

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