障害が発覚するまでの僕
星咲 紗和(ほしざき さわ)
本編
私は、成人するまで自分に障害があるとは思っていませんでした。普通に生活しているつもりで、学校や友人関係、そして将来のために専門学校に進学することも自然な流れだと思っていました。しかし、振り返ってみれば、常に何かが周りと違っていたことに気づいていました。それでも、それが「自分の問題」だと受け止めて、自分が何とかすればいいと考えていました。
小学校時代から、周りの子たちとは少し違うと感じられていたことがありました。先生の指示をすぐに理解できず、何度も聞き返すことがしばしばで、授業中も他の生徒が普通にこなす課題に苦労することが多かったのです。それでも、自分なりに頑張ってこなしているつもりでした。しかし、友達関係では無視されたり、時には「変わった子」として扱われることが増えていきました。自分の中では一生懸命なのに、なぜ周りと同じことができないのかがわからず、常に自己否定感と闘っていました。
中学に進んでからも状況はあまり変わりませんでした。何とかして周りに合わせようとしても、どうしても上手くいかない。特に、言葉がスムーズに出てこないことや、会話の流れにうまく乗れないことが多く、吃音が次第に目立つようになりました。何かを伝えたいのに、言葉が詰まる。そしてそのことで、周りの生徒から馬鹿にされたり、からかわれたりすることが増え、自信を失っていきました。このような経験から、ますます自分の殻に閉じこもるようになり、自分の言動が周囲とずれている理由もわからないまま、孤立感を深めていきました。
専門学校への進学は、私にとって将来の仕事に直結する技術を身につけるチャンスだと思っていました。学ぶこと自体は好きでしたし、知識を得ることには強い関心がありました。しかし、専門学校に進んでも、やはり周りとの違いは明らかでした。講義の内容を理解するスピードが遅く、先生の説明が頭に入ってくるまでに時間がかかることが多々ありました。また、手先を使った実技の課題も、他の生徒よりも時間がかかり、思うように進めることができませんでした。このような状況に自分自身で苛立ちを感じながらも、周囲のサポートを求める勇気が持てず、ますます孤独を感じていきました。
就職活動が始まると、さらに自分の「できなさ」が明らかになりました。面接で自分の強みを伝えることができず、話しているうちに言葉が詰まってしまったり、何を言いたいのか自分でもわからなくなることが頻繁にありました。企業からの不採用通知が続く中で、自分に何か大きな問題があるのではないかと感じ始めましたが、その問題が何なのか、どうすれば改善できるのかがわからず、焦燥感ばかりが募っていきました。
そんな時、相談員のアドバイスを受ける機会がありました。その相談員との面談で、初めて「発達障害」や「学習障害」という言葉を耳にしました。自分の苦しみや苦手な部分が、ただの個性や努力不足ではなく、実際に診断可能なものかもしれないという可能性に触れた時、驚きと共に不思議な納得感がありました。今まで抱えていた違和感や周りとのズレが、ようやく説明できるものになったからです。
専門医による検査を受けた結果、私は発達障害と学習障害、さらに吃音があることが診断されました。この診断を受けた時、私は意外なほど冷静で、抵抗感はありませんでした。むしろ、これまでの自分の生きづらさの原因がはっきりしたことに安堵を覚えました。それまで、自分がただの「できない人間」だと思い込んでいた部分が、実際には脳の機能の一部として説明できるものだとわかり、ようやく自分を理解できた気がしたのです。
一方、両親には障害者手帳の取得を反対されました。彼らにとって、私が「障害者」としてラベルを貼られることが受け入れがたかったのでしょう。しかし、相談員の協力もあって、最終的には両親を説得することができ、手帳を取得しました。この手帳は、私にとって自分の障害を正式に認めるための大切なステップであり、自分を守るためのツールにもなりました。
障害が発覚してからは、自分の限界を冷静に受け入れることができるようになりました。それまでの私は、何かができないと感じるたびに自己否定に陥り、周りと同じようにできない自分を責め続けてきました。しかし、診断を受けたことで、自分にはできることとできないことがあることを認め、それを踏まえて少しずつ自分のペースで前進することを学びました。役に立たないと思われていた知識も、今では自分自身の成長に役立つものであると感じられるようになり、学ぶことに対して積極的な姿勢を取り戻しました。
私は今、学習障害、発達障害、吃音という様々な障害を抱えていますが、無理をせず、自分にできる範囲で少しずつ歩みを進めています。過去の自分を振り返ると、周りとの違いに悩み、自分を否定してきた日々が多くありました。しかし、障害が発覚したことで、その違いを受け入れ、自己理解を深めることができました。今後も、自分の歩幅で進んでいきたいと思っています。
障害が発覚するまでの僕 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます