幽霊のオムライス!
崔 梨遙(再)
1話完結:1800字
レ〇ナ、15歳、不登校、親と不和、悩み多き美少女。日中、誰もいない家、自分しかいない2階の自室に、突然、見知らぬ男が現れた。まさに、突然、現れたのだ。レ〇ナは突然の男の出現に怯えた。一瞬、声が出なかった。すると、その怪しい男が口を開いた。
「君、レ〇ナさん? かわいいなー! っていうか幼いなぁ-!」
男はレ〇ナに抱きつこうとしたが、男の身体はレ〇ナの身体をすり抜けた。
「ああ、やっぱり触られへんか」
「あなた、何者なんですか?」
「僕? 崔梨遙(さい りよう)。未来から来た幽霊や」
「どうして、幽霊さんが未来から来たんですか?」
「レ〇ナさんのピンチやから、助けに来たんや」
「助けに来たのに、なんで抱きついて来たんですか-?」
「ごめん! かわいすぎて思わず抱きついてしまった」
「抱きつかないでください、15歳の普通の女の子に抱きつくって、ロリコンですか? 変態ですか? やめてください、警察を呼びますよ」
「僕は10年後の未来から来た幽霊なんや。肉体があったら、時間旅行は出来へんらしいわ。ちなみに、僕の知ってるレ〇ナさんは10年後のレ〇ナさん。10年後のレ〇ナさんは、立派な大人やで。僕はロリコンとちゃうで」
「とにかく、抱きつかないでください。ドキッとします」
「僕は10年後のレ〇ナさんの大ファンなんや。5~6年前、デビュー時の頃からファンやで。レ〇ナさんの15歳の姿がかわい過ぎて抱き締めたくなるねん」
「じゃあ、私は5年後にはデビュー、10年後には人気歌手になっているんですか?」
「うん、そやで。明るい未来が待ってると思ったら、生きていくのが楽になるやろ?」
「はい、夢みたいなお話です。私、お歌を歌って生きていけるんですね」
「そやで、明るい未来で良かったなぁ。ああ、また抱き締めたくなる、レ〇ナさーん!」
「キャッ!」
「やっぱりすり抜けるなぁ、つまらんわ」
「すり抜けなかったら私が困りますよ!」
「もう1回、試してみよう」
「嫌です」
「アカン、すり抜ける。握手して貰うことも出来へん」
「明るい未来を教えてくださり、ありがとうございました。もう、帰ってください」
「帰るけど、飯は食ったのか?」
「まだです」
「ほな、1階に降りよう」
「何も無いですね」
「ほな、僕が昼飯を作ったるわぁ」
崔が台所に立つ。フライパンなど、不慣れっぽいが扱う。
「フライパンとか、触れるんですか?」
「うん。命あるものには触られへんけど、命が宿ってないものには触れるねん」
「はい、どうぞ!」
形の悪いオムライスがレ〇ナの前に置かれた。
「形は悪いけど、味には自信があるねん」
「あ、本当に美味しい!」
「それは良かった」
「あ、オムライスと言えば、この前、母がお弁当にオムライスを作ってくれたんですけど、食べなかったらゴミ箱に捨てられていて切なかったです」
「そうか、それは切なかったやろなぁ。オムライスも、かわいい女の子に食べてほしかったやろけど。一度、オムライスの気持ちになってあげたら? ほんで、そやなぁ……ほな、仕事から疲れて帰って来た親のために、オムライスを作ってあげたら? 喜んでくれると思うで」
「わかりました、一度、作ってみます」
「レ〇ナさん、食べ終わった?」
「食べ終わりました」
「ほな、食後のハグ!」
崔はまたレ〇ナに抱きつこうとしてすり抜けた。
「何回、同じことを繰り返したら気がすむんですか?」
「でも、束の間やけど、悩みを忘れることが出来たやろ?」
「あ、確かに。バタバタしている間に、不登校のことも親と上手くいってないことも忘れていました」
「その程度のことやねん。練習すれば、悩みに向き合うことも、悩まないようにすることも出来るはずやで。僕がアホなことやってたら、気が紛れる程度の悩みや。人生にはアホなことも必要かもしれへん。何でも笑い飛ばそうや」
「そうなんですか? 練習します。今、ツライけど、乗り越えて見せます」
「よっしゃ! その調子や! ほな、ハグ-!」
「え?」
レ〇ナは崔にハグされた。今度は、崔に実体があった。しばらく、本当に抱き締め合った。
「これは……どういうことなんですか?」
「最後の力を振り絞ったんや。抱き締めて堪忍やで。ほな、僕は消えるから」
「あ……」
崔は光の粒となって消えた。
レ〇ナは、一筋だけ涙を流してから、親と自分のオムライスを作り始めた。その表情には、明るさと強さが戻っていた。
幽霊のオムライス! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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