SGS015 ラウラ先輩と風呂屋へ行く

 オレには何か特別な能力があるかもしれない。それを確かめる方法は……。


 そうだ、自分のステータスを見てみることだ。


 手渡された魔法便覧にその方法が書いてあるかも。そう思って、魔法便覧を開いてみたが暗くて読むことができない。


「あの、自分のステータスはどうやって確認すればいいんですか?」


「すてぇたす……。なんだ、そりゃ?」


「ええと、ほら。体力とか魔力とか、力の強さ、知力、素早さとか……。そういう能力を数値で確かめる方法がステータスですけど」


「そんな魔法は無いぞ」


「ステータスというのが無いとしても、とにかく自分の能力値を確かめる方法はありますよね? 例えば神殿に行けば教えてもらえるとか……」


「いや、知らないな。そんな話は聞いたこともないぞ」


 どうやらこの世界ではステータスを調べる方法は無いらしい。いや、そんなはずはない。少なくともラノベやゲームに定番のあれはあるはずだ。


「鑑定魔法はありますよね? もしかすると魔法じゃなくて、スキルかもしれませんけど。とにかく鑑定を使えば、自分の能力値を調べることができるのでは?」


「鑑定? いや、そんな魔法やスキルは無いぞ」


 本当だろうか。鑑定が無いとすれば、どうやってアイテムの価値を評価するんだろうか?


「じゃあ、例えば魔物を倒して毛皮を防具屋へ持ち込んだとすれば、防具屋の店主はどうやって毛皮の価値を見分けるんですか?」


「そりゃ、店主の知識と経験と勘だろうな。良し悪しを見分けるための眼力を養うってことだな」


 なるほど。鑑定魔法や鑑定スキルは無いらしい。副長が知らないだけかもしれないが。


「ええと、魔物や魔獣を倒したら、自分の体力や魔力、力の強さとか素早さとかが高まっていくはずですよね? それがどれくらい高まったのか測る方法があると思うんですけど?」


「おまえ、何か勘違いしているようだが、魔物や魔獣を倒しても体力や力の強さなんかが高まることは無いぞ。自分の体の能力を高めようと思うのなら、普段の鍛錬で体を鍛えるしかないな」


 なんと……。この世界は魔法はあるが、魔物や魔獣を倒しても体力や力の強さはアップしないらしい。ゲームやラノベとはちょっと違うようだ。しかし副長はさっき魔力については別のことを言っていた。


「ええと、魔力については高めることができるんですよね? ソウルオーブを装着するとか、魔獣や妖魔を倒してそのソウルをソウルオーブに封じ込めるとかの方法で」


「ああ、そうだな。それだけじゃないぞ。魔獣や妖魔を倒してそのソウルをソウルオーブに封じ込めることができれば、その後は魔獣や妖魔を倒せば少しだけだが魔力が高まるらしい。それを続ければ、魔力が少しずつ高まっていくそうだ。サレジ親方はそうやって魔力を高めていると言ってたぞ」


「なるほど。魔力だけは魔獣や妖魔を倒し続ければ高めることができるってことですね。それなら、魔力だけは調べる方法があるんじゃないですか?」


「うーん……。ああ、そう言えば、魔力だけは探知魔法で調べることができると聞いたことがあるな。自分の魔力も探知魔法で調べることができるらしい。だが探知魔法を使うには魔力が〈100〉以上必要だから、おれたちのような一般人には関係のない話だけどな」


 魔力を調べる方法があることは分かったが、副長の言うとおりだ。探知魔法を使えなければ、その方法が分かっても意味がない。


 魔力を高めるためには、まずソウルオーブを手に入れなきゃいけない。さらに、何らかの方法で魔獣か妖魔を倒して、そのソウルをソウルオーブに封じ込める。そして、その後も魔獣や妖魔を倒し続けることで魔力は高まっていくらしい。


 くそっ! ハードルが高すぎるぞ!


「魔力を高めるのは難しそうだから、今は頑張って体を鍛えるしかないってことですね……」


 ちょっとがっかりだ。ゲームやラノベの世界のように自分の能力ががんがん高まっていくことを期待していたのだが。


「体の鍛錬も大事だが、魔力を甘く見たらダメだぞ。魔力を高めることができれば、より高度な魔法を使うことができて強くなれるんだ。それに筋力強化や敏捷強化の魔法を発動しておけば常に身体能力は高まっている状態になるし、バリアの耐久度も高まる。魔力を高めるってことは、体の攻撃力を高めることもできるし、防御力を高めることもできるってことだ。魔力ってのは偉大なんだぞ」


 なるほど。ちょっとだけヤル気が出てきた。まずはどうにかしてソウルオーブを手に入れよう。


 ………………


 夜遅くまで魔法を教えてもらったお礼を言って、隊舎の中に入った。副長とは食堂で別れた。そこから部屋に戻る廊下は明かりが消えて真っ暗だった。廊下の明かり一つ灯すことができない。魔法を使えないことの情けなさが身にしみた。


 部屋の中も真っ暗だった。先輩たちのベッドはカーテンが閉まっていて、中に居るかどうかも分からない。オレはそっとベッドの上の段に上がって、毛布を被って目を閉じた。今は何も考えたくない……。


 ………………


 異世界3日目。そして女性になって3日目。


 考えてみれば、まだ3日目なんだ。くよくよするのはまだ早い。元気を出せ! 


 そう呟いて自分自身を励ましながら、朝食の準備、洗濯、掃除と済ませた。そこへラウラ先輩が来て「今から風呂屋へ行くからあんたも付いてくるのよ」と言われ、先輩と一緒に風呂屋へ行くことになった。


 普通の家には風呂は無くて、普段は水で髪を洗ったり、タオルで体を拭いたりするだけだ。それだけでは体の汚れが十分に取れないから、3日か4日くらいの間隔で風呂屋へ行くらしい。


 風呂屋へ行く途中、ラウラ先輩は急に立ち止ってオレのほうに振り向いた。


「忘れないうちに言っておく。明日から原野へ狩りに出ることになったから、あんたも参加するのよ。パーティーは五人。イルド副長とレンニ、スルホの男三人に、あたしとあんたよ」


 ラウラ先輩はオレの胸を指さしてオレを睨みつけた。


「あたしはあんたを狩りに連れて行きたくはない。なぜなら、あんたが狩りの素人で危険だからよ。でもね、隊長の命令だから連れていくしかないの。嫌だけど、あんたを原野で鍛えてあげる」


「ええっ! ムリですよ! 剣も魔法も使えないのに、わたしがどうやって狩りをするんですか? 自分が一緒に行ったら先輩たちの足を引っ張るだけです」


「そんなことはあたしも分かっている。だけどね、隊長の命令は原野でゴブリンを倒せるくらいまで鍛えろということだった。あんたも聞いたでしょ?」


「それは聞きましたけど、でも、やっぱりムリです。なんにもできないですから」


「なにも今回の狩りですぐにゴブリンを倒せとは言ってないでしょ。まずは、原野はどういうところかを知ること、狩りがどういうものかを知ること、今回の狩りではそこから始めるのよ。ゴブリンを倒すのはもっと訓練をしてから、その後よ。今のあんたでも獲物の解体くらいは手伝えるはずだし、ほかにもできることがあるから心配しないでいいわ。ただし原野に出るのだから絶対に気を緩めてはダメよ。分かったわね?」


「はい……、分かりました」


 すぐにゴブリンと戦わされるのかと心配したが、今の話でちょっと安心した。


 風呂屋は隊舎から歩いて5分くらいのところにあった。入口は一つだけで、男と女に分かれていない。


 えっ? 混浴なのかな?


 先輩に尋ねると時間帯で分かれているそうだ。


 今は女が入る時間帯らしい。でも、この前みたいに裸の女性に囲まれないか心配だ。また気が遠くなって自動操縦のような体になったらどうしよう……。


 風呂屋に入ってみると誰もいないようだ。お金はサレジ隊が1年分をまとめて支払っているそうで番台のような管理人もいない。


 ふぅー、誰もいなくてたすかった……。


 ラウラ先輩はとっとと服を脱いでお風呂に入って行った。オレもその後を追って中に入った。


 ここも蒸し風呂だ。どうやら風呂というのは蒸し風呂のことを言うみたいだ。湯気で霞んでよく見えないが石のベッドが30台くらい並んでいるようだ。先輩がどこで寝ているのか分からないが、オレは奥のほうのベッドに横になった。うつ伏せになって目を閉じる。


 暖かくて気持ちいいー。


 ………………


 どれくらい時間が経ったのだろうか。気が付くと周りでガヤガヤと話声がしている。入浴している人が増えてきたようだ。


 オレは目を閉じたままウトウトしていた。


「ケイ! おまえ、ケイだろ。なんでここにいるんだ?」


 え? 副長の声? ……って、副長がどうしてここにいるんだろ?


 目を開いて隣のベッドを見ると副長が座っていた。裸だ。タオルで股間は隠しているけど……。


「どうして副長がここにいるんです?」


「それはこっちのセリフだ。なんでおまえが風呂に入っているんだ? 今は男が入る時間帯だぞ」


「え?」


 気が付くと周りのベッドにいるのはみんな副長の部下で、見知った顔の男たちだ。みんな目をぎらつかせてオレのほうを見ている。


 あーっ!! オレは女! で、裸だったぁー!!

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