第3話 私2

やはり、草陰は落ち着く。

腰の袋に満足感を覚える。豊かな髪の、あの私から受け取った物が入っている。これはとても大事な物。守る物。しかし体はだるい。じっとしていたい。


風で草が揺れる。しばらく眠っていたようだ。腰の袋は少し小さくなって、身が軽い。

お腹が空いた。しっかりと空腹を感じる。袋の液体は私の食物ではないのだ。自分の食事を探しに行こう。

ふわりと飛び立つと、自分と同じ羽音が聞こえる。そちらに向かっていくと少し開けた空間に、自分達がいた。

同じ自分達が、ぶつかっては離れたり、くるくると宙を飛び回っている。どういう事だろう。

私も近寄っていくと、ぶつからんばかりに飛び込んで来る自分がいる。一瞬、顔が見合わせられる。何から何までそっくりな格好だ。多分顔も同じなのだろう。


弾き飛ばされるように避けると、そのままの勢いで漂う。

あそこにいるのは、みんな私と同じなのかな。

そんな疑問はすぐに忘れる。自分の空腹より強烈な衝動を感じたからだ。あちらに必要な物がある。

ひかれて向かった先には、黒いもの。黒い物は好きだ。降り立とうとするが、何故かふわふわして安定する場所がない。

そのまま横に移動して行くと、留まれる所にたどり着く。しかも温かく良い匂いがする。一気に衝動が高まり、先ほどの様に管を突き刺す。

しかし、刺さらない。なぜだ?その辺りを何度も刺そうとするが無理だった。混乱した私は一度飛び立った。


少し離れた所から、黒い物を見る。すると、もっと温かく美味しそうな匂いを発する場所がある。たまらずそこに取りつこうとすると、大きな弾かれる。しかし、このくらいは大丈夫だ。止まない衝動に再度近づくと、また弾かれるが、同じ動きで危険はない。

徐々に弾く動きは小さくなり、ついにそっと留まる事ができた。

ふわふわが少なく柔らかいので、管がとどく。体が勝手に管を操作していた。

食欲ではない今までに感じた事がない充実感に満たされていく。

腰についた袋が何倍にも膨らんでいき、中が赤く透けていた。

その間も、2本の長い紐は風の動きを感じてゆらめいている。


もう充分だ。そんな思いに気づき私は空に飛ぶ。長居は危険。早く安全な場所へ。


安心できる草陰を目指す。

と、ぐらりと体勢が傾く。いままで体が勝手に飛行していて、こんな事はなかった。進もうとしても無理だ。何事かと見れば、いつもひらめいている紐が何かに引っかかっている。


疲れて羽ばたきをやめると、そのままにぶら下がってしまう。困ったな。よく見ると、周りがキラキラしている。透明なロープが見えた。そこに手をかけて引っ張ればなんとかなるか。


手をかけた途端、ゾッと不快感が全身をはしる。とれない。手が動かない。

その時、ロープが小さな振動を伝えだした。

恐怖を感じだし、なんとか手が離れないかともがき羽ばたくが、ますます動けなくなっていく。そして、今まで影だと思っていた部分が、そのまま大きく迫ってくる。


なに?これは。

もう、自分がもがき暴れる動きか、ロープの振動が大きくなったのかわからない。

影から現れた大きなソレは、私を確認するように腕を伸ばす。

触れた。一瞬でソレは判断した。


私の目の前は白くなった。

クルクルと私の体は回され、ギシギシと細く包まれていく。キラキラと透明なロープも重なる事に不透明になっていく。なす術もなく回転していく景色。これは終わりなのか。

最後に私達が飛び回るのが見えた。


大丈夫、私が死んでも私がいる。


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