神童と言われていた彼

@matunoko

神童と言われていた彼

同級生に神童と呼ばれている人がいた。

その人とは小学校から高校まで一緒だったが、小学生の頃の彼はとても凄かった。テストはいつも満点、学校で習うことはつまらないというふうに授業中はだるそうなものの、当てられたらするするといてしまう、雑学的な知識も沢山持っていて、彼はあまり人付き合いが得意ではなかったみたいだが、クラスの人気者でヒーローだった。


中学生になるとみんなの輪には馴染めなくなったようで1人で本を読んでることが多くなった。だるげに受けていた授業は当てられたら完璧な答えを返すのはもちろん、英語は苦手だったみたいで英語の授業だけは真面目に聞いていて少し同世代感を感じられて好感が持てたものだ。ただ、弱いのはのは英語だけで、テストでは英語以外ほぼ満点で、英語は平均より少し上ぐらいにも関わらず総合順位ではいつも上位争いをしていた。


高校に上がってからは、少し変わって、化学や地理、物理や数学などの理系科目に興味が出てきたのか授業中もしっかり話を聞いてて授業後に先生に質問をしに行ったりしていた。それ以外の教科も人並みに授業を聞くようになり、相変わらず成績は上位をキープしていたが、私の中では小学生の頃の神童というイメージよりも親しみやすい雰囲気になって、1人で本を読んでる彼にこの頃からよく話しかけるようになった。


3年生になり受験をめざして授業のレベルが上がると、必死に勉強をしてやっとで総合順位が同じくらいにまで追いつき、一緒に勉強をするようになった。彼には理系科目をよく教えてもらい、私は文系科目を教えていた。


そんなふうに頑張っていたが、ある時信じられない話を聞いたのだ。彼はこんなにも頭がいいのに進学はせずに高卒で働くというのだ。漠然と大学も同じところに行きたいと考えていた私は、戸惑い理由を聞いてみた。

彼は、

「僕は勉強ができるだけで勉強が得意な訳では無いんだ。ずっと勉強を頑張れる君のような人にはいつかは越えられる平凡な人間なんだよ。」

私は「そんなことは無い!頑張ればやれるよ!」

と彼に言った。心の中ではまだ彼にはなんでも出来るヒーローでいて欲しかったのかもしれない。しかし彼の言ったように、受験勉強が大詰めを迎える二学期後半になると、彼は普通の学生になっていた。彼の言葉通りなら、勉強が得意な私のような学生が成績を上げ、できるだけで得意では無い彼は上がりも下がりもしなかったのだろう。相変わらず理系科目だけは教えて貰っていたが、それも応用問題になると一緒に考えることが増えた。今までは英語や国語を教えていたが、受験生の私を気遣ってなのか聞いてくることがなくなり、彼は昔のように1人で読者をしていることが増えた。


そうして、卒業の頃になると私は目標の大学に進学、彼は地元に残り、実家の農業を次ぐことにしたそうだ。卒業式の時に一緒に写真を撮り、こっちに帰ってくることがあればご飯でもいこう、と社交辞令のような言葉を交わしあった。彼の別れ際があっさりすぎてすぐ忘れられそうだなと思った。


それから月日がたち、成人式の時彼は日焼けしてすっかり農家のお兄さんという風貌になっていた。小さい頃神童と呼ばれるような人でも、彼のように大人になったら普通の人になるのかもしれない。そう思いながら、会場の片隅に立っている彼の方に手を振りながら近づいて行った。彼は最初学生の頃と違い化粧もしてオシャレになった私に見とれたのか固まっていたが、控えめに手を振り返してきた。そういう控えめなところは小学校から変わってないな。

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