migawari

雛形 絢尊

第1話

ワンボックカーのスライドドアが力強く開く、

そのうちの1人が急かすように手招きをする。


何も知らなかったじゃ済まされないんだよ

と私ははい、はい、と頷く。薄暗い取調室。

胸元のネクタイが揺れているのを見る。


今月も未払いの税金催促状の封筒が届いた。

乱雑にこれを開封し、ため息をひとつ。


「来い、来い」と彼はとにかく急いでいた。

とても焦っていた。

私は監視員のアルバイトに来たのだ。

慌てて車のスライドドアを閉める。


こそこそと警察官の声が聞こえる。

恐らく、上の話だろう。

警官が再びこちらへ来る。

私は少し背を伸ばした。


何のためのお金なのか、

何のためにこうして働いているのか。

私はその時多く、考えた。

このままだと本当に、

本当に底を尽きてしまう。

もっと

もっと働かないと、出来れば

たくさん手に入るところで。


彼は急げ急げと声を上げる。

まだ何も聞かされてない。

それでもこっちだこっちだと、

彼は私を確認しながら目的地へと進む。


「君と一緒にいた人物は何処に隠れている?」

私はわからないと答えた。

んんと溜め息混じりに警察官は言う。

「じゃあ少し変えよう。なんて言って脅された?」


彼を必死で追う。

追って追って追いかける。

ここだ、と彼は言う。

目的地の一軒家だ。

私は何もせずに立ち止まり、

その家の様子を伺う。

「早く。お前逃げたらわかってるんだろうな」

そう言われ、

私は身体に稲妻のようなものが走った。

「お前の家も家族も諸共」

私は言われるがままに前に進む。


「なるほどな、具体的にはどう、

そうなんて言うか

何をされると?」

黙ったまま、私は首を傾げる。

「そうか、大体のことが分かった」


窓を必死にバールのようなもので割る。

一回、二回と力強く。

亀裂が蜘蛛の巣のように広がる。

何をやっているんですか、

と声を出しそうになった。

私はどうすることもできず慌てふためく。

中から少量の悲鳴が聞こえる。

がしゃんと諸共ガラスはその場から消えた。

押し入るように彼は自宅の中へ入る。

私もいつの間にか足を進めていた。


70代の老婆だ。

彼は躊躇なくバールで殴る。

流れているテレビの音が遠く聞こえる。

私は口を開けたまま立ち尽くす。

「早く、早く金目のものを」

ハッとなった私は取り乱すように辺りを見る。

いろんな場所を目で確認する。

彼を見ると箪笥の中身を投げるように出し、

金品を探す。

何をしているんだ、

こんなことをして何になる。

なんて思い始めたら私は

どうにでもなれと思った。


「それで現場から逃げ出した」

そうです、と私は言った。

少し沈黙した後に警察官は私に言った。

「まだ引き返せてよかった」

私は恐る恐る聞いた。

「あの女性は、無事なんでしょうか」

「命に別状はない」

私は安心してため息をついた。

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