チートと聖剣を剥奪された元勇者はそれでもバグみたいな強さでした

黒淵カカ

プロローグ①

 この世界に生を受けて15年、自分の頭の中に全く異なる日本人男性としての記憶が芽生えて俺の中にある超常の力を自覚して10年。山奥のド田舎にある村に生まれた俺ことフェルノ・デザイアには今現在、世界単位で考えて唯一無二の重大な使命を背負っている。


 魔王及び率いられている魔王軍の討伐。


 突然生えて来た自分が勇者であるという自覚に勇者であることを証明するかの如く生えて来た聖痕。そしてそれを目撃したシスターが騒いだことで発覚した勇者の誕生と魔王を殺さなければならないという使命の発生。態々山奥にまで入ってきた国の騎士に教会の使者たちに迎えられて、正式に勇者であると認められて大々的に公表されることになった結果…俺は目覚めたのか誕生したのかよく分からない魔王とそれに付き従う魔王軍を名乗る魔物と魔族を討伐するという使命を与えられて、三人の仲間と一本の聖剣だけを持たされて魔王討伐の旅に出発させられた。


 はっきり言って、クソだった。勇者としての外面を意識しろなんて言われてなければ、多分その場で命令してきた王様の顔面に唾を吐き捨てて暴れてたわ。

 何がクソかって一方的な命令で支援が一切ないこともそうだし、何処に魔王がいて魔王軍がいるのかの情報すらないのもクソだった。なによりも選ばれた仲間だとか言われて連れて来られた三人が最悪だった。勇者になって仲間と旅をしてもらうってなった時は見目麗しい女性と旅が出来るといいなって、むさ苦しい男はいらないなって思ってたけど……むさ苦しい男でもいいから役に立つならそれでいいと思ってるよ今になっては。



 まず聖女のエリフィア・オーズ。教会から選抜された最も新しくて最も優秀であるとかいう俺と同い年の少女、心優しい性格をしていて怪我している人を見捨てられない乙女……らしいが俺にとっては遠く離れた場所にいる幼馴染をどんな時でも想い続けていて、戦闘中に聖女としての魔法を使わないどころか俺が死にかけの重症を負っても治療のちの字も出さないで佇んでるお荷物その1。旅を始めてから1年間なんとか仲良くなって最低限の働きはしてもらおうと思ったが、碌に話を聞こうとしないわ方針について話そうとしても教会で祈ってくるなんて馬鹿みたいなことしか言わない。今でも鮮明に思い出せる、魔王軍の十三の最高幹部だとかいう奴らの最初の一匹だったゴーレムを死に掛けながら殺し切った後。傷の一切を治して貰えなかったからポーションと包帯で無理矢理傷を抑え込んだ翌日に流石にこの状態で魔王は殺せないから話し合おうって言いに行ったら、


『……祈りに行ってきます』


 だぜ? 俺の治療を手伝ってくれた宿屋の主人と一緒になって絶句したわ。治療をする訳でもなく、意見を述べるのでもなく、ただ祈りに行ってくるとしか言わなかったんだぜ? しかも向けてきた目は仲間に向ける目でも、怪我人に向ける目でも無かったな。結局無理して動いて傷口が開いた俺を治療院に運んで傷の手当てに協力してくれたのは宿屋の主人とゴーレムに狙われていた街の市長を筆頭にした街の住人たちだったわ。なんなら同情してポーションとか塗り薬とかを工面しようとしてくれたわ、流石に治療までしてもらった上で受け取れないし復興とか街の周辺の魔物を狩る時とかに使うだろうから断ったけど。



 それで次は賢者のトリニカ・キアニース。見た目は幼い少女のように見えるがその実年齢は三桁を裕に超えている女、思慮深くて魔法の技術も並ぶ者がいない程に優れている非常に優秀な人材……なんてことを聞いたがこいつが付けられた仲間の中で一番クソだしカス。まず出会った時点で俺に対して疑いの目を向けてくるし、俺のことを仲間だと思う気はないとか言ってきやがった。その上で勝手に動いて事態を大きくして被害が拡大しそうになったら押し付けて来ては俺がさっさと動かないからこうなったなんて平然と言い放つとんでもない奴。それでも選ばれた仲間だったし協力しなければならないなんてのは理解していたから分かり合おうと一年以上頑張ったが、結果は全部無駄だった。話しかければ二言目には信用出来ない、邪魔、嫌い、消えてくれ……まぁ率直に言って命を預け合う仲間に対して向ける言動じゃなかったな。相容れられなかったしそうしようとする事自体を完全に止めたのは五匹目の黄金のドラゴンの時だ。襲われていた街を救うためにドラゴンが率いていた魔物を俺たちが倒していた間、その間に一人で喧嘩を売りに行って逆鱗を攻撃してキレさせたドラゴンを街まで引っ張って来て街に被害を出そうとしやがった。結局最終的に俺が対峙する羽目になってズタボロになりながら倒した直後だ、俺が声を張り上げて今後一切こんあ馬鹿なことは止めろと言った瞬間に


『うるさい』


 そういって俺に向けて魔法をぶつけて来やがった。傷だらけで避けられないし、そもそも避ければその時俺に寄って来てくれていた街の住民が犠牲になるから受け止めた。受け止めたんだが、そのあと一切の謝罪もなしに平然と街の崩れた倉庫を漁って物資を奪い去って聖女を連れて何処かに行きやがった。俺はその前に負荷に負荷が重なって意識を落として十日に渡って生死の境を彷徨う羽目になっていたから気付けなかったんだがな。気付いた時というか目覚めた時には移動用に貰った馬車ごと聖女と賢者が何処かに行った、なんて話を街を含めた周辺を統治している領主から聞いたんだが。ドラゴン討伐のお礼をすると言ってきてくれたし、復興に尽力していた街の住民もお礼がしたいと言ってきてくれたんだが、協力もしなければ殺しに来るような奴でも名義上は仲間である奴が危険を引き寄せて火事場泥棒までしたという事実は覆らないといって断ったんだが。



 それで最後は聖騎士のファナ・ファリティア。俺の二つ年上で女でありながら苛烈で強靭な剣技を身に付けた騎士団団長の娘にして次期団長候補の女性、救える命は全てを救うなんていう高尚な主義を掲げて実際に悪人ですらボコボコにはしても生かすのだが……どうしようもないまでに脳筋というか馬鹿なんだ。先に言った二人に比べれば役に立つし戦いになれば一緒に戦ってくれるし、腕が千切れてその治療に時間が掛かるといえばその間の時間を稼いでくれるくらいには協力してくれる。だがそれ以上に救いようがない程に馬鹿なんだ、泣いている子供を模した疑似餌を生やした魔物には確実に引っかかる、見えないように隠された罠は確実に踏み抜く、近寄らなければ大丈夫な植物型魔物には勇んで近寄って行ってそのまま拘束される……思い出しただけでも頭が痛くなる。


『てめぇ! 何度言ったら分かるんだよこの馬鹿!』

『だって、子供が泣いてるんだぞ!!』

『毒沼に浸かりながら泣くガキが何処にいるんだこの馬鹿!!』

『いたぞ!!』

『誰だよ!?』

『私だ!!』

『ふざけんじゃねぇ!!!』


『おい、罠に気を付けろ。隠されてるぞ』

『あぁ...すまない、助けてくれ』

『………おい』

『見えないんだ、仕方ないだろう?』

『俺が先導してるんだからその後ろ歩けばいいだろうが!!』

『お前の後ろを歩いていろ!? 貴様、男尊女卑する気か!?』

『ちげぇよ馬鹿! 安全性の話だよこの馬鹿!』


『おい、近づくなよ。蔓に捕まって引きずり込まれるぞ』

『私を何だと思っている? この程度簡単に引き千切って、うわぁぁ!!!』

『おいごら、この馬鹿!! テメェの装備安くねぇんだぞ!!!』

『私の心配はどうした!?』

『ベヒーモスに轢かれて無傷な奴を心配する気にはなれねぇ!!!』

『なにぃ!?』

『なにぃ!? じゃねぇよ!! さっさと引き千切りやがれ!!』

『……絡まった、動けん!!』

『はぁ?』


 ………ダメだ、頭と胃が痛くなってきた。

 碌に動こうとしないし仲良くなろうともしない聖女と賢者に比べれば遥かにマシではあるんだが……悩みの種が過ぎる。ハーネスでも取り付けて動かないように繋ごうかと何度も思ったが、そんなことをすれば繋いでいる俺の腕が引っこ抜けるだろうしそれに此奴に関しては実家の力が強い。そんなことをすれば一発で目を付けられて家族総出で俺の命を狙ってくるぐらいには家族愛が強いし物理的にも強いし権力も強い。

 とはいえ暴走さえしなければ何も起こさないし、暴走する前に話し掛けたり命令すれば言うことを聞いてくれる時はあるから十分ではある。ギルドで依頼を受けて金策をして旅の路銀を確保するために動こうとしてくれる優しさもある、請け負って来る依頼が死ぬほど面倒だしなんなら罠だったりする時も多いがその優しさが染みる時は少なからずある。それはそれとして街に配備されている騎士の連中はこいつの性格と知能を知っているから同情してくれるし、俺が重傷を負って寝込んでいる時は暴走しかけているこいつの面倒を見てくれたりしているから助かる事が多い。



 総じて、俺の勇者としての旅はゴミカスみたいなものである。少なくとも酒場の吟遊詩人から聞けるような素敵な旅ではないし、なんならこっちの命を平然と狙ってくるようなやばい奴がいるからまともではない。正直な話切り捨てて一人で戦った方が遥かに楽に旅が出来る気がするんだが……聖女は教会、賢者は魔法連合、聖騎士は王国とそれぞれ後ろに一人じゃ立ち向かえないようなデカい組織が付いてるし、この三人が仲間だと言って選んだのは聖剣を作った神だからどうしようもない。なんなら切り捨てた瞬間に悪評が広まって支援も受けられない孤立無援状態で戦う羽目になるから三人揃えたまま切り捨てないで戦わなければならない。



 ん? なんで、今こんなことを思い出しているのかって?


「フェルノ・デザイア。貴様は本来あるべき勇者の運命を横から掠め取った大罪人である、賢者の調査に聖女の祈祷を持って貴様を断罪せねばならん」


 魔王軍幹部の最強を自称してた時間を止めて来る男を殺した直後、聖女と賢者が気弱そうな雰囲気の男を間に挟みながら神々しい光を背負っている天使を連れて来て、その天使がそんな言葉を傷塗れの俺に突き付けてきたからだな。

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