6.この世界の神。







「その、天道さん。……神様、というのは?」

「信じられないとは思うが、この世界には本当の意味での神がいるんだ。つまり世界の創造主であり、悪魔たちを葬るための存在だな」

「あー……そういう、設定?」

「いいや――うん、そうだな。一度、お話してみると良い」



 そんなわけで、俺は天道隊長に連れられて暗い通路を進む。

 本部の外れから繋がる洞窟の中。陽の光もあまり差し込まない場所ではあったが、不思議なことに圧迫感のようなものはなかった。

 俗にいうところの『神聖な場所』ということだろうか。

 そんなカルト的な思考は嫌いなのだけど、これはゲームなのだと切り替えた。



「この世界の神は、創世時から悪魔と戦い続けている。私たち人間は、そんな悪魔からの侵略を阻止するために生み出された生命なんだ」

「ほへぇ……」



 美形な生徒会長然とした彼女が真剣に語ると、どこかシュールにも思える。もっとも、それがこの世界における常識なのだから仕方ないけど。

 俺は周囲の暗がりを眺め、そして――。



「んー……?」



 ふと、どこか既視感を覚えた時だった。



「お見えになられたぞ」



 天道隊長が言う。

 他よりも一層に深い闇の中から、淡い輝きが沸き上がってきたのは。

 それは人の形をしておらず、されども実体がないわけでもない。いうなれば光そのものであって、すべての始まりのように思えた。

 少なくとも、この世界はここから生まれたのだろう――と。



『――あぁ、美鶴。よく彼を案内してくれたね』



 光、すなわち神は隊長に優しく語り掛ける。

 美鶴というのは、おそらく彼女の名前だ。神様に名前を呼ばれた天道隊長は、恭しく頭を垂れる。そんな様子に光は、また静かにこう言った。



『あぁ、そんなに畏まらないでくれ。僕の愛しい娘』

「ありがとうございます」



 それに対し、少女はゆっくりと面を上げる。

 神はそのことに満足したのか、まるで頷いているようにして続けた。



『それでは、本題に入ろうか。――君が、近衛真人くん……だね?』

「え、はい……そうですけど」



 名前は最初に登録しているし、知られていてもおかしくないか。

 そう思っていると、光は信じられないことを語った。



『私立岩戸高校の二年生で、クラスは2-C。席は窓際の後ろから二番目だね』

「え、なんでそれを……!?」

『ははは。僕は君のことなら、何でも知っているよ。それこそ、君自身の知らないこともね』

「…………」



 それは現時点で、俺しか知り得ない情報。

 もし他にいるとすれば、それは本物の神しかあり得なかった。しかも相手はそれ以外にも、多くを知っているような口振りでもある。

 そのことに俺は気味の悪さすら覚えるが、隣の天道隊長は真剣な顔で言った。



「驚いただろう? このようなこと、普通ではあり得ない」

「……たしかに。これは、本物と思わざるを得ないかも」

『おや、もしかしたら怖がらせてしまったかな』



 彼女と言葉を交わす俺の心情を察したか。

 光は冗談めかしたように言うと、しかしすぐに真剣な声色になって続けた。



『だけど、だからこそ僕たちには君の力が必要なんだよ』

「え……?」

『言っただろ? 僕は、君以上に君のことを知っている。だから――』




 それは予想だにしない言葉。

 俺はきっと、呆気に取られて間抜けな表情をしていただろう。



 でも、仕方ないだろう。

 なぜなら――。




『僕からお願いするよ。君には、この世界の――救世主になってほしい』




 そんな馬鹿げたこと、考えるはずもなかったから。



 

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