かたつむりの観光客3

 ずんぐりとしたキャンピングカーが一台、舗装されてすらいない荒野の一本道を走っていた。

戦前には世界中の道路がアスファルトで綺麗に舗装されていたらしいが、今では舗装されている道路は都市部以外で見かける事は珍しく、街から一歩外に出ればセカイ中こんなものだ。

というか道があるだけだいぶマシですらある。

ハンドルを握っているスゥの後ろはキャビンになっており、車の見た目よりは若干広く感じる程度ではあるが、現実的なレベルで走行中の快適さを最大化している空間といえるだろう。

そこではプリデールが走行中の車のリズムに揺られてながら、一人静かに寛いでいた。

二人が今こうして一緒に居るという事は、つまり結局スゥがプリデールの依頼を受けたのだろう。

今回の二人旅で大陸を一周する旅にあたってスゥが用意した車は戦前に欧州と呼ばれていた地域の自動車メーカー、シェリペ製の自走式キャンピングカーS・カーゴだった。

ずんぐりとした愛嬌を感じさせる特徴的なフォルムは、かたつむりをイメージしてデザインされたらしい。

ざっくりと性能を説明すると値段が手頃で頑丈、馬力があって悪路に強いが遅い……といった所だ。

後に償いの日と呼ばれている大厄災によって、地球規模の地殻変動が発生した今のセカイには、まだまだ生活インフラが整ってない地域が多いというのもあって、スゥはこの車を選んだ。


・・・


 車内の二人は静かだ。

スゥは黙って運転してるし、プリデールもキャビンのソファで静かに本を読んでいる。

ブックカバーがかけてあるので、なんの本を読んでいるのかはわからない。

毒にも薬にもならない様な事を淡々と流し続けるラジオの音声が空々しい。

お互いに会話は無かったが、それは別に気まずい沈黙という訳でも無く、例えるなら電車の中の様な静けさに似ていた。

そこに居る二人共がそれ以上を望んでいないから気まずさを感じないという訳だ。

その沈黙を破ったのは外から聞こえてきた……おそらくは改造してるであろうバイクのエンジン音の群れだ。

車が岩の多い地形に入ったあたりから、バイクが一台、また一台と岩陰から飛び出しては二人の車に対して併走し始めたのだ。

そうこうしている内に車は改造バイクやらジープやらに取り囲まれてしまっいた。


「オォイ!そこの車ァ!止まれェ!」


 運転席に併走しているガラの悪い男がスゥを威嚇する……どうみても野盗だった。

七大都市という巨大な街はあれど、その他の地域が全て無法地帯となってしまっている今では、こういった輩も珍しくない。

野盗達は手際よく車の前後を自分達の車両で囲い込んで、あっという間に逃げ道を塞いでしまった。

しかしスゥは大して慌てた様子も無く、野盗達の要求通り車を停める事にした。

そもそも二人の乗っているS・カーゴでは彼等を振り切れないだろうし、何より車を壊されてしまう方が困る。


「はぁ~……ある程度覚悟はしてたが、のっけからこれかよ」


スゥは大きくため息をついた。


「プリデールさんよ、あんた戦えるのかい?まさか付き人に護衛まで含まれてるとか言わないよな?まあ金を受け取った手前、やれと言われりゃやるが……アタシ一人ならともかく、この数からアンタを護りながら戦うのは流石に限界があるぜ?」


一方のプリデールは周囲の状況にまるで興味が無いらしく、涼しい顔で本に視線を落としたままの状態でスゥに応えた。


「えぇ、私は大丈夫よ。貴方は自分の身の安全を最優先に考えて行動してちょうだい……それより何でも屋さん?貴方の方こそ大丈夫なんでしょうね?」

「見くびってもらっちゃ困る……というかこの手の仕事の方が慣れてる位さ」


 プリデールの話を聞いたスゥは、それなら楽勝だといった風に不敵な笑みを浮かべる。

それから大きく背伸びをして運転で固まった体をほぐした。


「んん~!そんじゃ軽~い運動でもしますかね……っと!」

「……」


プリデールも区切りがいいところまで読み終えたのか、本に栞を挟んでパタンと閉じると、そのままティーカップの隣に置いて席を立つ。

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