第4話「王子様」

「ああ……生徒会に、興味があるんだ?」


 昼休みの食堂帰りを捕まえて、目的の言葉をいの一番に私が言い終わると、ジョヴァンニが不思議そうに首を傾げた。


「はいっ」


 良かった……! 一言目からだと、目的の言葉が言えた。


「君って最近レオと良く一緒に居る一年生だよね? あいつは生徒会には居ないけど、良いの?」


 優雅に微笑むジョヴァンニに思わぬことを聞かれて、私は目を見開いた。


 それは確かに……何もかもその通りなんだけど、生徒会長で王子様であるジョヴァンニが、私のことなんて気にするとは思えなくて……そうだよね。


 けれど、その前にはレオナルドだって、私のことは動きが不自然だと思っていたから協力してくれようとしているはずなのだ。


 レオナルドとたまに行動を共にしている私を、同じ学年のジョヴァンニが見ていてもおかしくないかもしれない。


 しかも、彼らの口ぶりからジョヴァンニはレオナルドと、かなり仲も良さそうだ。


 彼が女の子と共に居るところを見て、気になっていてもおかしくないはずだ。


「そっ……それは」


 そうなんです。そうなんですけど、まさかこんな事を聞かれるなんて思っていなくてっ……!


「いや……僕は別に良いんだけど、君って……レオの事を、好きなんじゃないの?」


 ジョヴァンニに確認された時、私は何も言えなかった。


 全くもってそれは図星だし、彼の言い方が完全に確信している。断定していると言っても良いかもしれない。


 ジョヴァンニ……そう言えば、一番簡単なヒーローだけあって、ヒロインの気持ちをこっちから伝えなくてもわかってくれる、エスパー並みの察しの良い男性だったかもしれない。


 だって、乙女の夢ってそういうことだよね。自分だってわからなくなる本音を先回りしてわかってくれて、包み込んでくれるように愛してくれる。


 これって、本当に正統派溺愛ヒーローだ……。


「……あの、わかります?」


 上目遣いで私が聞いたら、ジョヴァンニは呆れたように、小さくため息をついて頷いた。


「周囲から見たら、何となくわかる程度だけどね……もしかして、レオに僕のことを好きだと勘違いされている……言えなくて、恋愛相談に乗ってもらっているということ?」


「わっ……わかります?」


 察しが良すぎて、怖いっ……まるで、私の事を全部知られているみたいなんだけど!?


 再度私が同じ質問を繰り返せば、ジョヴァンニは苦笑した。


「いやいや、ここまでの話の流れで、それがわからない方がおかしいよね」


「その通り過ぎます」


「そっか……レオが好きだけど、僕の事が好きだと誤解されて、彼に協力してもらっているんだね。どうして、レオが好きだと、本当のことを言わないの?」


 最重要なその点、ジョヴァンニは、やはり不思議に思ったようだ。


 そうだよね。私自身だって、自分がよくわからないことになってしまっているという自覚はある。


 抜け出したくても抜け出せない、出口のない迷路に入り込んでしまったようなものだ。


「あの、実は私は相手が恋愛対象だと思うと、尋常ではないくらいに緊張してしまいまして……こうして、ただの相談をしていると思うと大丈夫なんですけど……さっきまでは、何を話して良いかわからなかったんです」


 そうなのだ。こうしてジョヴァンニと何の緊張もせず話せているのは、今は好感度などまったく気にせず恋愛対象外だと思えているからだと思う。


「へえ。そうなんだ……続けて」


「これまでに何度もブルゴーニュ会長にも不自然な姿をお見せしてしまったのは、そのせいなんです」


「いや。不自然とは思わないけど、どうしたのかなと気になってはいたかな……」


 私を傷つけないように配慮して言葉を選ぶように、ジョヴァンニは言った。


「恋愛対象だから、好かれたい頑張らないとと思うと、おかしなことをしてしまう自覚があって、逃げ出したくなるんです。だから、レオナルド先輩にも相談だと思うと、緊張せずに話せるんですけど……これを言い出すことが出来なくて」


 私は今ある困った状況を、優しく促されてジョヴァンニに説明した。


 ジョヴァンニはふむふむと相槌を打ち、話を聞き終わると、顎に手を当てて少々悩んでいるようだ。


「……レオは、おそらく君のことが、好きなのではないかな?」


 唐突に彼が発した言葉を聞いて、私は驚いた。


「そっ! そんな! そんな事はありません。だって、レオナルド先輩は私に恋愛指導してくれているんですよ!?」


 それは絶対にあり得ないと、私は何度も首を横に振った。


「だって、どうでも良い女の子に、そんなことをするだろうか。時間を使って恋愛相談を受けている時点で、レオ側にそれなりに好意があるという証拠ではないかな?」


 ジョヴァンニに冷静に問われて、私も落ち着いて考えた。


「レオナルド先輩が……私に、好意がある、ですか?」


 それっぽい事は、言われたことはない。いつも、ジョヴァンニに近づけるように応援してくれているだけだった。


 ……とはいえ、レオナルドルートだって存在している訳だから、ヒロインリンゼイが、完全に恋愛対象外であるとは言えない。


 なんと言っても転生したと気がついた時、鏡を見てびっくりしてしまうくらい、リンゼイは可憐で可愛らしい容姿なのだ。


 ピンク髪に水色の瞳。出るべき箇所は出て、きゅっとくびれたお腹、均整の取れたスタイル。


 乙女の夢を過重量ほど積載した、乙女ゲーム『ここたた』なので、ヒロインリンゼイの外見が可愛いことは、当然のことではあるのかもしれない。


 中身はモテなかった記憶しかない現代成人女性であるとしても。

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